1戦目・後半


 リアと愛鈴を脅かすだけ脅かした後、枢は使っているキャラクターの能力を使って再び姿を消した。

 どこから敵が襲ってくるかわからない恐怖に2期生たちが怯える中、彼は陽気な雰囲気で彼女たちを追い詰めていく。


『さ~て、次は誰を追いかけようかな~? 1回くらいは檻に入れて、救助の練習もさせてあげたいしな~!』


『ほんにわーだげは止めでけ……! 心臓にわりすぎで辛ぇはんで……ひぃっ!?』


『あいったぁっ!? リア様!? 今のはただカラスが飛んだですから! ビビる気持ちはわかるけど、治療に専念して!!』


『はっはっは~! ちなみにだけど、治療のコマンドに失敗すると今みたいに悲鳴が聞こえて、俺に居場所がバレますからね~!』


『ひいいっ!? こ、こっち来るだ~っ!』


『待って! まだ治療完了してないのに逃げないで!!』


 そんな風にドタバタのコメディのようなやり取りをリアと愛鈴と繰り広げていた枢は、そこでふと何かを思い出したような口調でこう言った。


『あ、そういえばなんだけど、芽衣ちゃんがこのロッカーに隠れてるのはわかってるからね?』


『ぴえっっ!?』


 なんでもないようにそんなことを気楽に口ずさみながら、ひっそりと芽衣が息を潜めていたロッカーを開ける枢。

 急に現れた恐ろしい幽霊武者の姿に芽衣が甲高い悲鳴を上げている間に彼女を確保した枢は、そのまま悠々とステージの各所にある檻に向かって歩んでいく。


『さあ、お家に連れてってあげるからね~! ピーマン料理も毎日出してあげるから、残さず食べるんだよ~!』


『ぴゃああっ!? たす、助けてぇぇっ! 誰かぁぁっ!』


【芽衣ちゃんの悲鳴助かる】

【可哀想は可愛い】

【随分と強引な同棲への導きだなぁ……】


 泣き叫ぶ芽衣を小脇に抱え、ピクニック気分で歩いていった枢は、ようやく捉えたランナーを収監する檻を発見し、そこに芽衣を押し込むために近付いていったのだが――


『やらせないよ! これでもくらえ~っ!』


『ぐおっ!?』


『きゃっ!?』


 リアに見舞った不意打ちのお返しだとばかりに飛び出したたらばが、ステージ上のオブジェクトである板を枢へと直撃させる。

 その痛みに怯んだ枢は抱えていた芽衣を取りこぼしてしまい、ハンターの拘束から逃れた彼女は瞬く間に駆け出して遠くまで逃げ去ってしまった。


『ぐおぉぉぉ……! よくも、やってくれたなぁ……!!』


『はっはっは~! 油断大敵だよ、枢くん~! こっちにだって攻撃の手段はあるんだからね~!!』


【流石はたら姉。さすたら】

【やっぱりたら姉はこういう時でも頼りになる!!】

【枢、冷えてるか~!? 芽衣ちゃん逃がしちゃって残念だったね~!】


『助かりました! ありがとうございます、花咲さん!』


『鬼に捕まっても味方が助けてくれればどうにかなるんですね。理解しました』


『くっそぉ……! 絶対に許さん、許さんぞ……! お前だけは地獄に堕としてやるからな、愛鈴!!』


『なんで私!? ここまで無言だったよね? なにもしてないよね!? むしろ巻き添えでやられただけの被害者だったじゃん!』


【まあ、そうなるよなって……】

【今回の生贄はラブリーかぁ……強く生きて】

【くるるんに追いかけ回されるだなんて羨ましいぞ、ラブリー!!】


『なんでお前らもそんな感じなの!? これは流石に納得出来な、ひぎゃあっ!?』


『つ~かま~えた~……!! オラ! 檻に運んでやるから覚悟しろよ!!』


 そしてリスナーたちとコントじみたやり取りを繰り広げている間に枢の接近を許してしまった愛鈴は、負傷状態で更にもう1発の攻撃を受けてしまい、ダウン状態となってしまった。

 先程の芽衣と同じく、枢に抱えられて檻へと運ばれる彼女は必死の抵抗を試みながら、仲間たちが助けてくれることを期待していたのだが――


『そうそう、こんな感じで発電機を回すんだよ~! 3人でやればすぐだね~!』


『人数が多ければ多いほど、早く修理が完了するんですね!』


『ふとが多ぇど安心出来る……えがったぁ……』


『お前ら! 私がピンチになってるのが見えないのか!? 私は無視か!? お~いっ!!』


 ――同期3人は、揃って仲良く発電機を回してこちらには見向きもしない状態だ。

 薄情な仲間たちへの恨み節を叫びながらも檻へと叩き込まれた愛鈴は、その中で尚も憎しみの呪詛を口にし続けている。

 枢はそんな彼女を放置して発電機の修理を終えた3人を追い回し、3人はその魔の手を掻い潜りながら協力して修理を続け、そして――!!


『やった~! 脱出ゲートに電気が通ったよ!! 後はゲートを開けて、脱出するだけさ~!』


『おめでとう! その頑張りに免じて、このゲームはお前たちを脱出させてやろう。ついでに面白いものも見せてやるから、こっちに来てくれ』


『は~い!』


 見事、規定数の発電機を修理して脱出ゲートを通電させた3人は、枢の導きに従ってとある地点に集合する。

 予想通り、そこには檻の中から怨嗟の眼差しをこちらへと向ける愛鈴の姿があり、そんな彼女のことを指し示しながら、枢は話を始めた。


『はい。これが捕まってしまったランナーですね。鬼に3回捕まるか、あるいはこの状態で一定以上の時間が過ぎると……こうなります』


『うわあああっ!!』


 丁度のタイミングで檻が燃え上がり、内部に閉じ込められた愛鈴も炎に包まれる。

 そのまま、地獄に連れ去られるように地中深くまで沈んでいった檻を眺めながら、4人は犠牲になった彼女へと合掌をし、その死を弔ってやった。


『人数が減るとランナー側が不利になるから、しっかりと捕まった仲間は助けてあげようね。それじゃ、今日は解散! 次のステージで会いましょう!!』


『は~い! わかりました、枢せんせ~っ!』


『家に帰るまでが遠足だからな~! 怪我しないように、真っ直ぐ帰宅しろよ~!』


 ゲートが開くまでを見守り、脱出口から意気揚々と逃げ出していく3人を見守っていた枢が学校の先生のように振る舞いながら彼女たちを送り出す。

 3人脱出、1人死亡という形で1回目のゲームを終わらせてロビーへと一同が帰還すれば、予想通りの人物が真っ先に口を開いた。


『枢ぅ! 次、鬼代われっ! 私がお前らを殲滅してやらぁ!!』


『ごめんごめん! でもこれはチュートリアルで、観てくれてるみんなにも捕まったらどうなるのかを理解してもらうために必要なことだったっていうかさぁ……』


『うるせえ! 知るかそんなこと! 私はお前らをボコボコにしないと気が済まないんだ! 絶対にお前らを地獄送りにしてやるんだ~っ!!』


 駄々っ子のように鳴き叫ぶ愛鈴の姿に、リスナーたちも【草】という煽りコメントを送っている。

 取り合えず、ルールの説明と掴みはばっちりという感じで終わった1戦目の盛り上がりは中々のもので、リスナーたちもここから先の配信を楽しみにしながら期待を膨らませるのであった。


 なお、その気持ちを汲んだ枢が彼女と立場を変更し、愛鈴がハンターとなっての第2戦目が行われたが、ものの見事に4人に翻弄された彼女は誰1人として捕まえることも出来ずに全員の脱出を許し、一層怒気を強めたということをここに記しておく。

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