中央エリアの激戦、解説


『これは……予想外の展開です! 開始早々チーム【Milky Way】と【E-3】の激しいぶつかり合いが繰り広げられ、初心者である羊坂芽衣選手がまさかのファーストキルを獲得したかと思ったら、その直後から脱落者が続出! 現在も中央エリアでは激しい戦いが続いております!』


 陽彩たちが気が付いたゲームの異常性に言及する実況もまた、なにがなんだかわからないといった様子ながらも興奮気味に状況を伝えている。

 次々と撃破ログが流れる異様に速いゲームスピードに困惑する彼の隣に座っている解説は、冷静に状況を分析しながら自身の役目を果たすべく、何が起きているのかを説明していった。


『この状況を引き起こしている原因は間違いなく【Winning Girls】ですね。彼女たちは、【E-3】が行った奇襲戦法を中央エリアで実行したみたいです』


『奇襲、ですか?』


『はい。激戦が予想される中央エリアのランドマークを選択した【Winning Girls】ですが、普通に戦ってしまえば強ポジや潤沢な装備を手にしているであろう他チームに敗北してしまう可能性が高い。ですから彼女たちは、周囲のチームが準備を整える前に最低限の装備だけを入手してから奇襲を仕掛けたのでしょう』


『そ、そういうことですか……! しかし、それはかなりリスクが高い戦法なのでは? 奇襲を終えた後で他のチームが漁夫を狙ってくる可能性もありますし……』


『無論、そういった可能性も考えたでしょう。その上で、彼女たちはこの作戦を採った……動きの迅速さから見ても、かなりの練習を積んできたであろうことがわかります』


 奇襲作戦には相応のリスクがある。

 先程の祈里たちがそうであったように少しでも動きにミスがあれば返り討ちにされてしまう可能性もあるし、無事に奇襲を成功させたとしても戦いの気配を感じ取った別チームがやって来て、今度は自分たちが奇襲を受ける側に回ってしまう可能性だってあった。


 だからこそ、ルピアたちはその奇襲の動きを徹底的に練習した上で本番に臨んだのであろう。

 戦いの時間を短くすれば敵チームからの攻撃を受ける可能性を低くできるし、こちらの被害だって少なくなる。


 基本的に降下直後というのは装備やアイテムを集める育成ファームの時間だ。

 近くで戦闘が起きているからといって自分たちの準備が万全ではない状況でそこに首を突っ込みたいとは思わないだろうし、それが激戦区である中央エリアでの出来事ならば尚更の話である。


『つまり、【Winning Girls】はこのゲリラ戦法とでもいうべき動きで中央エリアを荒らす作戦で場をかき乱している、と……?』


『自分たちの情報が秘匿できているという優位を最大に活かすならばこの作戦がベストでしょう。一歩間違えれば返り討ちに遭って即座に脱落というリスクを背負っての動きでしたが……彼女たちはその賭けに勝った。怖いのは、ここからです』


 机に肘をつきながら、顔の前で手を組む解説。

 真剣な眼差しでゲームの展開を見守る彼の目には、敵プレイヤーをダウンさせたルピアの姿が映っていた。


『これで【Winning Girls】は実質2つのランドマークを手に入れた。そこにあるアイテムだけでなく、中央の有利なポジションを確保することにも成功している彼女たちは初動から大きな有利を握ったことになる。その有利を活かして中央に降りた他のチームを掃討すれば、もう他に敵はいない。後は終盤まで消耗を抑えて待機して、乗り込もうとしてくる敵を迎撃することに注力すればいい』


『なる、ほど……!! しかしこれ、どうなんですかね? 半分くらい初動被せみたいな動きをしていますし、物議を醸すのでは……?』


『そうかもしれませんね。ですが、個人的には別に問題はないと思っています。確かに応援していたチームをこんなに早い段階で倒されてしまったファンの皆さんには同情しますが、これは一発勝負の何があってもおかしくないゲーム。どんな奇策を用いられても迎撃できる準備を整えていなかったそのチームが悪いという見方もできるのですから』


 【Winning Girls】のゲリラ戦術を擁護しつつ、楽しくなってきたとばかりにここからの展開に期待する解説の男は、じっとゲーム画面とそこに映るルピアたちの動きを見つめながらぼそりと呟く。


『……間違いなく彼女たちのお陰で【ペガサスカップ】は盛り上がっています。予想外の戦法で一気に優勝に近付き、多くの参加者を沈めて悪役ヒールと化したこのチームからは目が離せません。このまま【Winning Girls】が勝利するのか? はたまた彼女たちを打倒するチームが現れるのか……期待して見守っていきましょう』

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