初顔合わせ、CRE8チーム
というわけで有栖に【ペガサスカップ】への参加を持ちかけてから数時間後、自室に戻った零は彼女と陽彩を引き合わせるべく話を通し、初の会合をセッティングしていた。
PC越しに通話するだけではあるが、人見知りコンビである有栖と陽彩を打ち解けさせるべく様々な方法を考えている零は、若干気持ちが落ち着かないでいる。
互いが互いに遠慮してまともな会話ができなくなってしまう可能性もあると危惧しているのは陽彩も同じようで、彼女は有栖との初顔合わせ(直接会うわけではないが)を配信外でやろうと提案してきた。
零もまた、その方がいいだろうと考えてその提案を了承し、有栖にもそう伝えたわけではあるが……3人だけの話し合いというのもそれはそれで緊張してしまうものだ。
2人の性格を考えても、自分が話し合いをリードしなくてはならないのは明らか。
だがしかし、逆にリードし過ぎても2人が打ち解ける機会を作るという本来の目的が達成される流れになってくれないわけで、それでは話し合いの意味がない。
要はそのバランスが大事で、その辺の調整を自分がしっかりと行わなければいけないという、なかなかに難しい状況になっているわけだ。
(上手いこと話を進めつつ、2人にリラックスした状態で話をしてもらわないとな……共通の知り合いは俺だけだし、チームメイトとして紹介したのも俺なんだから。それに――)
純粋に、有栖のことを陽彩に紹介したのは自分だという部分に責任を感じている部分もあるが、それ以上に零はこの出会いが2人のこれからにとって良きものになってほしいと願っている。
少しずつ人との関わりを増やし、良き先輩になろうと動き始めた陽彩にとっても、女性への恐怖心を乗り越えて少しずつ強い自分になろうとしている有栖にとっても、この顔合わせは成長の糧となるはずだ。
似た者同士だからこそ、最初の課題さえ乗り越えてしまえば意気投合する可能性だってある。
【ペガサスカップ】での成績も重要だが、そこに至るまでにどんな経験をしたかもそれと同じくらいに大事だと考える零は、有栖と陽彩が性格の問題や先輩後輩という垣根を超えて打ち解けることを心の底から願っていた。
「まずはお互いに自己紹介をしてもらって、話を蓮池先輩に振って……大会のこととかその辺の日程を軽く説明してもらってから有栖さんにわからないこととかを質問してもらった方がいいよな? そういう大事なことを済ませてから、軽い雑談に入るよう話を誘導して……」
頭の中で、必死にこの後行われる話し合いの流れをシミュレートする零。
あまり自分はでしゃばらず、あくまで話し合いの補佐的な動きをしつつ会話をコントロールしなければと考えながらも、その心から不安が拭い去られることはない。
もしも最初の挨拶の時、2人がお互いにテンパってまともに話すことができなかったらどうしよう?
はわはわと慌てに慌て、どっちから会話を切り出せばいいのかがわからなくなり、その後もぎくしゃくしてしまう有栖と陽彩の姿が容易に想像できてしまった零は、その嫌な考えを思い切り頭を振ることで脳内から弾き飛ばす。
そうならないよう、自分が2人の間を取り持つのではないか……と、自分自身に言い聞かせながら、その責任重大な役目を担う自分が失敗したらどうしようという不安に零が胃を痛める中、PCからピロリンッ、というメッセージの着信音が響いた。
「あ、有栖さんと蓮池先輩からだ。どれどれ……?」
【通話の準備完了しました。入江さんの方はどうですか?】
【私の方はいつでも通話できるよ。零くんと先輩の方は大丈夫?】
「んげっ!? も、もうそんな時間なのかよ……!?」
気が付けば、予定していた話し合いの時間がもう目前に迫っているではないか。
2人からのメッセージはそのことに対するお伺いの連絡であり、自分だけがまだ準備を終えていないことを理解した零が大慌てで支度を行う。
有栖と陽彩のことを気遣うはずが、この時点だと最も気を遣われているのは自分じゃあないかと、フォローするはずの自分が1番落ち着いていないことを自覚し、そのことを反省した零は、呼吸を整えてから通話チャンネルを開設し、2人へと招待のメッセージを送った。
ややあって、2つの着信音が続けて鳴り響き……通話の参加者を示す名前欄に『羊坂芽衣』と『魚住しずく』の2人が追加される。
ぷつんっ、というマイクの起動音を耳にした零が緊張に背筋を伸ばす中、イヤホンからおずおずとした様子の少女の声が聞こえてきた。
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