数日前、陽彩との話し合い
「……いや、まあはい。事情はわかりましたよ。でも、どうして俺なんです? この場合なら、まずは1期生の皆さんに声をかけたりしませんか?」
2日前、陽彩と初めて顔を合わせた零は、彼女から【ペガサスカップ】に出場するチームメンバーとしてのスカウトを受け、詳しい事情を聞いた後で当然の疑問を彼女に投げかけていた。
【CRE8】1期生Vtuberである陽彩ならば、まずは同期の面々に誘いをかけるのが自然な流れであろうと、そう尋ねる零に対して、彼女に代わって仲介人の1人となった梨子が答える。
「いや~、ぶっちゃけちゃうとひーちゃんは自分と同じコミュ障っすからね~。似た者同士ってことで自分とは仲がいいっすけど、他のみんなとはまともに話したこともないんじゃないかってレベルの関係でありまして……」
「つまりは1期生とも2期生ともそこまで深い関わりはないから、どっちからメンバーを選んだとしてもそこまで差はないってことですか? にしても、どうして男の俺を……って、なんか有栖さんとのコラボが決まった時もこんな質問してませんでしたか、俺?」
【CRE8】所属のVtuberであれば、基本的には誰でもよかった、と……陽彩の引っ込み思案な性格が起因となったなんとも悲しい事情を聞いた零が既視感のある質問を口にすれば、今度はもう1人の仲介人である薫子がこう答えた。
「いや、今回の場合はお前が最適なんだよ、零。デビュー直後とは違って、ファンたちも今のお前には絶大な信頼を寄せている。2期生コラボも特に問題なくこなせたことからもそれがわかるはずだ。今や蛇道枢が女性Vtuberと絡んで不快に思う
「う~ん……まあ、そこまで言われたら悪い気はしないっすけど、やっぱ1期生の先輩たちから選んだ方がいいと思うけどなぁ……?」
「それはそうかもしれないけどね。ぶっちゃけると、残りの7人、全員予定が空いてないんだ。玲央たちビッグ3はもちろんのこと、梨子も私と一緒にハロウィンの新衣装デザインのために今から準備始めなきゃならないし、それが終わっても冬服とクリスマス衣装の作業が待ってる。他の面子も似たようなもんでね……」
「えっ!? 加峰さん、メンバーに入ってないんですか!? 俺にこの役目を押し付けるためだけにここに居るってこと!?」
「自分だってできることなら仕事なんて投げ捨てて坊やとひーちゃんとゲームしてたいっすよ~! ね、薫子さん? 今回は特例として、1か月自分に自由を与えるってのは――」
「あ? 何か言ったかい?」
「いえいえいえいえ、な~んも言ってないっすよ~っ! お仕事お仕事楽しいな~っ!!」
友人と息子とのコミュニケーションにかこつけて、自分の仕事を放棄しようとした梨子へと殺意を孕んだ薫子の視線が突き刺さる。
彼女からの圧に負けた梨子は心にもない言葉を口走りながら必死の弁明を始め、その姿を見た零は即座に梨子がこの問題に対して役に立たないことを理解した。
「はぁ~……まあ、断る理由は特にないんで俺は構わないですけど、蓮池先輩の方こそ本当に大丈夫なんですか? 男と絡んで、リスナーさんたちが暴れたりしませんか?」
「そっ、そこは、大丈夫、だと、思う……確証はないけど、薫子さんも言った通り、蛇道くんにはファンのみんなも信頼を寄せてると思うし、3人目のメンバーが加われば男女での1対1の構図ではなくなるから……」
「本当に大丈夫です? 最近、DMを閉じたからクソみたいな暴言メッセージも怖くないですけど、配信で先輩に直接文句を言ってくる奴がいたとして、耐えられますか?」
「……男女問わず配信者が参加する大会に出場を決めた時点で、ある程度荒れることは覚悟してるよ。それでも、ボクは【ペガサスカップ】に出たいんだ。みんなもボクのその意思を尊重してくれるって、そう信じてる」
零からの再三の確認に対して、やや声を震わせながらもきっぱりとそう言い切った陽彩が顔を上げて彼の顔を見つめる。
すぐに顔を逸らしてしまったため、彼女と目を合わせたのはほんの1秒にも満たない短い時間であったが……それでも、陽彩の覚悟を感じ取ることができた零は、最後の質問として彼女にこう問いかけた。
「蓮池先輩、そこまでのリスクを承知した上で先輩が大会に参加しようとする理由って何なんです? どうしてあなたは、【ペガサスカップ】に出場しようとしてるんですか?」
「あ、えと、そ、その……」
人との付き合いが苦手なコミュ障であり、これまでそういった大会に参加せずともVtuberとして十分順調な活動ができていた陽彩が、どうして急に【ペガサスカップ】の招待を受ける気になったのか?
それを問う零に対してもごもごと口を動かした後、彼女はやや緊張した面持ちでその理由を答える。
「特段、これが理由だ、っていうものはないんだけど……強いて言うなら、2期生のみんなのお陰、かな……?」
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