当然、彼女の妄想


「……っていうクリスマスボイスを考えたんすけど、やってみないっすか?」


「却下に決まってんでしょう! あんた、なに考えてんだ!?」


 ここは【CRE8】本社事務所。その中にある社長室。

 その部屋の主である薫子と、定期面談のために有栖と共に本社を訪れていた零は、どこかネジが抜けた雰囲気の梨子から渡された原稿を読んでから彼女の提案を一刀両断に切り捨てた。


「こんなん炎上するに決まってるでしょうが! なにを考えてこんな案を出したんだ!?」


「ええ~っ! お洒落した2人の絵なら自分が描くっすし、絶対に需要はあると思うっすよ~!!」


「需要があるとかないとかじゃなくて、それをやったら俺が燃えるの! 俺だけじゃなく有栖さんも事務所も燃えるけど、俺は消し炭になるまで焼かれるの! わかります!?」


「大丈夫、大丈夫! なんだかんだでどうにかなってきたじゃあないっすか! 今回もきっと平気っすよ!!」


 なんだか話が通じない様子の梨子の様子に表情を引き攣らせる零。

 さては……と薫子の方を振り返ってみれば、彼女もまた大きなため息をついてから梨子と話を始めた。


「梨子……現実逃避してないで、とっとと任せた仕事を終わらせな。締め切りはもうすぐそこまで迫ってるんだよ?」


「締め、切り……? う、うわぁぁぁぁっ!? い、嫌だぁぁぁっ! 締め切りなんて知らないっ! 仕事なんてしたくないいいっ!! 自分は、自分はっ! かわいい息子とその嫁の絵を描くんだぁぁぁっ!!」


 夢の世界に飛び立っていた梨子は、上司からの容赦ない一言で現実へと意識を引き戻されたようだ。

 すぐさま精神を崩壊させた彼女が社長室の床に寝転がって駄々っ子のようにわめく様を目にした零は、込み上げてきた頭痛に頭を押さえながら有栖と共に部屋を出ていく。


「梨子っ! お前、いい加減にしなっ! クリスマスの話をする前に、ハロウィンイベントに関する絵をだね――」


「うわあああっ! 聞こえないっ! 聞こえないっ!! 自分はな~んにも聞こえないっす~っ!!」


 ……なんとも醜い開き直りだと、母の抵抗を情けなく思う零。

 社長室の扉が閉まるまで聞こえてきたそのやり取りに対して盛大なため息をついた彼は、もう1人の被害者である有栖へと声をかける。


「有栖さん、なんていうか、その……ごめん。加峰さんの暴走に巻き込んじゃったね」


「う、ううん、私は大丈夫だよ! 先輩の書いたお話、面白かったし……」


 零からの謝罪に対して、大慌てで梨子へのフォローを入れた有栖は、部屋から持ち出してきたクリスマスボイス案(怪文書ともいう)を見つめながらぼそりと呟く。


「……こういうプロポーズ、ちょっと憧れちゃうな……」


「ん? なにか言った?」


「えっ!? な、なんでもないよ!! さ、さあ! 面談も終わったし、寮に帰ろっか!?」


「ん? うん、そうだね。どうせだし、どこかでなにか食べてく?」


 自分の呟きを耳にした零からの質問をはぐらかしつつ、話を切り替えてごまかす有栖。

 そんな彼女を不審に思いながらも深くは追及しなかった零は、さらりと2人でご飯に行くという実質的なデートのお誘いをし、それに乗った有栖と共に街へと繰り出すのであった。




――――――――――


本当は1話に纏めるつもりだったのに、この部分だけ貼り付け忘れてました。ごめんなさい……。

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