再度、別行動
「……うしっ。荷物の詰め込み、終わりましたよ」
「OK! 時間的にもちょうどいいし、ケーキの受け取りに行っちゃおうか!」
再合流から十数分後、駐車場にて車への荷物の積み込みを終えた2期生たちは、現在時刻を確認しながら今後の行動について話をしていた。
この後、ケーキの受け取りを済ませてから事務所へと戻り、そこで配信の準備と料理の支度をすることを考えても、まだ十分に余裕はある。
焦る必要はないが、無駄に時間を使う必要もないよな……と思いながら車に乗り込もうとした零であったが、そこでなにかに気が付いた沙織の声が聞こえてきた。
「あっ、やっば~! 揚げ玉を買うの忘れちゃってたよ~!」
「揚げ玉、って天かすのことですか? 忘れてたらマズいものなんです?」
「粉ものには必要不可欠な、お肉レベルに重要な代物だよ~! それなのに地味に影薄いから、うっかりしちゃったさ~!」
「まあ、まだ店から出たわけでもないですし、今から買いに行けばいいでしょ。俺、ちょっくら行ってきますよ」
「あっ、ちょい待ち! 二度手間、三度手間になるのも面倒だし、他に買い忘れたものがないか確認してから行きましょ」
ドアを開け、車から飛び出そうとした零を制止した天が、ご尤もな意見を述べる。
確かにそっちの方が確実だなと、そう判断した零がトランクを開けて買い物袋の中を確認する中、残っているメンバーは改めてこの後の行動についての話をし始めていた。
「どうする? 零が買い物行ってる間、車でケーキの受け取り済ませちゃう? そうすれば、帰りは事務所に直行するだけになるし……」
「確かに、ちょっとした買い物ですけど5分くらいはかかっちゃいそうですもんね。時間を無駄にしないためにも、別行動しましょうか」
「じゃ、じゃあ、わー、スーパーの中、見て回ってもいいですかね?」
「あはは、いいんじゃない? ケーキの受け取りは運転手の私が1人で行けばいいだろうし……沙織、三瓶さんが迷子にならないようについて行ってあげられる?」
「天ちゃんがいいなら私も大丈夫だよ~! 有栖ちゃんはどうする~?」
「え、えっと……私は、零くんと一緒に行動しようかな? もしかしたらですけど、役に立てることがあるかもしれないし……」
追加の買い出しという作業が増えた分、時間のロスを少なくするために再び別行動を取ることにした2期生たちが、それぞれの行動について話し合う。
運転を担当している天は単独で洋菓子店へとケーキの受け取りに、スイと沙織は休憩も兼ねてスーパーマーケットの見物に、そして零と有栖が追加の買い出しをしに再び食品売り場へ……ということで話が決まった時、荷物の確認を終えた零がその会話に加わってきた。
「お待たせしました。調べてみたら、マヨネーズも買い忘れてたんでそいつらも買ってきちゃいますね」
「あ~、了解。それじゃあ、ケーキの受け取りが終わったら連絡するから、この駐車場がどっか別の場所で合流するってことで大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫! 1人で行かせちゃって悪いけど、ケーキの受け取りよろしくね!」
最後の確認を行った後、車から降りた4人はケーキの受け取りに向かう天を見送ってから、再びスーパーの中に入っていった。
キラキラと瞳を輝かせながら案内板を見て、おもちゃ売り場を探すスイの姿に笑みを浮かべた沙織は、振り返ると零と有栖に向かって言う。
「じゃあ、悪いけど買い物よろしくね。私はスイちゃんが迷子にならないように見張っておくから、用が終わったら連絡してよ」
「了解っす。喜屋武さんの方こそ、なんかあったら連絡くださいね」
「うん! ……買い物が終わったからって、無理に私たちと合流する必要はないからね? なんだったらフードコートとかで2人で楽しくお喋りしてても大丈夫だよ~!」
パチン、とウインクをして2人に気を遣った沙織の囁きを聞いた零が少しだけ顔を赤くする。
その気恥ずかしさを誤魔化すように咳払いをした彼は、気持ちを静めてからこう言い返した。
「この後、みんなで飯食うんだから胃の中に食べ物入れたりはしないっすよ。秤屋さんとの合流をスムーズにするためにも、さっさとまとまって行動出来るようにした方がいいでしょ」
「ん~……それはそうかもしれないけどさ~……まあ、その時に応じて臨機応変に行くってことで! それじゃあ、また後でね~!」
おもちゃ売り場を見つけて急いでそこに行きたそうにしているスイに腕を引っ張られながら、からっとした笑みを浮かべた沙織が零と有栖へと手を振って言う。
ちょっと世話焼きが過ぎるというか、こういうことを言われると逆に意識してしまうというか、有難迷惑とは思わないが羞恥が募るなと思いながら有栖の方へと振り向いた零は、彼女もまた自分と同じようにほんのりと頬を赤らめている様を目にすると慌てた様子で視線を逸らした。
(別に買い出しに行くだけだし、いつぞやの時みたいなデートってわけでもないんだから緊張する必要なんてないだろうがよ……)
そう、自分自身に言い聞かせ、有栖にバレないように深呼吸を行った零は、再び彼女の方へと振り向くと今度は普段通りの落ち着いた雰囲気で彼女へと声をかけた。
「んじゃ、俺たちも行こうか。買う物はそう多くないから、安心してよ」
「あ、うん……よろしく、ね……」
なにがどう安心なのか、なにをよろしくされるのか、お互いにわからないままに歩き出す零と有栖。
やっぱりまだ平常運転の状態ではないなと細部に出ている自分自身の浮つきに苦笑しながら、彼は有栖と共に再び食品売り場へと向かっていった。
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