戦略的、駆け引き



『ちょっ!? あんた遠慮がなさす、ぎゃあっ!?』


 黒煙と不意打ちのWアタックで混乱し、逃走経路を見つけ出せなかった愛鈴が2発目の攻撃を受けダウンする。

 やっぱり可愛さよりも面白さが勝ってしまう悲鳴を上げながら倒れ伏した彼女を抱えた枢が檻を探している間、他の3人もまた情報を交換しながら連携を取ろうとしていた。


『愛鈴さん、煙とか言ってましたよね? 視界を奪う効果なんでしょうか?』


『だろうね。待ち伏せ攻撃を受けたってことは、2戦目の時と同じ投擲能力を持ってるハンターってことだと思うさ~』


『ひえぇ……! 飛んでぐるハンマー、おっかなぇぃ……』


『で、でも、今回は直接攻撃をするわけじゃないから、不意打ちでKOされることはなさそうだよ。遠距離攻撃をしてくる相手の戦いは2戦目で経験したから、少しは楽になると――』


 そう、怯えるリアを勇気付けながら移動していた芽衣であったが、話している最中にパキリという何かがひび割れる音を耳にする。

 彼女がその音に気が付いた次の瞬間には、愛鈴を襲った黒い煙が周囲に立ち込めており、突然の事態に驚いた彼女は、思わず悲鳴を上げてしまった。


『ぴえぇぇっ!? な、なんでっ!? 枢くん今、愛鈴さんを運んでる最中だよね!?』


『ひゃ~っひゃっひゃ! 芽衣ちゃん、見~つけた! 待っててね~! 今すぐそっちに向かうからね~!』


『やああっ! 怖いよ~っ!!』


 バコン、という愛鈴が檻の中に叩き込まれる音と、狂気に満ちた枢の声を聞いた芽衣が半泣き状態で煙の中から逃れる。

 煙の発生状況を見て取った枢が一目散に芽衣の方へと走っていく様を目にした愛鈴は、舌打ちを鳴らしながら枢が使うハンターの能力を仲間たちへと伝えていった。


『わかった! こいつ、投擲と設置の2つの能力を持ってるんだ! 煙を発生させる物……多分、瓶か何かを利用するハンターだと思う!』


『そっか! だからさっき、って言ってたのか! じゃあ、もうステージ上には枢くんの罠が設置されてるってこと……!?』


『け、煙に巻かれると一瞬周囲の状況がわからなくなります! あと、咳き込んでる間は動きが気持ち遅くなってるような気がするので、気を付けてください~っ!』


 火炎瓶ならぬ、煙瓶を投げての視界封じと行動妨害。設置された罠を踏むとデバフを受けた上でその位置がハンターにバレる。

 追跡と索敵のどちらをも可能とするその能力に恐怖する一同であったが、その中でもリアはゲームの中で得た教訓を元に、この場ですべきことへと取り組んでいた。


『あ、愛鈴さん! 助けに来ましたよ~!』


 芽衣が追われている間に、捕まった愛鈴を救出すべく檻へと接近するリア。

 設置された瓶がないかを注意深く観察しながら、どうにか檻の目の前までやって来た彼女であったが、そこでたらばの鋭い指摘の声が響く。


『待って! 芽衣ちゃん、今、枢くんに追われてる!?』


『えっ!? ……い、言われてみれば、追われていないような……?』


『って、ことは……マズい! 一旦そこから離れ――』


 必死に駆け回っていた芽衣であったが、背後を見ればそこに自分を追う枢の姿はなく、彼が自分を追跡していないことがわかった。

 その情報を得たたらばが彼の狙いを看破するも時すでに遅し。檻から愛鈴を出そうとするリアの背後で、ガラス瓶が割れるガチャンという音が響く。


『うわっ!? け、煙だ~っ!!』


『ちょっと待って! これってかなりヤバいんじゃ……!?』


『待ってたぜ! パート2!! なに逃げようとしてるんだよ、愛鈴! お前の家はここだろうが!』


『おんぎゃああっ!?』


 煙に巻かれ、視界を奪われた2人に迫る魔の手。

 既に負傷状態となっている愛鈴を攻撃して再びダウンさせた枢は、ようやく煙から脱したリアを一瞥すると彼女を追跡せずに倒れた愛鈴を元の檻に叩き込む。


『ううぅ……! かにな。まだやってまった~……』


『これで愛鈴さんは2ダウン。次に捕まったらゲームオーバー……残り3人で、まだ1つも終わってない発電機の修理をしなくちゃいけなくなる……!』


『楽しくなってきたなぁ! さ~て、次はどうやって追い詰めてやろうかな~!?』

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