本日の料理・ペペロンチーノ

『は~い、手洗いと準備は完了! 改めまして、リア様に料理を教えさせていただきたいと思います!』


『蛇道先生! よろしくお願いします!』


 カットが入り、エプロン姿の二人の立ち絵が並ぶ画面に切り替わった後、本格的な料理の解説を始める枢。

 先の三種の食材に加え、調味料や仕上げ用の品を並べた彼は、それを一つ一つ指し示しながら説明を行っていく。


『まずはまあ、言わずと知れたパスタ! 今回は1.4ミリタイプを使わせてもらってます。普通にお店で売ってるやつなので、簡単に手に入りますね』


『わー、ミートソース好ぎだ! 自分じゃ作れないけど!』


『今日、パスタの茹で方を教えるんで、そしたら割と簡単にできますよ。パスタさえ茹でることができれば、最悪市販のソース買うだけで大半のものは作れるようになりますしね』


 料理番組としてそれはどうなんだというテロップでのツッコミが入るものの、実際にそれを見ていない枢にスタッフからの声が届くはずもない。

 あくまでこの番組は全く料理ができない【CRE8】メンバーに基礎を教えるものであって、本格的な料理番組ではないのだから、このくらいの緩さが一番なのだろう。


 というわけで、軽いツッコミが入りつつもリアに料理を教えることに集中している枢は、他の二種類の食材について彼女に説明していった。


『お次はペペロンチーノの主役! にんにくと唐辛子! パスタの具材はこの二つのみ! シンプル!!』


『さっき、色んなアレンジがでぎるみでぐできるようになるってしゃべってますたよね? ってごどは、他にも具入れるタイプのペペロンチーノがあるってごどだが?』


『そうですね。ベーコンやソーセージみたいな肉類を入れて食べ応えを増させたり、アサリを入れてボンゴレ風にしたり……でもまずは、この基本の食材で作る一番シンプルなペペロンチーノをちゃんと作れるようになりましょう!』


『は~い!』


 これをマスターすればもっと美味しいペペロンチーノを作れるようになると教えつつ、まずはリアに初歩を身につけてもらおうと考えている枢は、敢えて最低限の食材だけを用意したようだ。

 その教育方針を理解したリアも元気に返事をすると共に、一気に解説される調味料についての情報に耳を傾ける。


『オリーブオイル、こいつもペペロンチーノの大事な要素ですね。こいつの種類によっては味とか香りが変わるんで、気になったら色々と試してみてください。塩はたっぷり使うんで、量は多めに用意しておいた方がいいでしょう。仕上げに散らすパセリは、他にもハーブソルトとかあるみたいですから、家にある人はそっちでも大丈夫だと思いますよ』


『後はお湯だがね? パスタ茹でる用の』


『そうですね。本当にこれだけです。最悪の場合、パセリは飾りなんでなくっても構わないから、それ以外の五つがあれば十分ですよ』


 必要不可欠な食材はたったの五種類、それだけでメインの料理が作れるという話に驚くリア。

 続いて、枢はコンロに並ぶ二つの調理器具を彼女へと解説していく。


『使うのは大きめの鍋とフライパンだけ。どっちもパスタを作るのにぴったりなやつがあるんですけど、今回はどこのご家庭にもある普通の物を使いましょう。包丁に関してもにんにくと鷹の爪を切る時にしか使わないんで、そこまで緊張しなくても大丈夫ですよ』


『ほんにスンプルなんですね。こいだば、わーでも上手に作れそう……!』


 使う食材や調理器具の少なさからペペロンチーノの作りやすさを感じ取ったリアが少しだけ自信を持つ。

 そんな彼女の前で鍋にたっぷりと水を入れた枢は、それを火にかけながら塩の量を計測し始める。


『リア様、ペペロンチーノの味付けにはパスタを茹でるためのお湯に入れる塩の量が大事なんです。この茹で汁がパスタソースになるんで、塩味をしっかりつけておきましょうね』


『はいっ! ちなみに、どれぐらいの量がちょうどいいんでしょうか?』


『水の量の1.5%って聞きますね。一リットルの水だったら十五グラム、二リットルなら三十グラムくらい。最初ははかりを使って量をしっかり計った方が失敗しなくていいと思いますよ』


『ほへ~……! 一つまみ、とがそった量でねんだね……』


 塩を多めに入れる理由とその分量を教えてもらったリアが、実際にお湯の中に投入する量を目の当たりにして感心したように唸る。

 鍋を火にかけた枢は、そんな彼女にお湯が沸騰するまでにやっておくべき作業の指示を出す。


『じゃあ、ここからはリア様に頑張ってもらいましょうか。包丁とまな板を用意してください』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る