夏の、大事件

「えっ!? 【CRE8】炎上してんの!? っていうか、蛇道くんが倒れたってマジ!?」


 【反省厨】としての活動が一息ついた夏のある日、久々にSNSを巡回してVtuber界隈のことを調べていたマリは、信じられないニュースを目にして素っ頓狂な叫びをあげていた。

 数か月前にいざこざを起こした相手である【CRE8】とそこに所属している一部のタレントが炎上の真っ只中にあり、しかも蛇道枢が倒れて入院したというのがそれだ。


 マリも完全に情報を断っていたわけではないから、多少は彼に関するニュースを聞いてはいた。

 確か、最近は羊坂芽衣ではなく他の2期生と多く配信をするようになっていて、少し荒れ気味だったという話は聞いていたのだが、それがどうして入院という結果に繋がるのかがわからない。


 詳しい事情を探るべくSNSやまとめサイトを巡回して今回の事件のあらましを確認したマリは、大方の状況を把握すると何と言えない表情を浮かべながら呻くようにして呟きを漏らす。


「う~ん、これはなぁ……ファンのみんなが怒って当然っちゃ当然かぁ……」


 ネットに出回っている情報曰く、枢や芽衣と同じ2期生の愛鈴が同期や先輩、事務所に対する暴言をSNS上でぶちまけたことが事件の発端らしい。

 元から荒れ気味だった2期生周辺の状況に火をつけることとなった彼女の投稿は瞬く間に拡散され、それに伴って炎上の激しさも拡大していったようだ。


 その状況で、これまで炎上した同期たちを救ってきた蛇道枢の下へと焦った愛鈴のファンたちが殺到し、彼に多大なる負担をかけた。

 以前からオーバーワークが指摘されていた枢はこの騒動の最中に肉体的にも精神的にも限界を迎え、遂に倒れてしまった……というのが事件の流れのようだ。


 同期に暴言を吐いた愛鈴はもちろんのこと、枢を倒れるまで疲弊させた最近のコラボ相手であるリア・アクエリアス、そして彼にタレントとしての領域を超えた仕事をさせている【CRE8】のスタッフたちがそれぞれ別の理由でファンたちから批判され、炎上している。

 予想や確証のない想像で語られている部分もあるが、愛鈴の投稿やここ数週間の枢の働きを彼自身の活動から読み取ったこの情報は信頼に足るものであり、全くのデタラメというわけでもなさそうだ。


 そういった事情を把握し、心苦しさを感じたマリは、それと同時にファンたちの心理に思いを馳せながら一人呟く。


「そりゃあ怒るよね……大好きな人が明らかに負担をかけられてるってわかったら、そのことに対して抗議したくなって当然だよ」


 男も女も、Vtuberもそれ以外の配信者も関係ない。単純に、純粋に、推しが不当な扱いを受けていると知ったら、ファンとしては怒りを覚えるのは当たり前のことだ。

 デビューしてから災難に遭い続けた蛇道枢は、今や【CRE8】所属タレントの中でも高い人気を誇るVtuberへと成長を果たしている。

 彼の躍進を喜ぶファンたちはキャラが濃くてヤバい奴らが多いと噂になっているが、それもまた当然の話だろう。


 何度も逆境に立たされ、引退の危機にも瀕し、それでも愚直に自分が信じる道を突き進んでいった枢の姿は、多くの人々の心を動かすだけの力がある。

 デビュー直後からそんな彼の姿を見てきたファンたちは、彼の良さが多くの人々に認められることを喜んでいたことだろう。


 沢山の人たちに存在を認知され、Vtuberとしての活動を楽しみながら前へと進んでいた枢。

 デビュー当時の状況を知るファンたちは彼がそんなふうに普通の活動ができるようになったことが奇跡だと知っている。

 だからこそ……彼に不要な重荷を背負わせることを止めてほしいと、そう願っているのだ。


 タレントのケアも、配信企画の提案も、それをすべきなのは事務所のスタッフであって枢ではない。

 そういった役目を彼に任せきりにしたせいで枢自身に負担がかかっているとしたら、それは彼の夢を妨げる行いに他ならないではないか。


 リアや愛鈴の夢を応援するために枢を使い潰しにしていいわけがない。彼だって2人と同じように夢を追う1人の人間なのだ。

 それなのに、Vtuber活動を通して夢を叶えようと努力する人間を応援する事務所はずの【CRE8】が、応援する対象であるはずの枢に仕事を押し付けて負担を強いていた。

 その結果が彼の入院とくれば、その根幹にある理念が疑われたとしてもおかしくはない。


 これまでずっと枢を応援してきたファンたちからしてみれば、事務所が彼の夢を潰すような動きをしたようにしか思えないだろう。

 枢と一緒に、彼が夢を叶えるまでの軌跡を追おうとしていたファンたちからしてみれば、枢の夢を潰そうとした【CRE8】をバッシングするのは当然のことだ。


 今、【CRE8】はその運営体制を疑問視されている。

 この問題を解決するためにも、今一度自分たちのことを見直さなければならないだろう……と考えるマリは、同時にあることにも気が付いていた。


「……人気者になったんだな、蛇道くん。こんなにも沢山のファンたちが事務所に怒るくらい、彼を応援する人が増えたんだ」



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唐突ですいません!

実は昨日から新作を投稿し始めたのですが、内容はともかくタイトルやキャッチコピーに苦戦しています。

本格的に書くのが初めてのラブコメ作品なので、皆さんからご意見を頂戴しつついい感じに仕上げられたらなと思っておりますので、本当によろしければチラッと見てやってください。

(現在6話まで投稿していて、20時にもう1話上がります!)

(毎日8時と20時に2話ずつ投稿していく予定です!)

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