発足、【反省厨】
それからの数週間は正に光の如し速さで過ぎ去っていった。
第二回【しくじりVtuber】を成功させるために尽力するマリは、連絡を送ってきたVtuberたちとコンタクトを取り、彼らと相談をした上で次の企画の打ち合わせを進めていく。
台本を用意し、誰を講師にするかを決め、残ったメンバーも生徒役として話を聞くようにしながらも初絡みとなる配信でどう振る舞うかをじっくりと話し合っていった。
なかなかのハードスケジュールとなったが、マリも他のVtuberたちもここを復活の最大のチャンスと見ている者たちばかりであり、多少の過酷さでは弱音を吐いたりはしない。
全員が同じビジョンを共有していることが功を奏し、背水の陣とでも呼ぶべき状況の一同は一丸となって配信の成功に尽力していった。
そのお陰もあってか、第二回の【しくじりVtuber】は出演者が増えたことも相まって、一回目よりも高い注目度を集めたようだ。
リスナーたちからの期待に応えるべく場を回し、仲間たちと共に配信を盛り上げたマリは、主催者として見事な活躍を見せ、企画の成功に貢献した。
第二回【しくじりVtuber】はこうして大盛況の内に終わりを迎え、出演者のファンたちもまたこの配信が観たいという要望をそれぞれの推しへと送っていく。
これにて無事にこの企画がファンたちの間に定着したと判断したマリは、ここからは焦らずにじっくりと戦略を練っていった。
まずは【しくじりVtuber】を機に集結したメンバーたちと共に【反省厨】という名前のグループを立ち上げ、双方が絡みやすくなる土台を形成。
同じ炎上経験者であり、上記の配信で初絡みを済ませてある【反省厨】のメンバー同士ならばコラボもしやすいだろうというマリの考えは的中し、彼女を含めた10名近くのメンバーはこれまでの寂しい単独配信が嘘であるかのように仲間たちと様々なコラボ配信を行っていくようになった。
そうやってコラボ配信でお互いのファンを共有しつつ、その中でそれぞれの強みを確認していった一同は、今度はそれを活かした企画を組み立てていく。
絵が描ける者、声劇が上手い者、バ美肉Vtuber等々、【反省厨】メンバーの特徴や共通点を前面に出した配信は新たなファンを獲得するようになり、少しずつながらも彼ら彼女らの名前が界隈に広がっていった。
マリのような元々が有名であったVtuberはネームバリューもそこそこあり、そういった者たちに引っ張られるようにして他のメンバーも名が知られるようになっていく。
その上で、今度は時間をかけて【しくじりVtuber】の企画を練り、仲間たちと打ち合わせを行って、クオリティを落とさぬようにしながらメインコンテンツとなる配信の準備も進めていった。
一か月に一回のペースで【しくじりVtuber】の配信を行ったとしても、一年近くは講師に困ることはない。
【反省厨】に参加こそできずとも講師として参加できるVtuberもいるわけで、そういった存在も踏まえて考えればコンテンツの存続は安泰だろう。
無論、長く続けていけばいくほどに最初の頃のような盛り上がりはなくなってしまうだろうが……先にも述べたように、【しくじりVtuber】は既にファンたちの間で目玉の配信企画として定着してくれている。
大盛り上がりこそはしないが安定した状態で多くのリスナーたちが観にきてくれる配信コンテンツになったということこそがマリにとって喜ばしい状況なのだからそれで何も問題はないのだ。
こうして、炎上後に失ってしまったチャンネル登録者と絡む仲間を取り戻し始めたマリは、デビュー直後を超える勢いを見せる快進撃を続けていった。
さりとてここで調子に乗るのではなく、むしろこれまで以上に丁寧に配信を行う彼女は、自分が失ってしまったものの中で最も重要な信頼を取り戻すべく活動を続けていく。
【反省厨】のリーダーとして、炎上から戻ってきたVtuberとして、正しい姿を仲間やファンたちに見せ続ける。
そうすることで信頼を勝ち取り、得た信頼でできることを増やしていくのだと……グループの代表としての立場に就くようになった彼女は、その立場に相応しい振る舞いを見せるよう努力を続けていた。
一度失ったからこそ身に染みて理解できるようになった信頼の大事さ。何をするにも絡んでくる他者からの評価を取り戻すべく、マリは注意を払って配信他諸々の活動を行っていく。
【反省厨】のメンバーも二度と同じ過ちを繰り返すつもりはないとばかりに彼女に追従し、多少の過激さこそあるもののラインは越えないという絶妙さを見せつつ、彼らもVtuberとして活動し続けている。
順風満帆とまではいかないかもしれないが、落ち込んでいる状態から上向きになるチャンスをマリは見事に掴んでみせた。
仲間と共に新たな強みを得て活動を行う彼女は、少しずつなれどかつての人気を取り戻しつつある。
少なくとも、マリの方はそこそこに順調なVtuber生活を送っていた。
そんな彼女の耳に厄介なニュースが届いたのは、ある夏の日のことであった。
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