勝利を目指して、走り続けろ

『……終わったわね。檸檬、ゆかり、状況はどう?』


『バッチリファームできたよ! 私もゆかりもアサルトライフルとショットガンの鉄板セットをゲットできたし、いい感じ!』


『弾丸もいっぱいあるっす! グレネードとか火炎瓶なんかの投げ物も十分な量確保できましたし……滑り出しは最高ですよ!』


『OK。とりあえず最大の山場は超えられたみたいね……』


 中央エリアに降り立ったチームを掃討し、この辺り一帯を確保したルピアは、最大の難関であった最序盤の奇襲から続く電撃作戦が成功したことに安堵のため息を吐いた。

 直後、まだ1つの作戦が上手くいっただけに過ぎないと気を引き締め直した彼女は、小さく頭を振ると仲間たちへと次のオーダーを出す。


『とりあえず、回復を済ませて。それが終わったら合流してアイテムを再分配するわ。檸檬はスキルを使って他のチームが接近してないかを逐一チェック。ゆかりはできる限りのアイテムを拾いながら、私たちのところに来てちょうだい』


『了解っ! エリアの収縮を見る感じ、ここからやや西が最終決戦の場所になる感じかな?』


『運がいいっすね! そこなら迎撃しやすいポジションがありますし、そこでやって来る敵を追い返す作戦でいきますよね!?』


『……そうね。強ポジを抑えたんだから、それを存分に活かしていきましょう。誰か、スナイパーライフルを見つけたら場所を教えて。長距離攻撃ができた方が迎撃には有利だから、私が持つわ』


 テキパキとオーダーを出しながら、状況の分析を続けるルピア。

 一切油断せずに勝利のための道を進み続ける彼女は、張り詰めた雰囲気を纏ったまま、ただ勝つことだけを考えている。


 この奇襲作戦は大きな博打だった。

 空いている中央エリアのランドマークに降下してから他のチームを掃討できるかどうかなんて、どれだけ練習を重ねたとしても運の要素が大きく関わる分の悪い賭けでしかなかっただろう。


 しかし……自分たちが優勝するには、もうそれしかなかった。

 上位入賞を目指すだけならば外周に降りて無理なく試合を進めればいい。後半まで生き延びて、優勝できるかもという期待を持たせるだけだったらそれでよかったかもしれない。

 だが、自分たちが目指しているのは【ペガサスカップ】の優勝であり、そのためにはこんな危険な賭けに出るしか方法はなかったのである。


 【VGA】の名誉を挽回するためにも、暴れているアンチを黙らせるためにも、自分たちはこの大会で圧倒的なまでの強さを見せつけるしかない。

 その強さを以て、全てをねじ伏せるしか自分たちが生きる道はないのだと……そう思い詰めるルピアは、マウスを握る手を僅かに震わせながら再び深く息を吐いた。


(まずは迎撃の準備を整えてからポジションに移動。そこで相手を追い返しつつ、外周がダメージゾーンに飲まれるまで粘る。既に敵が内部に入っている場合はそっちを片付けることを優先して、足元を完全に固めて――)


 勝つための策を、その方程式を、模索し実行し続ける今の彼女に隙はないのだろう。

 だがしかし、その固く敷き詰められた勝つという意識の間には、ゲームを楽しむという想いが挟まる隙間も存在していない。


 優勝が近付いているが故に、自分たちの初動が上手く行き過ぎてしまったが故に、どんどん勝利への渇望を募らせていくルピア。

 彼女のチームメイトたちもそんな彼女の緊張感に引っ張られ、勝つことに意識を割き過ぎているようだ。


『こっちの建物にスナイパーライフルありました! マグナムも同じボックスの中に入ってましたけど、これは要らないですよね?』


『そいつは扱いが難しいってルピアも言ってたしね。私たちは練習しまくったこの2つの武器を使うのが一番でしょ』


 折角の大会の中でも興奮や楽しさよりも緊張感を強く感じさせてしまっていることに対して、ルピアは申し訳なさを感じていた。

 それでも、このメンバーで勝つことが事務所や仲間たちの未来を切り開くことに繋がるのだと……そう信じる彼女は残るチームの数を示す数字を見つめながら心の中で思う。


(全員、ぶっ潰す。優勝するのは私たちよ……!!)


 その瞳の奥に燃え滾る炎の強さを更に強めながら、ルピアはただ勝利だけを求めて走り出す。

 大会参加者を蹂躙すべく動く彼女の手は、圧倒的な有利を握っているというのにも関わらず震え続けていた。

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