妹分、客を呼ぶ



「……な~んかあの辺、盛り上がってませんかね?」


「零くんの目にもそう見える~? 私もなんだよね~」


「確かあの辺りって、三瓶さんがいる場所だったような……?」


「な、なんか不安……やっぱ1人にするべきじゃなかったかしら……?」


 それぞれ分担して探していた品物を集め終わり、再集合した零、有栖、沙織、天の4人は、精肉コーナーの周辺がやけに賑わっている様子を目の当たりにして、少しだけ不安な気持ちを抱きながらそんなことを話していた。


 食材のメイン格である肉の捜索を任せたスイがいるであろうその場所の賑わいと、彼女の存在が無関係であることを祈りながら、絶対にそんなことはないんだろうなと理解している4人が、戦々恐々としながら精肉コーナーに近付いていくと――


「うめ、うめ……! わんつか辛ぐで体熱ぐなるのが堪らね……!」


「あら~! 本当に美味しそうに食べてくれちゃって! こっちの方も食べてみる? そのチョリソーとはまた違う風味で美味しいわよ!」


「いんだが!? いだだぎます! ん~っ! 肉汁たっぷりでジューシーだげどほんのりレモンの風味があって、爽やがな味がすます!」


「そうでしょう、そうでしょう! これは女の子も食べやすい、いい商品なのよ!」


 ――試食コーナーの真横で、その実演を担当している女性と話すスイの手には、彼女から渡されたであろうウィンナーが刺さっていた爪楊枝が何本も握られている。

 いったい、どれだけの種類のウィンナーをどのくらい食べたんだ? と思う零であったが、実に美味しそうに女性から渡された試食品を食べるスイの姿を見た他の客たちは、彼女の素直な感想を聞いて食欲をそそられている様子であった。


「ねえ、ママ~! 僕もあのお姉ちゃんが食べてるウィンナー食べたい!」


「そうねぇ……明日のお弁当のおかずにちょうどいいかもしれないし、買っちゃいましょうか!」


「なんか辛いもの食べたくなってきたな……すいません、チョリソー2袋ください!」


「は~い、毎度ありがとうございます! いや~、あなたが宣伝してくれたお陰でバンバン品物が売れるわ~! おばちゃん、助かっちゃう!」


「わー、ただ貰ったもの食っちゅだげなんだげど……おばさんが喜んでぐれで、嬉すい!」


 見た目はおとぎ話に出てくるお姫様なのに、口からは無邪気な感情が籠った津軽弁の言葉が飛び出してくる。

 それでいて実に美味しそうに渡されたものを食べてくれるスイの姿は、確かにインパクトが満載なのかもしれない。


 実際、彼女のお陰でウィンナーの売れ行きもいい感じみたいだし……と、予想外の目立ち方をしている彼女の姿に驚いていた4人の存在に気が付いたスイは、満面の笑みを浮かべながら彼らの下に歩み寄ってきた。


「阿久津さん! 言われたしゃべらぃでだ通り、豚のバラ肉どウィンナー見づげでおいだ! すかも売り場のおばさんと仲良ぐなってまって、サービスすてもらえだんだ!」


「そ、そっすか。よかったっすね、三瓶さん」


「はい! ……これも、皆さんのお陰です。昔みたいに、無口でなにも喋らない私だったら、こんな風に沢山の人に喜んでもらえるようなことは出来ませんでした。皆さんと出会って変われたからこそ、こういう楽しくて嬉しいって気持ちが味わえるんだと思います」


 変な目立ち方をしちゃってますけどね、と付け加えながら、標準語モードとも無口モードとも呼べる話し方になったスイが微笑みながら言う。

 屈託なく笑う彼女の顔と、嬉しそうなその言葉に心を弾ませた零もまた、小さく笑みを浮かべると共に彼女の手から肉類を受け取ると、それをかごに放り込みながら答えた。


「三瓶さんがそういう風に思えるようになったことこそが最大の進歩ですよ。俺たちは特に何もしてません。あなたが自分で前に足を進めたからこそ、新しい景色が見えるようになっただけですって」


「そういう風に、背中を押してくれたのは、皆さんですから……本当に、感謝しています」


 零からの褒め言葉に照れ臭そうにはにかみながら、試食コーナーの女性店員に別れを告げたスイが同期たちと共にこの場を離れていく。

 楽しそうで嬉しそうな年下の妹分の姿を見て、彼女と同じような幸せな気分を味わった4人もまた、これ以上変に目立たぬようにしながら、会計をするためにレジへと向かっていくのであった。

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