色々あったけど、無事に解決した……と見せかけて――

 そして、翌日……


「いや~、一時はどうなることかと思いましたが、何事もなく解決してよかったですね!」


「本当に、ありがとうございます。皆さんに相談していなかったら、どうなっていたことか……」


「不幸中の幸い、ってやつだったわね。薫子さんたちがすぐに動いてくれて助かったわ」


 スイたち二期生五人は、昨日の『公式タグ付け成人向けイラスト投稿事件』について、事後報告的な感じで話をしていた。

 炎上が発覚した時の張りつめた緊張から一変したのんびりとした穏やかな雰囲気の中で話をする五人は、しみじみとこういった事件の最適解について語っていく。


「やっぱりこういう時は公式からの声明が一番無難なんだね~……特に荒れもしないで、ぴたっと騒動が治まったよ~」


「三瓶さんの初動が良かったっていうのもあるとは思いますけどね。でもやっぱり、特定の誰かがって話になると角が立つでしょうし、事務所がファン全体に呼び掛けてくれるのが一番安定するっていうか、そんな感じでした」


「五人で薫子さんに連絡取った甲斐があったわね。一晩で声明考えてくれて助かったわ」


「あとはまあ、イラストを投稿した人もすぐに謝罪したのもデカかったですよ。妙に粘ったりだとか、知らぬ存ぜぬで通そうとすると延焼しますし、これが一番傷が浅く済む道でしたから」


 あの後、件のイラストを投稿したアカウントの持ち主は、素直に自分の配慮不足を詫びる謝罪文を投稿した。

 それだけでリアのファンが納得するはずもなく、少なからず叩かれる羽目にはなってしまったが……それでも、その失態をフォローするリアの呼びかけのお陰もあってか、随分と炎上具合は楽なものになったらしい。


 そして翌朝、事態を把握した薫子が緊急で話し合いを行うと共に、アクエリスナーだけでなく箱推しのファン全体に向けて今一度注意を促すための声明文を発表した。

 曰く、所属タレントが見て不快になる可能性があるイラストは、配慮を以てネット上に投稿してほしいということ。

 伏字や隠語、あるいはモデルとなったVtuber本人をブロックした上で発表し、その際にも望まない人の目につかぬよう、最大限の注意を払ってほしいということ。


 羊坂芽衣ストーカー事件や蛇道枢のタケリタケ事件といった、推したちが巻き込まれた性的な部分に関してのトラブルに覚えがあるファン一同は、それを受けて再度自分たちの振る舞いを考え直すことを約束した。

 その上で、そういったイラスト及び漫画、小説等を発表することに関しては自由であることを明記し、ただ投稿しているだけの人々を叩かぬよう注意を促しもしてくれた声明文のお陰で、どうにか被害は最小限に食い止められたようだ。


「まったく、本人に悪気はなかったとはいえ、ちょっと考えればわかることでしょうに。ファンの炎上をタレント側が尻拭いするだなんてのは、これっきりにしてほしいわね」


「そうっすね。今回の件も運よく鎮火できただけであって、下手をすれば他の事務所とか界隈にも影響を及ぼしかねない事態に発展してたかもしれないわけですし……」


「難しいよね。愛を持って応援してくれてるからこそ、あんなことになっちゃったって考えると、責めるのは酷だしさ」


「でもやっぱり、その辺に関しては応援してくれるみんなにもしっかり言わないとダメなんだろうね。ファンはタレントの鏡っていうしさ、私たちの印象が悪くなるだけならまだしも、Vtuberのファン全体が悪く思われるのはマズいさ~」


 配信中の伝書鳩行為。コメントで無関係の人物の名を出すこと。単純な誹謗中傷。指示厨やネタバレというゲーム配信の楽しみを奪う行い。

 今回のイラストの件もそうではあるが、Vtuberに限らず、配信者を応援する際にファンが守らなければならないマナーは多く存在している。

 たった一人の勝手な行動が推しやその所属事務所、ひいては界隈全体の印象を悪くすることを考えると、これはタレントがどうこうというよりもファン側がしっかりと肝に銘じ、考えた上で行動しなければならない部分なのだろう。


 その上で、この問題について色々と考えたスイは、自分なりに出した結論を同期たちへと語っていく。


「……今回の事件は、イラストレーターさんの配慮不足だったの一言で済ませたら楽だとは思います。でも、そういったイラストを投稿したいって考える人たちがいるってことを想像していなかった私にも非はあるんじゃないかなって、そう思いました。デビューした時やタグを設定した時、そういうことをしっかりと注意喚起しておけば、こんなことにはならなかったんだと思います」


「そいつは結果論ですよ。俺たちだって、喜屋武さん以外は成人向けイラスト用のタグを用意してるわけじゃあありませんし、その部分に関しては三瓶さんと変わりません」


「でも、反省するのは凄くいいことだと思います。今回のこれは失敗とはいえないものだと思いますけど、こういった事件から何かを学んで、みんなで共有して、一緒に改善しながら活動していけたら、素敵ですよね」


「はい……! 重ね重ね、皆さんのお陰で大きな騒動にならずに済みました。本当に、ありがとうございます」


 真面目に、真剣に、標準語で感謝を告げたスイがPC画面の前で深々と頭を下げる。

 そんなことしなくてもいいのに、と思いながらも、彼女なりに今回の事件について深く考えた上での行動なのだろうと考えた零たちは、軽いフォローをするに留め、スイのことを温かく見守ることにした。


 そこでこの話題は一度区切られ、話はまた別のものへと変わっていく。

 とはいっても、この問題の一部を引き継いだ内容の話であって、完全に無関係な話題に変換とはならなかったようだ。


「にしても、どうするよ? こういうことになったら、私たちも成人向けイラスト用のタグを作っとくべきなのかしらねぇ?」


「そう……ですよね。でも、そういうことをすると、自分でえっちな絵を描いてもいいよって言ってるみたいで恥ずかしいです……」


「それでも作っておいた方が無難だと思うけどな。今がちょうどいいタイミングなわけだしさ」


「よっしゃ~! なら、今からみんなの分のえっちな絵を投稿するための#についての会議を始めるさ~! 唯一のタグ持ちとして、アドバイスしちゃうよ~!」


「うわあ、頼りになるけど不安だ……」


 こういうタイミングだし、どうせなら一緒に#を考えてしまおうという流れの中、話を仕切る立場に立候補した沙織の反応に若干の不安を抱く零。

 間違いなく会議を主導するのにうってつけの存在であるはずなのに、どうしてこうも嫌な予感がしてしまうのか……と考える彼の前で、その予感がいきなり炸裂する。


「ところでさ~、みんなをモデルにしたえっちなイラストって、どんな感じのやつなの~?」

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