忌まわしき、タケリタケ事件

「えぇ……? いったい何やったのよ、そいつ?」


 思っていたよりも物騒な事件の概要に引きつつ、更に詳しい内容を聞くべく話を促す天。

 彼女からの当然の質問に対して、零はこう答えた。


「簡単っすよ。俺のイラスト用タグを使ってタケリタケの写真を投稿しまくったんです」


「うえっ!? あ~、う~ん……それは、その……」


「叩かれても仕方がないような気がするけど、そこまでボコボコにされるようなことでもないような気もする……でしょう?」


「あ、はい……」


 零の答えを聞いたスイの反応から彼女の考えを読み取った沙織がそれを言葉として発してみれば、スイもまたその発言を肯定してみせる。

 悪いことのような気もしなくはないが、零が前述したようなペナルティを受ける程のことなのだろうかと考える彼女へと、今度は有栖が話を始めた。


「あれは確か、零くんが初めてのマシュマロ配信をやってすぐのことだから……夏前くらいかな? その配信で、零くんが自分のところに送られてくるタケリタケの画像について触れたんだよね」

 

「うん、そう。そこでは面白いネタだな~、あははは~、で終わったんだけど、配信終わった後で悪ノリする奴らが現れてさ。有栖さんが言ったみたいに、『#蛇道絵巻』を付けてSNS上にタケリタケの画像を投稿し始めたわけよ」


「しかも更にそれに便乗する人も出てきてさ~。私や有栖ちゃんのところにそういう画像を送ってきて、【くるるんのタケリタケとこれ、どっちが大きかった?】みたいなDMやリプが届くようになったんだよね~」


「普通にセクハラなんで、大急ぎでイラスト用タグの悪用や二人に画像を送りつけるような真似は止めろって全体に向けて注意したんで、騒動自体は早めに治まったんですけど、ファンの暴走が始まったのはその後で……」


「ああ、わかった。誰がこんなことを始めたんだ~、って怒り狂ったファンたちが騒動の元凶である最初のタグ付けタケリタケ投稿者を特定して、バチボコにぶっ叩き始めたってわけだ。んで、さっき零が言ったような事態になった、と」


「そういうことです。最初に悪ノリした奴は確かに悪いんですけど、その後の事件の広がり自体には関与してないんですよね。ただ最初に、ふざけてそういうことをしちゃっただけ。そいつも謝ってたんですけど……気が付いたらアカウントが消えてて、後味が悪い結末になりました」


 という、タケリタケ事件の概要を有栖、沙織と共に説明し終わった零が大きなため息を吐く。

 今、思い出してもあまりいい気分はしないなと、苦々しい表情を浮かべた彼が口を閉ざす中、零に代わって有栖が相談を持ち掛けたスイへと言った。


「こういう事件を目の当たりにした零くんからすると、三瓶さんに同じ気持ちにはなってほしくないんだと思います。ちょっと巻き込まれただけの私も後味が悪いなって思っちゃいましたし、三瓶さんの場合は私よりもずっと嫌な気持ちになっちゃうかもしれないですから……」


「そう、ですよね……。問題のイラストを投稿した人も、配慮が欠けていたといえばその通りなんですけど……私への嫌がらせのために、こんな絵を描くとは思えないんです。だから、ちょっとやり方を間違えちゃったんじゃないかなって、そう、思うんですけど……」


「放置はできない、だけど思い切り触れることで大きな騒動になってほしくもない、難しいところよね……」


 はい、と小さな声で天の言葉に反応したスイは、本当にここからどうしたらいいのだろうかと頭を悩ませた。

 自分の発言のせいで一人のファンが槍玉に挙げられるような事態にはなってほしくはないが、このまま放置していていいことでもないはずだ……と、これからの行動をどうすべきか、彼女が悩んでいると――


「あ~、ちょっとマズいことになってるかもしれないさ~……」


「どうかしたんですか、喜屋武さん?」


「今、気になってスイちゃんのイラスト用タグを検索してみたんよ。んで、問題の成人向けイラストを発見したんだけどさ……」


 話し合いの最中、自分たちを悩ませている件のイラストを実際に確認すべく検索を行った沙織は、少しだけ気まずそうな声で自分が目にした現状を同期たちへと報告した。


、さっきの天ちゃんが言ってたのと同じようなことを言う人たちに、ボコボコに叩かれてるよ」

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