冬の2人、ここも似てる
『え~、そうっすねぇ……演技自体は素晴らしいものだったと思うんですよ? 緊迫感とか伝わってきましたし、雰囲気はバッチリだったんですけど……そもそも、雪山で遭難してるっていうシチュエーションそのものがときめきとはかけ離れてるっていうか……』
『な、なんだってっ!?』
『いや、ある意味では心拍数が上がるのは間違いないんですけど、それは命の危機に対する緊張が原因であって、決して良い意味での胸の高鳴りではないんですよね。そもそもやっぱりボイスだけだとそういった命の危機感が強く感じられませんし、ただピンチだってことが伝わるだけなんで、やっぱりときめきとはかけ離れていくことになっちゃいますし……』
『そ、そんな馬鹿な……!?』
『あと、肌と肌を触れ合わせる密着状態っていうのも切り札としては強いっちゃ強いんでしょうけど……炎上が確定するんで怖いっす、はい。普通に秋月さんの時より火力高いと思うんで、今も戦々恐々としてます』
『お、おぉぉぉぉ……!?』
がくりと、その場に崩れ落ちたつららがなんともいえない声で嘆く。
司会役を担っているさくらは、そんな彼女の様子に深く溜息を吐いてから、自分の感想を述べていった。
『そりゃあ、そうなるでしょうよ……言っちゃ悪いけど、あんたの演技にはロマンチックさのロの字もなかったわよ?』
『演技自体は良かったんすよ? 緊迫した場面だからこそ名前呼びもすんなりと受け入れることも出来ましたし……ただやっぱり、ねぇ?』
『ふ、不覚……! 策士策に溺れるとは、このことか……!』
さくらの突っ込みと、枢のフォローのコンビネーションアタックを喰らったつららが無念そうに呻く。
そんな彼女の反応を目にした枢は、こっそりとさくらへこんな質問を投げかけていた。
『……あの、もしかしてなんですけど、冬雪さんって割とポンコツな人だったりします?』
『うん、まあ……なぎさと違って一目でわかりにくいけど、結構なポンコツですね……』
【出たなぽんこつらら! 今日も可愛いぞ!!】
【余所行きの格好いいつららムーブしてたのに、素がポンなことバレちゃったねえ!】
【悪気なく最大火力を枢にぶち込む、これが噂のぽんこつららか……】
【まあ、暖を取ることには成功したんじゃね?(燃料は枢)】
さくらの返答と、盛り上がるコメント欄の反応を確認した枢は、自分が感じたつららへの印象は間違っていなかったと大きく頷いた後、この後に訪れるであろう炎上へと想いを馳せて1人涙を流してしていた。
そんな中、全力でポンコツ&枢への着火ムーブを行ったつららは、顔をがばっと上げると後攻を務めるリアへとはきはきとした声でこう告げる。
『すまない、アクエリアスさん……! 君のために場を盛り上げようとしたが、どうやら私は誤って極寒のブリザードを呼び寄せてしまったようだ。無力な私に代わって、このASMRという強敵を打ち倒してくれ……!』
『は、はい! つららさんの無念晴らすためにも、
『いや、つらら? リアさんは敵だからね? 敵にエールと敵討ち頼んでどうすんのよ?』
『リア様も乗らなくていいんすよ? 大丈夫? 場の雰囲気に飲まれてません?』
【いや~……改めて考えてみると、冬担当の2人ってどっちもポンコツ娘だな!】
【しかもどっちも黙ってると賢そうに見えるっていうのがおもしれえよなぁ……】
まともで、クールそうに見えるリアとつららだが、口を開いてみればどちらも抜けているところがあるということが即座にバレてしまう。
そんな共通点を見つけたリスナーたちがつららの間違ったシチュエーションによる演技を目にして逆に盛り上がる中、もう突っ込み切れないと判断したさくらがリアへと話を振った。
『リア様、大丈夫でしょうか? うちの同僚が本当に申し訳ないんですが、準備の方が整いましたら、演技を開始していただきたいのですが……?』
『大丈夫です! こごまでの皆さんの演技見で、勉強させでもらったんで!』
『おっ! 自信満々だね~! それじゃあ、そんなリアちゃんの演技、行ってみよっか!!』
第2試合とは打って変わって、ハードルが一気に低くなった状態のお陰でリラックスしているのか、リアは実に落ち着いた様子で司会役の2人と会話が出来ている。
そんな彼女の様子を見て取ったたらばがスタッフに号令を送り、配信画面が切り替わった後……準備を整えたリアは、自分が考えたシチュエーションの中で演技を開始した。
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