ほんのり、甘い



「マヨネーズ、見つけてきたよ。あとは揚げ玉だけだね」


「そうだね。どうせだし、トッピング類を追加で買っちゃう? 王道系は揃えたつもりだけど、変わり種を少し用意しておくのも面白そうだしさ」


 食品売り場での2度目の買い物は、売り物の位置を把握しているお陰か先程よりもスムーズに進んでいた。

 パパっと調味料を見つけ、それをかごに入れてもらった後、このままでは思っていた以上に暇な時間が出来てしまうなと考えた零が有栖へとそんな提案をする。

 その提案を受けた有栖は小さく頷くと、視線を上に向けて自分たちが買ったものを思い返し始めた。


「えっと、トッピングってどんなのがあるんだっけ? 私、いまいちよくわかってなくって……」


「俺たちが買ったのはお餅とか明太子、あとはシーフードミックスかな? 肉類は豚バラとソーセージを用意したけど……ホルモンとか用意しても面白いかもしれないね」


「おお~……! 王道なやつを聞いても全然わかんないや。零くんはどんなのを入れたら美味しいと思う?」


「ん? う~ん……キムチとか入れると美味しいって聞いたことあるかな。あと、アボカドとか」


「アボカド!? 本当に合うの、それ?」


「俺もやったことないからわかんないよ。だから、いい機会だし試してみようかと思ってさ」


 食品売り場を回りながら、他愛ない話で盛り上がりながら……2人きりでの買い物を楽しむ零と有栖。

 自分の話を聞いて目を丸くしたり、笑ったりしてくれる有栖の姿を見て、心を温かくしながら、零は彼女をからかうように言う。


「そういえば、有栖さんも自炊出来るようになってきたのかな? ちょっとずつ練習してるって、そう言ってたよね?」


「うぐっ……! す、少しは、出来るようになったよ? ほ、ほんの少しだけの進歩だけど……」


「そう! 一応確認しておくけど、前みたいにカップラーメンだらけの食生活は送ってないよね?」


「そ、そっちは大丈夫……だと、思います。零くんがくれるおかずのお陰で1週間ほとんどコンビニ弁当かインスタントラーメンってことはなくなった、けど……」


「……けど?」


「あうぅ……まだ、少し頼ってます……」


 改善されつつはあるが、まだ不健康な部分が抜けきっていない自身の食生活を正直に零へと告白した有栖が、上目遣いで彼の様子を伺う。

 呆れているわけでも、怒っているわけでもなさそうではあるが、結構な頻度で面倒を見てくれている零への罪悪感を覚えた有栖は、慌てた様子で弁明の言葉を口にした。


「で、でも、本当にちょっとは料理が出来るようになったんだよ? 教えてもらった生姜焼き、1人でも作れるようになったし……」


「おっ、そりゃ凄い。大きな進歩じゃない」


「でしょ!? 今度、いつものお返しに零くんに作って食べさせてあげるから!」


「ははは、楽しみにしてます、はい」


 ……本当に何気ない会話の中でさらっと零に手料理をご馳走する約束をしてしまった有栖であったが、彼女自身はその大胆さにまるで気が付いていないようだ。

 普段、彼から料理を分けてもらっているせいか、傍から聞けば彼氏彼女の会話としか思えないこの話の内容が如何に甘いのかということを理解していないように見える。


 どちらかといえば、料理の先生である零の御眼鏡に適うものが作れるかどうかという部分を心配しているようで、彼のために料理を作るということに関しては一切の気恥ずかしさを感じていない様子であった。


「有栖さんも料理が出来るようになってるみたいだし、どうせなら今日の仕込みも手伝ってもらおうかな? 頼りにしてますよ、先生!」


「あぅぅ……からかわないでよぉ……! 零くんや喜屋武さんとじゃあ、比べ物にならないって……」


 2期生の料理出来る組である2人と自分との腕前の差を自覚している有栖が、零の言葉にぷくっと頬を膨らませつつ彼に抗議する。

 どうせ自分が出来ることなんて子供のお手伝いレベルのものでしょ、と彼に視線で語り掛けながらお惣菜・揚げ物コーナーまでやって来た有栖が、目当ての品である揚げ玉を探して台を見まわしていた、その時だった。

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