第4問(¥3000)


『さて、ちょっと話が逸れちゃったっすけど、軌道修正して次の問題に行くっすよ~!』


『……脱線させた張本人が言う台詞じゃねえんだよなぁ』


 先の問題の解答をオープンしてから暫く芽衣を可愛がっていたしゃぼんへと小さな声で枢が突っ込みを入れる。

 彼の声が聞こえていないのか、あるいは聞こえた上で無視したであろうしゃぼんは、次なる問題へと話を進めていった。


『第4問はちょっとしたサービス問題っす! 5人の内、誰か1人でも正解することが出来たら賞金が貰えるっすよ!』


『おっ!? それはいいね~! 3問目の失敗を取り返せるよ~!』


『……な~んか嫌な予感するんだよな。こういう時ってさ』


 どうしてだか気前のいいしゃぼんの様子に何か不穏な気配を感じ取った枢が表情を強張らせる。

 その予感は正しく、MCを務めるしゃぼんの口から飛び出してきた問題を聞いた者は、そのひどさに思わず吹き出してしまう羽目になった。


【現在、CRE8に所属しているタレントの中で、バストサイズの大きさ1~3位を順位も付けて3名答えなさい(1名でも正解すれば3000円)】


『……正直に答えなさい。この問題を考えたの、あなたでしょう?』


『え~っと……ど、どうだったかなぁ? 自分、最近物忘れが激しくって……』


『そうですか。すぐに病院行った方がいいと思いますよ、柳生さん』


『マイサン!? また呼び方が他人行儀になってるっすよ!?』


【こwれwはwひwどwいw】

【残当。また親子の縁を切られたな】

【#そろそろ息子を労われるようになれよしゃぼん】


 正解したら炎上が待っているであろう問題を作ったしゃぼんに対して、またも好感度を急降下させた枢の冷ややかな言葉が突き刺さる。

 こうなることなんて予想出来ただろうとリスナーたちが彼女の判断を大笑いする中、残りの4名は大真面目にこの問題の答えを探っていた。


『え、これ答えわかる? っていうかリア様、先輩たちの名前とか容姿、頭の中に入ってる?』


『わ、わがんね……』


『一応、巨乳の先輩の名前は聞いたことあるけどね~。誰がどのくらい大きいかってのは、比べてみないとわからないよ~』


『これは……しゃぼんさんならではの問題ですね。内容はひどいかもしれないですけど、よく考えるといい問題なのかも……?』


 母親しゃぼん息子に(正当な理由で)泣かされている最中、真剣に答えを導き出すべく話し合いを続ける女性たち。

 それから時間切れを迎えるまでずっと頭を悩ませ続けた彼女たちがそれぞれの答えをフリップに書き記したことを確認してから、しゃぼんが正解発表を行う。


『で、では、正解の発表に移らせてもらいます! バストサイズTOP3を発表して、その答えと合致している解答をしていた人がいるかを確認するって形を取るから、あしからず~!』


【デザインを担当したしゃぼんが発表するってことは、公式が認めた巨乳Vが判明するってことだからな。答えに異論はない】

【CRE8最胸は誰なのか? 今、その答えが明かされる!】

【くるるんの雄っぱいはランキングに含まれますか?】


 正解発表の際、リスナーたちは包み隠さず抱いている興味を前面に出すと共に公式見解となるしゃぼんの発表に期待を疼かせていた。

 やはり誰もが気になる、推したちの中でを持つ者は誰なのか? という疑問に決着をつけてくれるこの答えにリスナーたちが耳を傾ける中、しゃぼんが口を開く。


『まずは第1位! 最胸は誰もが予想していたであろう、【CRE8】が誇る最ママこと、牛尾おせろちゃんだ~!』


『ああ、うん。やっぱりね。そうだと思った』


『おっぱいの話題になると真っ先に名前が出てくる先輩だもんね~』


『わー、この時点で間違えてら……』


『や、やっぱりおうし座の先輩は強いんですね……問題は、ここからだ……』


 1位に関してはこれまでの活動の中で話を聞いていた、【CRE8】内でも巨乳で有名な先輩の名前を挙げれば問題はなかった。

 リアは外してしまったようだが、残る3人が順当に正解を当てており、次の答えを待つ彼女たちはその間にも緊張感を高め続けている。


『続いて、第2位は~……皆さんおなじみ! たらばのたわわなたらば! みんな大好き南国果実! Wおっパイナップル持ちの花咲たらばちゃんっすよ~!!』


『イエーイ! 私、2ば~ん!! ぶいっ!!』


『よっしゃ、当たった!! これはキタでしょ!?』


『私も正解してます! このままいけば、十分に可能性はありますよ!』


 2位に色んな意味で信頼している同期の名前を挙げた2期生たちは、残っていたメンバーが全員正解出来たようだ。

 残すは第3位のみ。生き残りが十分にいる状況に希望を見出した彼女たちが固唾を飲んで最後の発表に意識を集中させる中、しゃぼんが最後の人物の名前を呼ぶ。


『そして最後! 第3位は~……やっぱりみんなが気になっちゃうロリ巨乳! さそり座のあの子! ……じゃなくって、なんと自分、柳生しゃぼんでした~! なっはっはっはっは!!』


『えっ!?』


『なっ!?』


『ありゃ~……』


 予想外の答えを耳にした芽衣たちが、驚きのあまり呆然とした声を漏らす。

 その反応が、しゃぼんの発表した答えが彼女たちの考えと違っていたことを示しており、同じくリスナーたちも納得が出来ないと言わんばかりに【は?】だの【これは胸囲詐欺】といった怒りのコメントを大量に送っている。


 そんな中、飄々としているしゃぼんは、この問題の最大の引っかけについて堂々と説明を行っていった。


『みんな~、問題はちゃ~んと聞かないと駄目っすよ~! この問題で求められているのはバストサイズの大きさ! BWHのBの部分であって、カップ数じゃないんす! その場合、自分も上位にいくってことを忘れてたでしょ~? ぬふふふふふふ!』


『あ~、確かに……胸の大きさ=カップ数のデカさだと勝手に思い込んでたかも……』


『リスナーさんたちも一目でわかる大きい人の名前を挙げるものですしね……』


『しゃぼんさんにしかわからない問題と思わせて、ひっかけ問題でもあったのか~。これはいい問題だね~』


 2重の意味でしゃぼんらしいこの問題の答えと内容を理解した女性陣が悔しそうに呟く。

 逆に、彼女たちを騙したしゃぼんは得意気に胸を張っており、高らかに大笑いしていた。


『まあ、これが悪魔の小狡いやり方ってやつっすよ! 純粋な若者たちは見事に引っ掛かって……あれ?』


『ど、どうかしました?』


 フリップに書かれた答えを確認し、満足気に笑っていたしゃぼんの表情が不意に固まる。

 目を点にして硬直してしまっている彼女の様子に違和感を抱いた愛鈴がかけた声にも反応しないでいた彼女であったが、続いて投げかけられた声にはびくりと体を震わせてみせた。


『どうかしたんですか、柳生さん? まさか、誰か騙せてない人がいたりしました?』


『く、枢、坊や……!?』


 母親を超えるレベルの得意気な声で、意味深な言葉を口にする枢。

 その声を聞き、しゃぼんの反応を目の当たりにした者たちがまさかという気持ちを抱く中、枢は母親をせせら笑うようにしながらこう言ってのけた。


『自分大好きなあなたが考えた問題って時点で、答えのどこかにあなたの名前が出てくることくらい想像出来るんですよ。俺が、あなたの考えを見抜けないとでも思いましたか?』


『ぬ、ぬおぉ……っ!? ぬぐぅぅぅっ!!』


 盛大な呻き声を上げるしゃぼんが、負けを認めたように枢のフリップを画面上に表示する。

 そこには、1位から3位までの順位と名前をぴたりと当てた彼の解答が書かれており、驚く同期とリスナーたちに向け、枢はしゃぼんに対して勝利宣言をしてみせた。


『その程度の浅知恵で息子を騙せると思うなよ? 母親のことは、嫌ってくらいに理解してるんだからな?』

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