なんか、エロ絵話が始まったんだけど

「うん? うん……う~ん……?」


 最初のは沙織の言葉を飲み込みきれずに出た、疑問の唸り。

 二度目のはやっぱり爆雷を投下してきたかという、自分を燃やす姉への納得の一言。

 そして最後のは、どうしてこんなことになっているんだろうか? という大き過ぎる変化を見せた現実に対応しきれなかったが故の困惑から出た声と、零が同じ言葉なれど全く違う意味合いを持つ唸りを三連発する中、同期たちはこのデリケートな話題についてそれぞれの反応を見せていた。


「えっ? は、話すんですか? その、ええっと……」


「ああ、うん、まあ、別に黙ってりゃ大丈夫だと思うし、どっちかっていうと逆セクハラだから問題はないと思うけれど……」


「あっ、ちょっとわーも興味あります。皆さんがどったふうに描がぃぢゃーのが、教えでほすい!」


 乗り気が一人、困惑が一人、羞恥している者が一人。

 実にバランスのいい反応を見せる女性陣たちの中には、この話題を止めようとする者はいないようだ。


 ぶっちゃけ、確かにこの程度ならば別に燃えない気がしなくもない。

 裏での話を配信で出さなければいいだけの話だし、仮に誰かがつい言ってしまったとしても、「またたらばが危ない話題を出してるよwww」くらいの反応で済むような予感がしている。


 だが、まあ……そういう話じゃあないのである。

 単純に、純粋に……。その一言に尽きる。


 考えてみてほしい、下ネタを話す女性陣の中にたった一人だけ放り込まれた男の気持ちを。

 その中で自分がどんな性的な目で見られているかを話したり、聞いたりする立場になった人間の感情を。


 しかも零たちの場合、描かれている絵が自分たちそっくりのモデルだから、なおさらたちが悪い。

 そして何より……零にとって、かなり気まずくなってしまう爆弾がこの話題の中には存在していた。


「……一応聞くけどさ。零、あんたここで逃げたりする?」


「逃げたいです、ぶっちゃけ。でも、いなくなった後で何を言われるかを想像したら怖くなったんで、止めないなら参加しようと思います」


「おっ!? じゃあ、零くんから報告してもらおうかな~!? どんな感じの成人向けイラストを描かれてたの~?」


 天からの質問に対してそう答えてみれば、何故だか沙織がウキウキ気分でそんなことを言ってきた。

 同期である女性たちの前で、自分がファンたちからどんな性的な目で見られているかを報告するだなんて、どんな羞恥プレイだよ……と思いつつも、こういう下世話な話は中途半端に恥ずかしがると逆に傷が広がってしまうことを理解している零は、できる限り被害を最小限にすべく、淡々とした口調で言う。


「いや、そんなにエロ絵の数はないですよ? どっちかっていうと流血描写とかがあるR18Gの方が多いですし。やっぱ男の俺をエロい目で見るのって難しいんじゃないっすかね?」


「……あんたが知らないだけで、某サイトでは結構そういう絵が上がってるけどね。いるところにはいるのよ、ガチホモイラストレーター及び素敵なお姉さま絵師ってやつが」


 お前、しっかり確認してたんかい、という天へのツッコミをギリギリのところで飲み込む零。

 正直な話、零もそのことについては把握していたが、とある事情を踏まえて、敢えて出さないようにしていたわけだ。


 それこそが零が回避したい気まずさの爆弾であり……自分以外のとある人物が大ダメージを負ってしまう話題でもある。

 以前、これに関して彼女と少しだけ気まずくなったことを思い出しながら、はてさてどうすべきかと零が考える中、その人物が敢えて自分からその話題へと飛び込んできた。


「うん。まあ、零くん……っていうより、枢くんのそういう絵って結構多いよね。唯一の男の人だから、仕方がないんだと思うよ」


「んだの……やっぱり、男のふとが好ぎな方の欲望一身さ受げるわげだはんで――」


「ああ、いや、そういう意味じゃなくって、その……」


 話に参戦したその人物こと有栖が、少しだけ勘違いしているスイの思い違いを正すように口を挟む。

 やや口をもごもごさせた後、零と同じくここで恥ずかしがっては逆に傷を広げるだけだと考えたであろう彼女は、羞恥を滲ませた声で同期たちへとこう述べた。


「わ、私たちの、お相手役……として、描かれることが多いよね、って……!」

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