3人目、どうする?


 こういった経緯で陽彩に協力することを決めた零は、そこから【ペガサスカップ】に向けての予定を立てると共にコーチングを受ける日付を決め、本日の配信を迎えた、というわけだ。

 そして今、彼は休憩を終えてPCの前に戻ってきた陽彩と共に、目下最大の問題について話をしている。

 2人が話し合っている問題とは、もちろん――


「3人目のメンバー、どうしますかね……?」


『そこ、だよね……なんだか予想以上に期待されちゃってるみたいで、怖いなぁ……』


 思っていた以上の熱狂を生んでしまった【ペガサスカップ】への参加報告ではあるが、そのために必要な3人目のチームメンバーに関してはまだ何も決まっていない。

 このままではチームが組めずに参加辞退することになりました……などという情けない報告をする羽目になるかもしれないし、そうなったら大炎上間違いなしだ。


『ボクとしては梨子さんを誘おうと思ってたんだけど、まさか仕事が忙しくて参加できないだなんて……』


「あの人、本当に肝心な時に役に立たないなぁ……」


 話し合いが終わった後にハロウィン衣装の打ち合わせのために薫子に引き摺られていった梨子の、断末魔の叫びを上げながら泣きじゃくる姿を思い出した零が大きなため息をこぼす。

 いつもは余計な炎上を引き起こしにやって来るというのに、力を貸してほしい時に限ってこんなことになるだなんて、本当にあの人は……と思いつつ、いつまでも梨子のことを考えていても仕方がないので、零は前向きに話し合いを進めることにした。


「薫子さんも言ってましたけど、やっぱ1期生の誰かに声をかけるっていうのは難しい……ですよね?」


『う、うん……ボクがコミュ障でほぼ初対面なのもあるけど、もう少しでデビュー1周年を迎えることになるわけで……そのための企画とか配信の準備をしてる人たちが大半だから、やっぱり物凄く忙しいんだと思う』


「そんな人たちに1か月も時間を拘束される大会に参加してくれだなんて言えないっすもんね。これは仕方ないか」


 時期が時期であるために、1期生に声をかけることは憚れるという事情を把握した零が腕を組みながら唸り声を上げる。


 自分か陽彩にスタバトをプレイしている配信者の友人でもいればいいのだが、残念ながらお互いにそんな人物の心当たりはない。

 というより、そもそも2人ともそこまで配信者の知り合いがいないので、誘える面子はほぼ固定されてしまっている状態だ。


「一応、確認しますけど、蓮池先輩って他の事務所か個人勢のVtuberさんで一緒にゲームをする仲間とかっていたりしません?」


『う、うぅ……ごめんなさい、1人もいないです……役に立たない先輩で本当にごめん。いっぺん、死んできます……』


「いや、まあしょうがないですよ。となると、誘える相手はほぼ俺の知り合いってことになるな……」


 どんよりとした雰囲気を出して凹む陽彩をフォローしつつ、頭の中にそう多くはないVtuberの知り合いの顔を思い浮かべる零。

 その中から1期生である梨子と玲央の2人を排除してしまえば、残ったのはおなじみ2期生の4人だけとなる。


『あの、スタバトのプレイ歴とかはこれっぽっちも加味しなくて大丈夫だから。むしろ2人とも初心者の方が、教える側としては楽だったりもするし……』


「そう……っすね。結局、俺にコーチングするのなら1人も2人も変わらないですもんね」


 その部分に関しては本当にありがたい。なにせ、自分が知る限り、4人ともスタバトはおろかFPSゲームをプレイした経験自体がなさそうな人間なのだから。

 数少ない人脈から3人目のチームメンバーを決めなければならなくなった零は、彼女たちの予定や性格等を確認しながらそれについての考えを深めていく。


 まず真っ先に候補として名前が挙がるのは花咲たらばこと沙織だ。

 反射神経もゲームセンスも抜群。コミュニケーション能力も間違いなく上位である彼女ならば陽彩とも上手く打ち解けられるだろうし、自分としても安心できる。


 だがしかし、残念なことに彼女は今、愛鈴こと秤屋天と共に企業案件を引き受け、その準備のために忙しい日々を送っていた。

 その状態の沙織に大会に参加してくれと言うわけにもいかないため、第2候補である天も含めてこの2人は選択肢から除外しなければならない。


 スイも駄目だ。夏休みを終えて地元に戻ったばかりの彼女は、高校の新学期を迎えている頃だろう。

 そういう時期は色々と忙しいし、文化祭や体育祭を間近に控えている可能性もある彼女に学校行事を犠牲にしてまで自分たちに協力してくれと言えるはずがない。


 となると……自ずと選択肢は1人に絞られる。

 零が最も信頼している同期、羊坂芽衣こと入江有栖だ。


 しかし、彼女を選ぶことにも相当なリスクと問題があるということを理解している零は、PCの前で頭を抱えていた。


(有栖さんの場合、女の人が苦手ってことがあるからな……それに蓮池さんと似たような性格同士だし、お互いによそよそしい態度で上手くコミュニケーションが取れないって可能性もあるぞ……)


 有栖の最大の弱点、女性恐怖症……これがまず第1の懸念点だ。

 最近は多少緩和されつつはあるが、弱気な性格の彼女が陽彩という見ず知らずの女性の先輩と対面して上手くコミュニケーションを取れるようになるだろうか?


 初っ端からガチガチでまともな練習ができないといった形になると、ファンたちからメンバーの選定を間違えているとバチバチに叩かれそうな気がするな……と思いつつ、もう1つの懸念点について考える零。


 弱気な性格と女性への苦手意識もそうではあるが、それと同じくらいに不安に思うのが有栖のゲームセンスだ。


 前に一緒に対戦型ホラーゲームをプレイした際に零が感じた有栖の腕前としては、取り立てて下手ではないが決して上手くもない、といった感じであった。

 本人もあまりゲームで遊んだ経験はないと言っていたし、そもそも対戦ゲームは苦手だと配信で明言していたはずだ。


 そんな有栖がバトルロワイアルのFPSゲームをプレイし、その大会に参加することを快諾してくれるだろうか?

 彼女に無理をさせてしまうかもしれないという不安を抱いている零が有栖を誘うことを迷う中、無言の空気に耐え切れなくなった陽彩がおずおずと口を開く。


『やっぱり、難しい……かな? 阿久津くんの方も、候補になるような人はいない感じ……?』


「あ、いや、一応いるにはいるんですけど……」


 自分たちには有栖以外に誘える人物はいない。それはわかっているが、やはり不安なものは不安だ。

 それでも、陽彩の夢を応援すると言い切った零は、とりあえず有栖に話をするだけしてみようと決め、彼女へと言った。


「……その人に確認してみます。ただ、無理そうだったら諦めるんで、あまり期待しないでおいてください」

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