第7問(¥3000)



『第7も~ん! こちらは1人が1文字ずつ答える問題となっております! 心を1つにして、正解を叩き出しちゃってください!!』


 トントン、というキーボードを叩く音と共に表示された問題文を読み、出された画像を確認する2期生たち。

 1人1人の責任が重い1文字解答の問題にプレッシャーを感じている彼らは、7問目となる問題に対してそれぞれの反応を見せる。


【画像を見て答えなさい。香水などを入れて使うメイク道具、○○○○○ー。空欄に入る文字を答えよ(カタカナで解答 正解で3000円)】


 問題文と共に表示された画像には、ガラス製の小瓶とスプレーポンプが組み合わさったような道具が映されている。

 それを見た女性陣は、反応の慌ただしさに差はあれど、概ね答えを理解している風な様子を見せていた。


『これは余裕さ~! お世話になってます~!』


『あっ! これ、この間花咲さんに教えてもらいました!』


『わーも学校の友達けやぐが持ってらの見だごどあります!』


『まあまあまあ、大人ならわかる常識問題でしょ!』


『おおっと! 女性陣は答えがわかってるみたいっすね~! ……自分は欠片も答えがわかんなかったことは内緒にしておこう』


 メイク用品ということで、それと関わりが深い女性陣はこの小瓶の名称について小耳に挟んだり、実際に使用していたりしているようだ。

 自分の責任は果たせると、芽衣たちが安堵した様子で答えをフリップに書き込む中……たった1人、答えに皆目見当がつかずに悩む男が唸りを上げていた。


『ぐ、ぐぐ……っ! め、メイク用具ってなんだよ? 完全に俺をメタってるじゃねえか……!!』


 そう、メイクにも化粧にも一切関心も興味もない男性である枢が、唯一この道具の名前がわからずに苦悩しているのだ。

 どこからどう考えても自分を間違えさせるためだけに作られたようなこの問題に対する怨嗟の声を上げる中、しゃぼんが実に楽しそうに笑いながら言う。


『おやおや? ここまで全問正解だった坊やだけが答えを分かってないみたいっすね~! 流石の坊やも化粧用道具の名前は知らないか~!』


『そういうあんたも知らなかったんでしょうが! マウント取ろうとしてブーメランぶん投げてんじゃねえよ!』


『ぐふっ! う、うるへーうるへー! このピンポイントメタ問題に苦しむがいいっす! ぬっはっはっはっは!!』


 見事なカウンターで殴り返されたしゃぼんが悔し紛れに高笑いを上げる。

 そんな彼女の思うがままになっている状況に歯軋りして悔しがる枢であったが、そこで芽衣がこんな質問をしゃぼんへと投げかけた。


『あ、あの……なにかヒントとか上げちゃだめですか? 流石にこれはあまりにも日常生活からかけ離れてるっていうか、枢くんが絶対に知り得ない問題なような気がしますし……』


『確かにこれ、Vtuberとしての活動には一切関係ない上に、星座とか家庭科の勉強とかと違って知る機会が限られてる問題だしね。絶対に枢に正解させないだけのいじわる問題になってると思うわ』


『卑怯だぞ~! フェアじゃないぞ~! 【CRE8】はそんな企業だったのか~!? しゃぼんさんは息子が苦しむ姿を見て喜ぶ悪魔なのか~!?』


『え、ええっ……!? じ、自分は事務所から渡された問題を出題してるだけっすし……いや、悪魔ではあるっすけど、鬼畜ではないっていうか……』


『じゃあ、ヒントください。ちょっとでいいんで』


【そうだぞしゃぼん! 普段迷惑をかけてる息子にちったぁ恩返しをしろ!】

【女のお前がわからないメイク用品の名前を男の枢が知ってるわけないだろ! いい加減にしろ!!】

【#親子関係終了させたくなかったら枢を救えよしゃぼん】


『ひ、ひぇぇ……! コメント欄も悪い意味で盛り上がっていらっしゃる……!?』


 ちょっとばかし悪乗りが過ぎたのか、あるいは問題の内容が意地悪過ぎたのか。おそらくはそのどちらであるとは思うのだが、枢に正解させるつもりがないとしか思えない7問目の問題に出演者、視聴者問わずに抗議の声が上がっていることにしゃぼんが恐れおののく。

 さりとてここで圧に負けて言われるがままにヒントを出してしまってはそれはそれで興覚めだよなと考えた彼女は、超光速で脳内会議を行った末にギリギリ妥協出来る範囲の案を2期生たちへと提案した。


『え、あ、じゃあ……なんか可愛いこと言ってくれたら、ヒント上げるってことでどうっすか?』

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