成人向けイラストに関する相談会、開始!

「ははあ、なるほど……! そりゃあ確かに、俺たちに相談したくなるような話ですね」


「はい。わーにはどうすたっきゃいのががどうしたらいいのかがよぐわがらねで……」


 二期生の通話チャンネルに接続したスイは、上記の一件を同期たちに報告すると共にこういう場合の正しい対処法についての相談を持ち掛けた。

 一番最初に反応を見せた零は、ふんふんと画面の前で頷いた後で彼女へと質問を投げかける。


「それで、三瓶さん的にはどうしたいのかっていう結論みたいなものはありますか? こういう絵は描かないでほしいって言いたいのか、それとも弁えてほしいのか、その辺の考えを聞かせてもらってもいいですかね?」


「ううん……よく、わかりません。最初に見た時はびっくりしましたけど、こういうイラストを描く人がおかしいってわけではないですし、普通といえば普通の話ですし……」


「エッチな絵を見てびっくりはしたけど、描かれること自体を嫌がってるわけじゃない、ってことかな~?」


「はい……それが一番、私の考えとしては近しい、かと……」


 一つ一つ、言葉を丁寧に選んで相談するスイの口調は、いつもの訛りモードではなく無口なミステリアスモードのものになっていた。

 相談を持ち掛けている以上、自分の考えをしっかりと同期に伝えようとしてそうなっているのだろうなと考えた四人は、改めて彼女の意見についての確認を行っていく。


「確かに、こういう時って対処に困りますよね。デリケートな話題ですし、私たちが声を上げることで余計な問題を生み出しかねませんもの」


「う~ん、確かにそうよね。それに、ファンの活動を縛っちゃわないかっていう気持ちも理解できるわ~……」


「ここにスイちゃんが十八歳未満だっていうことが加わって、余計に話が厄介になってる気がするさ~。スイちゃん的には表立ってエッチな絵の存在を認めるわけにもいかないもんね~」


「それもそう、ですね……だからやっぱり、年上の皆さんにお話を聞きたいな、と思って……」


 スイの意見を簡潔にまとめるとこうだ。

 スイとしては、自分(リア)の成人向けイラストを描かれること自体に嫌悪感はない。

 ただ、十八歳未満である自分がそれを表立って認めるわけにもいかないし、このままの状況でいいのかどうかも判断がつかなくて困っている。


 もしもここで自分が注意喚起などの行動を取ることによってイラストレーターが叩かれたり、ファンが活動しにくくなってしまうのは嫌だ。

 なんとか上手い着陸地点はないか? という相談内容ということである。


「う~ん、ちょっと時期的に対処が難しいのよね~……デビューして間もないタイミングだったら方法はあったんだけど、半年過ぎてるとなあ……」


「え……? 何か対処法、あるんですか?」


「簡単よ。イラスト用のタグを全年齢向けと成人向けとで分けるの。沙織がやってるでしょう?」


「ああ、言われてみれば確かにそうでしたね……!」


 まず最初に天が出した意見は、実に普通と呼べるものだ。

 実際にその方法を使っている沙織が、スイへとそれに関する意見を述べていく。


「天ちゃんが言った通り、私は『#花咲描き』と『#たらば描き』で分けて使ってもらってるね~! 蟹民かにんちゅのみんなもその辺を弁えてくれてるさ~!」


「正直な話、喜屋武さん……というより、花咲たらばさんの成人向けイラストの数は、私たち二期生の中で断トツの一位ですもんね」


やっさーそうだね。私の場合、そうなる気しかしてなかったから最初に手を打っておいた、って感じになるのかな~?」


 露出の激しい衣装、開放的な性格、抜群のプロポーション……と、花咲たらばには男性ファンの性欲を刺激する要素が揃っていることは、誰の目から見ても明らかだ。

 当の本人である沙織もまた、そういった部分を理解していたが故に最初に手を打ち、イラスト用のタグを二種類用意し、それぞれを分けるという方法を取った。


 要するに、描かれるモデル本人が先んじてファンにR18イラストの存在を容認する代わりに、彼らにも弁えてもらえるよう注意を促す……というのが沙織の取った対処法だ。

 これは実にシンプルかつ圧倒的正解に近しい回答なのだが、今のリアが取るには少しばかり問題があった。


「最初にこういうタグ分けをするならまだしも、ある程度活動に慣れてきた段階でいきなりこういうことをするのはファンの邪推とか杞憂を招いちゃいますもんね……」


「そうそう。何の前触れもなくスイちゃんが、今日からR18イラストはこっちのタグを使って投稿してください~! なんて言ったら、それ関連の問題があったって丸わかりだもん」


「で、原因を究明しようと動いたファンがリア様のそういう絵を見つけて、これが原因だ~! って騒いで、その人が叩かれたりするわけだ。う~ん、そう考えるとやりにくいですね」


「それと、やっぱり私はまだ十七歳なので、そういう絵の存在を表立って認めるのはちょっと……十八歳になったタイミングで言うなら問題なさそうだし、絶好の機会だとは思うんですけど……」


「う~ん、でもその場合だと、あと数か月は待たなきゃいけないもんね。それまでモヤモヤしっぱなしっていうのは、流石に辛そうだよ~」


 タイミングと状況の悪さから、その確実な対処法が行えないことを嘆く一同。

 そんな中、愛鈴こと天が身も蓋もないことを言ってしまう。


「いや、でもさ。この場合はこの絵を描いた奴が悪いと思うわよ、私は」

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