大人組、買い物中
「ウーロン茶と~、ジュースと~、炭酸飲料は避けた方がいいよね~? 配信中にげっぷとか出ちゃったら困るしさ~」
「ま、そうね。あとはケーキ食べる時用にちょっと洒落た飲み物でも買っとけばいいんじゃない?」
一方その頃、飲み物の購入を任された大人組こと沙織と天は、相談をしながら適当なペットボトル飲料をかごの中に放り込んでいた。
配信中、冷蔵庫の外に出しっぱなしにすることも考えて、ブロックアイスも一緒に購入しようかなどという話をしつつ、清涼飲料水エリアから移動ようとしていた2人であったが、そのタイミングで沙織がなにかに気が付いたかのように足を止めると天へと質問を投げかける。
「そういえば天ちゃん、お酒飲む? 私は飲むつもりないけど、必要なら何本か買っておこうか?」
「あ~……いい。私はジュースとお茶で十分」
「そう? やっぱ未成年の子たちが大半だし、1人だけ飲むのは気が引けちゃう?」
「まあ、それもあるけどさ……止めてんのよ、飲酒。やっぱ酒でやらかした前科があるわけだし、反省の意味も込めて、ね……」
沙織からの質問に、気まずそうに頬を搔きながら答える天。
泥酔誤爆事件という自身の人生で最大の失敗を振り返った彼女は、その気まずさを誤魔化すかのように派手なリアクションを取りながら沙織へと言う。
「っていうか、配信中に飲んだら絶対リスナーたちからなんか言われるでしょ!? まだ例の事件からそんな日も経ってないし、反省してるようには見えないってお叱りを受けるわよ!」
「あはは、そうだったね~。でも、自発的に禁酒までしてたんだ? 偉いじゃない」
「……別に、次がないってことを理解してるから、再発防止のために出来ることをしてるだけよ。それに、大人がそう何度も年下の子供たちに迷惑かけるわけにはいかないじゃない」
ぼそりと、冷凍庫の中から氷を取り出した天がそれを沙織が持つ買い物かごの中に叩き込みながら呟く。
ぶっきらぼうに見えるが、彼女のその言葉から大きな失敗をした自分を許してくれた零たちへの感謝と、その慈悲を裏切りたくないという想いを感じ取った沙織は、小さく微笑みを浮かべながら前を歩く天へと言う。
「私たち大人のお姉さんたちも、年下の子たちに教えてもらうことが山ほどあるよね~……たまに、どっちが大人だかわからなくなる時があるよ~」
「……まったくよ。2つも年下のくせして妙に聞き分けがいい奴らばっかりで逆に困るわ」
そっと、空いている手で自身の首筋を抑えながら呟く沙織と、再びぶっきらぼうに不満混じりの言葉を吐き捨てる天。
2人とも、まだ出会って間もない年下の同期たちから教えてもらったことや、彼らに手を差し伸べてもらったことを振り返っているのか、その横顔がどこか懐かし気にも見える。
Vtuberとしてデビューしてからまだ半年も経っていないし、同期たちと顔を合わせたのもついこの間のことだというのに……こんなにも出会いを懐かしいと思ってしまうのは何故なのだろうか?
それは多分、ここまでの日々がとても濃い、多くの事件や騒動の連続であったから……それを5人で乗り越えてきたからなのだろうなと、2人して同じ答えへと至った沙織と天は、それぞれが別々の表情を浮かべると相方へと声をかけた。
「ほら、くっちゃべってないでとっとと行くわよ。ウチのNo.1キッズがふらふらして迷子になったら困るでしょ?」
「あはは、それもそうだね~! ここは大人として、年下の子たちの面倒をきっちり見てあげないと駄目だもんね~!」
気恥ずかしさを誤魔化そうとする天と、いつも通りにからからと笑って彼女の言葉に応える沙織。
性格も見た目も様々な面で正反対のようで似ている2人は、単独行動中の最年少同期と早く合流すべく、彼女がいる場所を目指して歩んでいくのであった。
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