とりあえず、聞いてみた結果……


「うん、いいよ。私でよければ参加する!」


「えっ!? ま、マジ!?」


 その翌日、有栖に【ペガサスカップ】に参加するチームに加わってくれるよう聞いてみた零は、意外にもその申し出を快諾してくれた彼女の素早い反応に大いに驚いていた。

 駄目元での申し出であったからこそ、有栖がほぼノータイムでそれを受けてくれたことに感謝よりもまず驚きの感情を抱いた零は、彼女へと念を押すようにして確認を行う。


「あの、本当にいいの? 有栖さん、FPSとかやったことないって言ってたし、蓮池先輩とも初対面……だよね?」


「そうだけど……でも、これもいい機会かもしれないなって思ってさ」


 零の手から皿を受け取り、それをテーブルの上に置きながら彼の念押しに応える有栖。

 余談ではあるが、今の2人は零の部屋で彼が作ったランチを食べようとしているところだ。


 これはこれでそこそこ燃える条件が揃っているよなと思いながらも食卓に着いた零は、真正面に座る有栖を見つめながら彼女へと話を振る。


「ちょうどいい機会って、どういう意味?」


「ちょっと前に話したでしょ? 2期生コラボは1つの区切りみたいなもので、ここからまた次のステージに進んでいくんだって……同期のみんなと話せるようになったんだから、次は先輩ともコラボできるようになりたい。もっともっと強い自分になるために、私も頑張っていこうと思ってたんだ」


 コトン、と音を立てて零の前に飲み物を注いだグラスを差し出す有栖。

 数日前に聞いたばかりの陽彩の話とどこか似ている彼女の話を聞く零は、小さく頷きながら耳を傾け続ける。


「ステップアップするんだったら、これまでやってこなかったことをやるべきでしょう? FPSゲームも、その大会に参加することも、これまで私がやってこなかったことだからさ……先輩とのコラボも含めて、そういうことにチャレンジしていくことが私自身の成長に繋がると思うんだ。だから、私もスタバトの大会に参加させてもらうよ。大変かもしれないけど、頑張ってみたい。ダメかな?」


「ダメなんかじゃないよ。こっちとしてはありがたいし……有栖さんも成長してるんだなって、そう思った」


「ふふふ……ありがとう!」


 かわいらしい笑みを浮かべた有栖が、自分を褒めてくれた零へと感謝を告げる。

 物事を楽観的に考えているからだとか、零からの頼みだから無理をしているだとかではなく、自分自身のこれからのためにリスクを理解した上で己の意志で大会の参加を決めた彼女の顔を見つめながら、零は有栖の成長を強く感じ取っていた。


(蓮池先輩の心を動かしたのも、こういう夢に向かって突き進む姿なんだろうな……)


 自分がかつて炎上を意に介さず有栖の夢を守るためにアルパ・マリとの決戦に臨んだ時のように、誰かが必死になって夢を叶えようとする姿にはそれを見る者たちの心を動かす強い力が宿っている。

 陽彩もまた、有栖をはじめとした後輩たちのそういった姿を見て、自分もこうなりたいと思うようになったのだろうと……そう、非常に理解できるその心情に理解を示しながら自分で作ったカルボナーラを一口頬張った彼の耳に、か細い有栖の声が響く。


「それに、ね……零くんが一緒なら、大丈夫だって思えるんだ。一緒だと、凄く心強いんだよ」


「むぐっ……!?」


 ほんのりと頬を赤らめつつ、自分への信頼を滲ませる言葉を呟く有栖の姿に零がパスタを口に含んだまま硬直する。

 なんとも愛らしく、先程挙げた例とはまた違う意味で自分の心を震わせてくれる彼女の姿に零が目を奪われる中、有栖は恥ずかしそうにしながらも話を続けていく。


「本当は1人でも大丈夫だって言いたいけど、やっぱりそれはまだ無理そうだからさ……情けないけど、もう少しだけ零くんに頼らせてほしいんだ。喜屋武さんたちもそうだけど、零くんは特に心強いっていうか、1番信頼してる人だから……一緒なら、きっとどんなことでもできるって思えるんだよ」


「む、ぐ……っ!」


 ただ同期として信頼しているということを言われているだけなのに、どうしてだか心臓の鼓動が早くなってしまう。

 不安の気持ちを拭い去れるのも零の存在が大きいという有栖の言葉にドギマギとしながら、ようやく喉を動かして口の中の食べ物を嚥下した零へと、彼女はこう言って話を締めた。


「一緒に頑張ろうね、零くん。先輩にも、リスナーさんたちにも楽しんでもらえるよう、私も全力を尽くすから!」


「あ、う、うん。そうだね! 俺も、全身全霊の全力で頑張るよ! ささっ、料理が冷める前に食べちゃおう! ねっ!?」


 感じている照れの感情を誤魔化すように、わざと大袈裟なリアクションを取って有栖に応える零。

 陽彩もそうだが、有栖からの信頼を裏切らないようにするのもかなり大変だぞと思いながら、彼は有栖と2人でのランチを楽しみつつ、詳しく話を詰めていくのであった。

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