ゲーム終了後、授賞式

『……ポイントの集計が終わりました。では、結果発表に移らせていただきます!』


 試合終了後、各参加者たちが自分の配信枠を落とした頃、【ペガサスカップ】本配信では結果発表が行われようとしていた。

 視聴者たちが熱戦の興奮に踊る心を静められずにいる中、その熱をぶり返させるように実況が今大会で活躍した面々の名前を呼び、その栄誉を称えていく。


『ではまず、賞金10万円が贈呈される個人賞受賞者の発表です。激しい戦いの先陣を切り、勝負の幕開けを告げたプレイヤーに与えられるファーストキル賞を獲得したのは、チーム【Milky Way】の羊坂芽衣選手! どうぞ、インタビューにお越しください!』


『あ、は、はいっ! どうも、こんばんは!』


『初心者とは思えない見事なプレイングでした。ファーストキルもそうでしたが、最後の火炎瓶で武道選手を相打ちに持っていったところがこの試合の決め手になったと思います』 


『羊坂選手、今のお気持ちを聞かせてください』


 最初に呼び出された有栖は、実況と解説の賞賛の言葉に緊張し、声を上ずらせながらも一生懸命にインタビューに答えていった。


『試合中はゲームに集中していて、いっぱいいっぱいだったんですけど……楽しかったです。終わってしまったことが少し残念だなって思ってしまうくらい、楽しい大会でした。誘ってくれたチームの仲間と応援してくれた皆さん、そして大会を運営してくださった【ペガサスゲーミング】のスタッフさんたちへの感謝で胸がいっぱいです。本当にありがとうございました!』


『こちらこそ、大会を盛り上げてくださったことに感謝しています! 改めまして、ファーストキル賞の受賞、おめでとうございます! 羊坂芽衣選手でした! ……では続きまして、本大会で最も活躍した選手であるMVPを発表させていただきます。こちらはスタッフ一同の意見や配信を観てくださったリスナーたちの皆さんの声を元に選考を行わせていただきました』


 丁寧なコメントを残してくれた有栖に感謝を告げつつ、実況は次なる個人賞の発表に移る。

 賞の内容とその選考理由を説明した後で彼が挙げたのは、ゲームの中で最もリスナーたちを沸かせた男の名前だった。


『MVPは、冷静な判断によるリーダーの補佐に加え、スナイパーライフルでの狙撃やロマン武器であるマグナムを使用しての一騎打ちなど、様々な見せ場を作って初心者なれど我々の心を熱く燃やしてくれたこの男! チーム【Milky Way】、蛇道枢選手です! 蛇道選手、おめでとうございます!』


『ありがとうございます。本当に光栄で、こうして名前を呼んでいただいてもまだちょっと信じられないです。沢山の人たちに支えられて、応援してもらえた結果としてこういった賞を頂けたこと、嬉しく思います』


『こちらの配信では【夫婦でW受賞おめでとう】なんてコメントが大量に流れていますが、こちらについてはどう思いますかね?』


『いや、それに触れたらまた炎上するじゃないっすか! え? もしかして【ペガサスゲーミング】さんって俺のこと嫌いだったりします……?』


 優等生的なコメントをした後で、実況からのキラーパスによって冷静さを失った零の反応に配信がどっと盛り上がる。

 沢山の興奮と笑いを届けてくれた彼へとMC陣が感謝を伝えた後、2人は残る個人賞の発表に移っていった。


『続きまして、本配信で試合を見守ってきた我々2人が個人的に素晴らしいと思った選手へと贈る実況賞、解説賞の発表です。こちらは1人5万円ずつの賞金贈呈となっております』


『早速、私の方から発表させていただきましょう! 実況賞は最序盤の戦闘で多くの笑いを生み出したエンターテイナー! 私も観ていて爆笑させていただきました! チーム【SunRise】、黄瀬祈里選手に私から賞をお贈りさせていただきます!』


『ありがとうございます。本当に光栄です。そして羊坂さんと蛇道さんに続いて受賞ということは、これはもう実質2人の子供になったのと同義。最初に脱落したチームになってしまいましたが、色んな意味で楽しめたのでOKです』


 テンション高めの発表に続いていつも通りの祈里節を見せながらのコメントを残した彼女に対してMC陣もリスナーたちも苦笑を浮かべている。

 ただ、これも楽しいと思ってしまえる大会の魔力によってネタとして昇華した祈里のコメントの後、解説を務めていた男が真面目な表情を浮かべながら自分が選んだ選手の名前を呼んだ。


『……続きまして、解説賞を発表したいと思います。勝利に懸ける想い、勝つために積み上げてきた努力、最後の最後まで諦めないネバーギブアップ精神。そういったものを見せてくれた夕張ルピア選手に、私は解説賞をお贈りさせていただきました。どうぞ、本配信にお越しください』


『あ……! ありがとうございます。でも、本当にいいんでしょうか? こんな私が、賞を頂くだなんて……』


 名を読み上げられてもまだ信じられないでいるルピアが、おずおずとした態度でMC陣へと問いかける。

 彼女の言葉に大きく首を振った解説は、真摯な声で彼女の言葉を否定し、自分の想いを伝えていった。


『優勝するという強い意志を持つあなたのプレイは、多くの人たちの心を熱くするものだったと思います。ただ、その想いがあまりにも強過ぎたことが勝利を掴めなかった最大の要因でしょう。願わくば、次回大会ではもう少し肩の力を抜いてスタバトを楽しむあなたの姿が見たい……そんな想いを込めて、私はこの賞をお贈りさせていただきました。まだまだ成長の余地がある、素晴らしいプレイングを見せてくださったことに心から感謝しています。この悔しさをバネに、次回は勝利の涙を私たちに見せてくださいね』


『……はいっ!』


 勝つことに前のめりになった自分のプレイを、ここまで評価してくれる人がいる。

 その事実に声を詰まらせる程の間隙を覚えたルピアは、涙を堪えながら精一杯の明るい返事で解説や応援してくれたリスナーたちへと感謝を告げた。


 以上を以て、個人賞の受賞者4名の発表が終わりを迎える。

 そして、この大会の総括となる優勝チームの発表の瞬間が訪れようとしていた。


『……では、優勝チームの発表です。今回の大会も全ての参加者が死力を尽くし、最高のゲームを見せてくれました。合計18チーム、54名のスタバトプレイヤーの頂点に立ったのは――』


 やや勿体ぶった言い方をする実況であったが、リスナーたちは優勝チームがどこであるかのおおよその予想はできている。

 1回勝負である【ペガサスカップ】では順位ポイントとキルポイントの計算は容易く、最後まで残っていたチームに注目すれば集計よりも早くに合計ポイントの算出ができるからだ。


 それでも、その名前が呼ばれることを期待し、胸を高鳴らせるリスナーたちの前で、実況が賞賛と共に勝利を掴み取った優勝チームの名前を呼ぶ。


『――【ペガサスゲーミング】主催、【THE SUPERSTAR BATTLE ROYALE】公認大会【ペガサスカップ】優勝者は……チーム【Milky Way】です! 激戦を乗り越えて栄誉を掴み取った彼らに、盛大な拍手を!!』

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