大会運営というのは、面倒くさいもので……


『案外やることっていっぱいあるんですね。ただゲームの練習をして、本番に備えるだけじゃないんだ……』


『大会が円滑に進むよう協力するのも参加者の義務だからね。宣伝に協力して沢山の人たちに注目してもらうことで大会を盛り上げたりするのも、ボクたちがすべきことだよ』


「観てくれる人がいなくちゃ大会の意味もないですからね。にしても、本当にやることが多いな……」


 陽彩の口からこれから1か月間のざっくりとした予定を聞き、その間に自分たちがすべきことを教えてもらった零と有栖は、思っていたよりもやるべきことがあることに驚きながら各々感想を口にしていた。


 配信だけでなくSNSで大会に参加することを表明した上で宣伝に協力し、更に運営側にプロフィールや意気込みなどを答えたアンケート用紙を提出し、更に優勝を目指してチームでも個人でも練習を重ねるとなれば、この1か月は本当に慌ただしく活動することになるだろう。

 その上でスタバト以外のVtuberとしての活動もしなければならないのだから、そりゃあ1周年を迎える1期生たちや衣装デザインをしなくてはならない梨子が参加できないわけだ……と、ただゲームをプレイするだけではない大規模なゲーム大会の大変さをしみじみと実感する零が、


「こうして聞くと大会に参加するのもそうですけど、運営する側はもっと大変なんですね。大体20チーム、60名以上の参加者の面倒を見ることになるんですから」


『今回はまだマシな方だよ。これまでの【ペガサスカップ】は、出場者を集めた上でその人たちを戦力が均等になるように運営側がチーム分けしなくちゃいけなかったんだから。でも、今回は【ペガサスゲーミング】さんが決めたルールにのっとって、代表者がメンバーを決めることになった。運営としてはチーム分けの作業がなくなった分、ある程度は楽ができてると思うよ』


「こ、これで楽な方って……なんかもう、本当にお疲れ様ですとしか言えないっすわ……」


 参加者もそうだが、大会を運営する【ペガサスゲーミング】はそれに輪をかけて大変だ。

 各チームとそのメンバーを把握し、彼らが不正を働かないかチェックしたり、組んだチームに問題がないかを確認したりといった作業をざっと数えて20チーム分は行わなくてはならないし、更に大会本番でのルール制定やスケジュールの管理などもする必要がある。


 宣伝に関しても参加者以上に行わなければならないし、連絡事項があれば各チームの代表者たちにその都度連絡を取らなければならないし、大会当日に実況や解説を行うメンバーを所属選手からピックアップし、場合によっては外部の人間を呼ぶ必要もあるわけで……零が思い付くだけでも、これだけの面倒な作業を1か月の間にやらなければならないのだ。


『……これまで意識してなかったんですけど、こういうお話を聞くと、個人勢のVtuberさんなんかがゲームの大会を開催することがどれだけ凄いことなのかっていうのがわかりますね。事務所の力を借りずにそういう面倒な作業をこなしてるってわけなんですから』


『そもそも、顔が広くなかったり、コミュニケーション能力がなかったりすると参加者を集めることすらできないからね。ボクには一生大会の主催者なんてやれる気がしないよ……』


「大半の人がそう思いますよ。参加するだけでも面倒くさいってのに、運営はそれ以上に大変で、しかもそこそこリスクを背負うことになるんだから、ぶっちゃけやりたいって思う人の方が少ないんじゃないですかね?」


 大会運営にかかるコストもそれなりに面倒だが、仮にそれらを上手く回したとしてもどうしたって炎上のリスクというものは付きまとってくるものだ。

 誰それのチームが明らかに強いだとか、どこどこのチームを明らかにひいきしているだとか、この辺のルールが甘いだとか……大会運営側に完璧を求めるリスナーたちは、そういった僅かな綻びのようなものを見つけては思いっきり大会主催者を叩きにくる。


 それは彼らが本気で大会の参加者を応援している証拠であり、そこまでゲームの大会にのめり込んでくれることは嬉しいのだが、明らかな不備以外の部分を叩かれることを面倒くさいと思ってしまうのは仕方がないことだ。


 緩いカジュアルの大会だと明言していたとしても、その緩さ故に視聴者たちが文句をつけたということも往々にしてあることであるし、やはりそういった調整の部分に苦戦するのは個人でも企業でも同じなのだろう。

 そういったリスクを承知の上でゲーム界隈の発展や盛り上がりのために大規模な大会を主催してくれる人々に感謝しつつ、零はこの話題を終わらせて参加チームについての情報を陽彩へと尋ねた。


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