巡ってきた、チャンス
「いよっしゃ~っ! プチバズった~っ!!」
配信から一夜明け、翌日。ガッツポーズを取ったマリはスマートフォンを握り締める右拳を高々と突き上げながら叫んだ。
手応えを感じていた企画がそのまま結果を見せてくれたことを喜ぶ彼女は、早速SNSアカウントに届いたダイレクトメッセージを確認していく。
「おうおうおう、同業者さんたちからのメッセージがこんなに沢山……! 喜んでいいのか悪いのかわかりませんなあ!」
笑顔でそう言うマリであったが、実際これは喜んでいいものなのかどうか微妙なところだ。
自分の下に届く【しくじりVtuber】に講師として出演したいというメッセージの数だけ、何かしらやらかしたVtuberがいるということなのだから。
だがしかし、この企画の目的はそういった失敗を広めることで同業者たちに同じ轍を踏ませないというものもあり、彼らの話がその役に立つことは確か。
自分の失敗を大勢の人々の前で改めて解説するという罰ゲーム以外の何物でもない行為に臨むという彼らの勇気を称えつつ、感謝しようと思う。
ずらっと並ぶ10名近くのVtuberたちの名前と彼らが送ってきたメッセージを軽く確認した後、マリはマシュマロボックスを開いた。
そこに届いている視聴者たちからのメッセージを確認した彼女は、こちらも大漁であることにほくそ笑みながら呟く。
「やっぱ誰にでもネットでの失敗談ってあるんだね。予想以上に送られてきてら」
昨日に確認した時と比べ、100通近いマシュマロが届けられていることに【しくじりVtuber】の反響を感じ取るマリ。
失敗談というのはそれを聞く側の興味を引くものであるということを同業者、リスナー双方からの反応から再認識した彼女は、ふぅと息を吐いてから作業をすべくデスクへと向かう。
「よっしゃ~! やったるぞ~っ!!」
土壌は整った。注目も集まっている。あとは、ここから丁寧かつ迅速に話を進めていくだけだ。
コンタクトを取ってくれたVtuberたちの内、講師として招いても問題ないと判断できる人物をピックアップしつつ、彼らのやらかしの詳細を調べていく。
同時に日程を調整しつつ、講師役だけでなく生徒役としても継続した出演ができそうなタレントに参加してほしいと考えたマリは、それぞれのVtuberたちの活動について調査を進めていった。
「二回目はガヤを多くして~、盛り上げ役に回って~、でもそうなると結構流れとかを調整しなくちゃいけないから大変だ~」
大人数で配信を行おうとすれば、その分調整すべき部分が多く出てくる。
それを取り仕切るのはコラボの開催元であるマリであり、参加したいと要望を送ってきたVtuberたちとの緻密な連携が必要になるだろう。
それを行いつつ、第一回の配信で集めた注目や関心が去らない内に二回目の配信を行うというのは、正直にいってかなり厳しいものがある。
だが、折角手にしたチャンスをむざむざ無駄にするだなんてのは絶対に御免だ。
厳しくても、大変でも……この好機を逃すわけにはいかない。
か細い幸運の糸を手繰り寄せなければ個人勢Vtuberとして生きていくことなんてできない。足掻いて足掻いて足掻いた末に転がってきた絶好のチャンスを見逃していたら、マイナスを返済することなんてできっこないのだから。
「頑張れ、アルパ・マリ……! あんたならできるでしょ……!!」
あの大炎上から復帰し、今日まで頑張って活動してきた自分なら、この程度の困難など屁でもない。
自分自身にそう言い聞かせつつ、パキパキと指を鳴らしたマリは、起動したPCを操作しながら早速作業を行っていく。
目標は一週間後に第二回の【しくじりVtuber】企画を開催すること、そこまでは息継ぎ無しのノンストップで駆け抜けよう。
大変な作業になるということを覚悟しながら、それでも自分の中に燃える何かを感じ取ったマリは、それがいい意味での熱であることを理解すると共に笑みを浮かべるのであった。
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