ライバルチーム、【VGA】



「まあ、俺たちに関係のない大会運営側の話はここまでにするとして……参加者の中で蓮池先輩が注目してる人とかっているんですか? 優勝候補とか、俺たちと同じVtuberさんとか、そんな感じの方です」


『あ、うん……各チームの代表者は全員凄いスタバトプレイヤーだけど、その中でもボクが注目してるのは【VGA】の人たちかな』


『あっ、聞いたことあります! 確か、正式名称は【Virtual Gaming Act】さん……でしたよね?』


 陽彩と有栖が口にした【VGA】という名前には、零にも聞き覚えがあった。


 【Virtual Gaming Act】……直訳すると、電脳世界でゲーム活動をする集団。

 その名の通り、ゲーム配信を主体とするVtuberたちを擁する事務所で、所属タレントは全員が女性のVtuber事務所でもある。


 特筆すべきは、所属タレントたちのゲームに対する本気さだ。

 流行のゲームをカジュアルに楽しむこともあるが、基本的には各個人が得意とするゲームを徹底的にやり込み、大会への参加やそこで優秀な成績を収めることを目的として活動を行っている。


 【VGA】の理念は、日本におけるe-sportsの普及。

 いまいち認知度が低いゲームをスポーツとした競技の素晴らしさを、同じく誕生してからまだ日が浅いVtuberという存在での活動を通じて広めていくという、今の時代らしい面白い試みが特徴的な事務所だ。


『前回、前々回と【VGA】からは2名のVtuberさんが招待を受けて【ペガサスカップ】に参加してる。今回も出場するっていう告知があったし、同じVtuberとしてボクたちは彼女らと比較されることになると思うよ』


『2名……ってことは、その人たちが代表になったチームが2つ参加するってことですかね?』


『うん、そうだよ。2人ともボクと同じスーパースターランクのプレイヤーだから、同じチームのメンバーとして参加するとなると公式が決めたポイント制のルールに引っ掛かっちゃうからね。それぞれが【VGA】のタレントさんの中から2名ずつメンバーを選んで、チームを組むはずさ』


『げ、ゲーマー集団の代表として選ばれたVtuberさんたちと比較され続けた上に、大会本番でぶつかることになるんですね。色んな意味で、とんでもないライバルになりそう……!』


 陽彩と比べても遜色ない腕前を持つゲーマーであり、自分たちと同じVtuberでもある【VGA】メンバーが【ペガサスカップ】に出場する。

 そして、当然ながら自分たちは彼女たちと戦わなくてはならない。


 普段からゲームに慣れ親しんでいる彼女たちと自分との間には現時点でもかなりの差があるのではないかと不安を感じた有栖は、強力なライバルであり、これから1か月間、ファンたちから腕前を比較され続けるであろうライバルの情報を聞いて一気に緊張してしまったようだ。


 零もまた、優勝候補の一角らしき2つの【VGA】チームに対して警戒心のようなものを抱くと、彼女たちに関する詳しい情報を聞くために陽彩へと質問を投げかけた。


「それで、その代表2名っていうのはどんな方なんですか? 俺、【VGA】さんの話は小耳に挟んだ程度で、大会での成績とかを詳しく知らなくって……」


『えっとね……まず1人目は、【VGA】のFPS部門の筆頭って言われてる緑縞 穂香みどりしま すいかさん。この人はスタバト以前のバトロワ系シューティングゲームも数多くプレイしてて、そういったゲームの大会での優勝経験もあるベテランFPSプレイヤーだよ。経験豊富で、落ち着いたお姉さんみたいな人だから、同じ事務所のタレントさんからの信頼も厚いみたい』


「はへ~……いかにもなリーダーって感じの人なんですね。この人が率いるチームは手強そうだな……」


『……スタイルも良くって、大人の女性って感じがして、お友達も多くて、信頼されてて……何もかもがボクとは正反対……ぐすん』


『な、な、泣かないでください! 先輩だって緑縞さんに負けないくらいいい人だって、私は思ってますから! 零くんもそう思ってるよね!?』


「えっ! あっ、うん! もちろんだよ!!」


『ありがとう、ありがとうね……勝手に凹んだ上に後輩に気を遣わせるボク、やっぱダメだなぁ……』


 自分と同じゲーマー系Vtuberでありながら、あらゆる点が自分より優れている穂香との比較を脳内で行った陽彩が元来のネガティブ思考になってどんよりとした呻きを漏らす。

 有栖と共に彼女をフォローする零であったが、一旦こうなってしまった陽彩はなかなか負のスパイラルから抜け出せないということを似たような性格の人間(主に有栖と梨子だ)との関わりの中で把握している彼は、強引に話を進めることで彼女の思考を切り替えさせにかかる。


「緑縞さんのことはわかりました! もう1人の代表者さんはどんな方なんですか!?」


「ん……緑縞さんは今回の【ペガサスカップ】の優勝候補として見られてるけど、ボクとしてはもう1人の代表者さんの方が怖いと思ってる。緑縞さんが安定感のあるアサルトライフルだとするなら、彼女は爆発力が抜群のバズーカって感じかな……?」


 零の質問によって上手いことネガティブ思考から抜け出した陽彩は、もう1人の代表者についてそんな感想を述べる。

 穂香以上に警戒を払っているという彼女からのその人物への評価を聞いて零と有栖が緊張感を高める中、陽彩はそんな2人へと【VGA】が誇るもう1人のFPSゲーマーの名前を告げた。


『夕張ルピアさん。それが、2人目の代表者の名前だよ』


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る