とりあえず、落ち着かせよう
「えっ!? そ、そうなんですか!?」
「うわ~、やっぱそうなったか……タグ付けしてるんだからファンの目にも留まりやすいわけだし、むしろここまで放置されてたのが奇跡みたいなもんよ」
「うげっ、本当だ。まだボヤ程度ですけど、このままだとマズいかもですね……」
沙織の話を聞いた零が件のイラストを検索してみれば、確かにそこには多くのアクエリスナーたちが詰め寄せ、投稿者の問題行動を非難していた。
ざっと数えて十件程度ではあるが……投稿者に対して、攻撃的な意見も寄せられている。
【なんでこのイラストを#付けて投稿したんですか? これ、配信でも使えるイラストを募集するためのタグだってリア様言ってましたよね?】
【普通にセクハラだろ。リア様に自分をモデルにしたR18イラストを見せて、楽しんでるとしか思えない】
【タケリタケ事件から学べよな~。新参なのかもしれないけど、これは擁護できねえよ】
「う~ん……これ、マズくない? 叩かれてる絵師が気付いてるかどうかはわからないけど、これ以上火の手が広がるとタケリタケ事件の再来になるかもしれないんじゃ……?」
「あわわわわわ……わー、どうすれば……!?」
「落ち着きましょう。事態を早期に把握できてるから、いくらでも手の打ちようはあります。まずはファンがこれ以上暴走しないように、三瓶さんがこの件に関しての注意喚起をSNSで行ってください。俺たちも拡散に協力するんで」
「わ、わかりました! え、ええっと、文面は……」
「そこは一緒に考えましょう。できる限りファンを刺激せず、静観してもらえるような内容の文章をね。五人いれば、いい感じの文が思い付くでしょ」
「あ、ありがとうございます、助かります……!」
緊急事態に際して、二期生は全員で事態の解決に動き始めた。
こういう部分では割と頼りになる天を筆頭に、必死にファンたちを宥める文章を一同が制作する中、とあることに気が付いた有栖が口を開く。
「あっ! さっきのイラスト、削除されてます。投稿者さんも炎上してることに気が付いたみたいです」
「アカウントは残ってるから、SNSから撤退したわけじゃあないみたい。向こうも今、謝罪文とか考えてるかもしれないし、タイミング的にはちょうどいいんじゃないかな?」
「は、はいっ! じゃあ、こんな感じでみんなに注意してみます!」
絵師が自身の炎上に気付き、問題となるイラストを削除したところで、スイは二期生全員で考えた注意喚起をSNSに投稿する。
手の打ちどころとしては最適なこのタイミングでイラストの投稿者に対する叩きが止まってほしいと願いながら、彼女はコメントに対する反応を確認していった。
【わーの#について、最近新しくファンになってくれた人たちもいるから、折を見て改めて注意させてもらおうと思ってます! 今現在、タグの使い方がおかしいかも? っていう人を見つけても、必要以上に叩いたりしないで優しく注意するくらいに留めておいてくれると嬉しいです! 協力、お願いすます!】
【りょ~か~い! リア様のあの問題について把握してたのね】
【必要以上に騒ぐのもリア様に迷惑かかるからね。一旦、イラストが消えたってことで終わりにしておこう】
【これ以上の非難はただの攻撃になっちゃうし、あちらさんのファンが怒ってデカい騒動になりかねない。投稿を削除したってことはマズいことしたって自覚もあるみたいだし、ここらで俺らは手を引こうぜ】
「な、なんとかなってますかね……?」
「みたいですね。イラストを投稿した人への攻撃も、治まってくれたみたいです」
「やっぱ方言って強いわね。最後にちょこっと足すだけで、雰囲気がぐっと柔らかくなったわ」
「とりあえずですけど、これ以上の延焼は防げたと思います。あとは、改めてイラストタグとか成人向けイラストの投稿に関する決まりとかの部分を詰めていきましょう」
「さっきから話してるタイミングって意味でも、この事件をきっかけに発表することになったって考えたらちょうどよくなるわけだしね~! ピンチはチャンス、ってことで、切り替えていくさ~!」
「は、はいっ! すいません、ありがとうございます……!」
どうにか軽いボヤ程度で事件が終息してくれたことに安堵しつつ、まだこれで終わりではないと気を引き締め直すスイ。
ここからどう対応すべきなのかを同期やマネージャーと相談しつつ、ファンたちが納得してくれるような形での発表を行うために、彼女は必死に頭を悩ませ続けるのであった。
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