2期生ウィーク延長戦!The・パジャマパーティー!!

買い出し中の、零



「ありあとあ~したぁ~!」


 聞くだけで気が抜けてしまうような店員からの言葉を耳にしながらコンビニを出た零は、背後のドアが閉まったところで大きな溜息を漏らす。

 時間確認のために取り出したスマートフォンの画面とお菓子が詰め込まれたビニール袋を交互に見た彼は、夜空を見上げながら再び盛大に溜息をこぼした。


 現在時刻、夜9時23分。とっくのとうに日は沈み、深夜と呼んで差し支えのない時間帯に差し掛かろうとしている頃。

 そんな時間に外出し、コンビニでポテチやらチョコやらのお菓子を大量に購入した彼は、どうしてこうなったのかと自問自答を繰り返していた。


「な~んでこうなっちまったんだぁ……?」


 つい数十分前、自分は同期たちと協力しての大型コラボ企画である、2期生ウィークの最終配信を無事に……訂正、無事ではないが、配信自体に問題はなく終わらせたはずだ。

 本来ならば全員で協力して1つの企画を成し遂げた達成感を胸に、その想いを共に抱いている同期たちと談笑でもしているはずなのだろうが……何故だか今、零はこうして買い出しなんかをしているわけである。


 その理由は単純で、配信内でのスイの言動が原因だ。

 同期たちとの別れを寂しがり、もう少しこうしていたいという想いを吐露しながら泣きじゃくった彼女を宥めるために沙織がパジャマパーティーの開催を提案したまではよかった。


 問題は、何故だが女性陣だけで行われるべきであろうその夜会に、男性である自分も参加する羽目になったことだ。


 断ればスイがまた泣き始めるし、かといって本当に参加するわけにはいかないし……と、八方塞がりの状況に追い込まれた零は、取り合えずその場では自分もパーティーに参加するとスイに言って、配信が終わった後でどうにかその約束をなかったことにしようとしたのだが――


「なんで全員、俺が参加することに乗り気なんだよ? 喜屋武さんはまだしも、秤屋さんは拒んでくれよ……」


 ――配信を切り、どうにかこうにかパジャマパーティーへの参加を拒否しようとした零であったが、女性陣はそんな彼に対してお菓子の追加購入を命じてきたのである。


 「え? お前、参加しないの? さっき出るって言ったよね?」と言わんばかりの沙織たちの態度に気圧された零は、自分が当たり前のように女性たちの夜会に参加する前提で話を進めている沙織たちに流されるまま、こうして買い出しに出かけてしまったというわけだ。


 確かにまあ、こんな夜遅い時間に女性を出かけさせるわけにはいかないし、男性である自分が買い出しを担うのは当然の話だろう。

 だが、問題はそれよりもっと前に段階に存在しているんじゃないか……という零の想いは、彼女たちには届かなかったようだ。


「はぁ……ま~た炎上してやがるよ。いや、これは俺も悪い部分があるとは思うけどさ……」


 お陰で蛇道枢のSNSアカウントは微炎上状態。なに美味しい状況を享受してるんだというファンたちからの声が雪崩のごとく押し寄せている。

 ……が、この状況で微炎上状態で済むことが如何に凄いかということを、零は気が付いていなかった。


 「あれはリア様を宥めるために口にしたでまかせのようなものだし、本気でパーティーに参加するわけがないだろう」という考えの者たちが2割。

 「枢も女の子だからパジャマパーティーに参加しても何の問題もないな!」派の者たちがこれまた2割。

 「枢なら女の子たちに手を出す心配もないんだし、2人きりってわけでもないから大丈夫じゃね?」という信頼を込めた意見を持つ者が2割。


 残りの4割の内、3割の人間が「ネタでもガチでも野郎が女の子たちのパジャマパーティーに参加するとか言うんじゃない!」という(まともな)考えを持つ人々であり、最後の1割が「手を出すんだったら芽衣ちゃんにしろ」というくるめい過激派という割合である。


 まあ、今回の炎上はスイの心情を慮って強く出られなかった自分にも責任があるだろうから、甘んじて受け入れることにしよう。

 問題は、この後に待ち受ける夜会をどう乗り越えるか? という部分にある。


 流石の沙織でも、男である自分を家に泊めるだなんてことはしないだろう。

 おそらくはスイを納得させるための方便が半分ほど混じっているはずだから、彼女が眠るまで零をパーティーに参加させる程度の考えだと思う方が妥当だ。


 非常に健康的な生活を送っているスイのことだから、お腹がいっぱいになっている状態も合わせればじきに眠気が襲ってきて、夢の世界に旅立ってくれるだろう。

 それまでの時間を彼女に不審に思われずにどう稼ぐか……というのが、零の最大の課題であった。


「無理だろ、普通に考えてよ。あの4人のパジャマ姿をまじまじと見つめながらお喋りなんて、できるわけねえっつーの……」


 パジャマパーティーなのだから、当然女性陣は寝間着に着替えるはずだ。

 少なくともつい先程までお好み焼きを焼いて食べていたわけだし、そういった匂いがこびりついた服や体のままでいるということを気にする女性としては、シャワーくらいは浴びたいと思っているだろう。

 零に買い出しを任せたのも、そういった身支度を整えるための時間を稼ぎたいという意味合いがあったと考えられる。

 

 そうなれば……まず間違いなく、彼女たちは寝るのに相応しい服装に着替えるだろう。

 急遽お泊りが決まったスイと天は替えの服なんて用意しているわけがないから、沙織や有栖から服を借りて、匂いのこびりついた服から着替えるはずだ。


 そうなれば2人だけがパジャマ姿だなんてのはおかしいだろうから、残りの2人もパジャマに着替えるという流れになるのは目に見えていて……結果として、女性陣全員が薄着になるのは間違いない。


 沙織とスイのただでさえ迫力のあるあれやこれやがより強調される格好になり、有栖もそのかわいらしさが引き出される愛らしいパジャマに身を包むとなれば、男性である零は赤面必至だ。(誰か忘れているとかは言ってはいけない)


 理性がもたないだとか、そういう話をしているんじゃない。

 そんなシチュエーションで、あの4人(特に北と南の二大巨頭)が問題を起こさないはずがないのだ。


 問題が起きればその被害に遭うのは零で、憎たらしい天がそんな状況に陥った彼を弄らないわけがなくて、そんな面白い話を沙織がうっかり配信で喋らないわけがなくって……結果、蛇道枢は炎上する。そんな未来が零の目には見えている。


 頼むから沙織の部屋に行ったら、「もうスイは寝ちゃったから帰っていいよ」だなんて展開になっていてくれないかな……と神に祈りながら、これまで自分の祈りが天に届いたことなんてないということを知っている零は、社員寮の扉を開きながらがっくりと肩を落とすのであった。


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