短編・スイちゃんお悩み相談会(R18ってどうなんだ?編)

今回のお悩み、その発端

「ふんふん、ふふふふ~ん……!」


 ――その日、リア・アクエリアスこと三瓶スイは、上機嫌でSNSを巡回していた。


 抜群のリズム感と美声によって紡がれる鼻歌は彼女の明るい気持ちを表しているかのように朗らかで、彼女自身以外に聞く者がいないことがとても残念だと言わざるを得ない。

 そんなふうに上機嫌で布団の上に寝転がりながらスマートフォンを操作するスイは、画面に表示される数々のイラストを確認しながら嬉しそうに呟いた。


「アクエリスナーのみんな、絵上手だなぁ……! 沢山イラスト描いでぐれで、たげ嬉すいや!」


 現在、彼女はSNSにて自分が設定したイラスト投稿用のタグである『#わーの絵だよ!』を検索していた。

 こういったタグは基本的にVtuberのほぼ全員がファンマークや配信用タグと共に設定しているもので、タレント本人だけでなくファンたちが検索しやすくなるというようなメリットがあるものだ。


 特にイラストに関してはVtuber本人がサムネイルとして使用してくれることもあるので、ファンとしては推しの活動に直接関われる絶好の機会でもある。

 まあ、そういった部分を抜きにしても、愛と熱量を込めて描いたイラストを推しが直接見てくれて、何かしらの反応を見せてくれるだけでもファンとしてはありがたいことであるため、絵心があるファンたちはこぞって彼ら彼女らが設定した#と共に渾身の作品をSNS上に投稿し、Vtuber本人だけでなく同じファンたちをも楽しませていた。


「うわ~! この絵、めごぇかわいいなあ! こっちの絵はたげキラキラすてで、綺麗だなぁ……!」


 ファンたちが描いてくれた様々な自分……もとい、リア・アクエリアスのイラストを見ては、その感想を口ずさみながら嬉しそうに笑うスイ。

 当然、投稿されているイラストを確認した後は等のリアクションを取ることを忘れず、コメントこそできないものの描いてくれたファンたちへの感謝を示していく。


 純白の雪と共に描かれた美しい自分の姿や、何かのゲームキャラをモデルにかわいらしくデフォルメされたイラスト、更には他の二期生たちと一緒に描いてくれている絵など、その一枚一枚を目にする度に感動したり、喜んだり、笑ったりといった反応を見せていた彼女であったが……とある絵を見た瞬間、画面をスクロールする指の動きがぴたりと止まった。


「な、な、な……っ!? だだだだ、だべっ!?」


 ぷるぷると指を震わせ、明らかに狼狽した様子を見せ、顔を真っ赤に染め上げたスイは、感じている動揺を意味のわからない悲鳴として外部に吐き出す。

 どっくん、どっくんと脈打つ心臓の鼓動が強く自分の中で響いていることを感じる彼女の視線の先にあったのは……少しばかり表現に困るイラストであった。


 『#わーの絵だよ!』と共に投稿されているその絵は、なんというか……一言で表すならば、だ。

 それも肌色の面積が多くて、ギリギリ大事な部分は隠してあるというものではなく、何もかもを曝け出した彼女の姿を描いたものだったのである。


 明らかにそういう目的というか、男とのいかがわしい行為を想起させる自分自身の分身の姿を目にしたスイは、ぐるぐると瞳の中に渦を巻いた一目でわかる混乱状態に陥ってしまう。

 彼女はまだ高校三年生、年齢でいえば十七歳であり……ギリギリ、そういった絵を見るのに適していない歳といえるわけだ。

 何より、純粋というか、初心な性格をしているスイがそういった絵をいきなり目撃するというのは、あまりにも刺激が強過ぎた。


 自分に対して(正確には彼女ではなくリアなのだが)こんな邪な想いを抱いているファンがいるなんて……とショックを受けつつも、そういったファンがいることは決しておかしくはないということも理解しているスイであったが、やはりショックなものはショックであるようだ。


「こ、こういう時、どうすればいいんだか……?」


 流石にこれに対してをするのは気が引ける。だが、見て見ぬふりをするのが正しいことなのかも、今の自分にはわからない。

 嫌……といってしまうのはファンたちの活動を縛ってしまうようで申し訳ないし、別にそこまで嫌悪感があるわけではないのだが、でもやっぱりいきなりこういうのを目撃するのは心臓に悪いというのも確かだ。


「う~ん、う~ん……」


 暫し悩み、考え、答えを模索したスイは、こういう時は一人であれこれ思考しても意味がないと結論付け、それを止めた。

 R18なイラストに対して、対象年齢以下の自分がいくら頭を働かせても意味はないのだ。こういった時には、頼れる仲間たちに話を聞くに限る。


 そう考えたスイは、一旦この悩みを胸の内に抱え、次の機会に二期生のみんなに相談しようと考えた。

 そして……それから数日後、この件についての話し合いを行う機会が巡ってきた、というわけである。

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