2戦目(3戦目)
『はい、じゃあ2試合目をやっていこうか!』
『うい~っす! ここからは本気でやっていくからな~! お前ら覚悟しろよ~!!』
さらっと愛鈴が惨敗した試合をなかったことにしたたらばの号令の下、本当の第2試合が開始される。
初戦と同様にバラバラの位置からスタートした女性陣も、ようやくホラーゲームの雰囲気に慣れたのか、落ち着いて周囲を観察しながら動いていった。
『うおっ、思ったよりみんな上手くなってるな。姿どころか痕跡も見つかんねえや』
『3試合目ともなれば、多少は……ねぇ?』
『なに言ってるのかな、リア様? これは2試合目だから。まだ2回目のゲームだから』
『こいつ、自分がボロ負けしたゲームを記憶から抹消しようとしてやがる……!』
【三下の小狡いムーブが板についてきたな、ラブリー!】
【キラキラのアイドルだったお前はどこに行っちまったんだ……? でも、愛鈴が楽しそうならOKです!(一般LOVE♡FAN感)】
【誰かに弄られてこそ輝く女、それが愛鈴(だからソロだと……)】
『誰だ今、私をソロだと微妙って言った奴は!? この配信からBANしてやるからな!!』
同期だけでなくリスナーたちからも存分に弄られる面白い女と化した愛鈴の叫びが暗い森にこだまする。
雑にボコボコにされている悔しさに歯噛みする愛鈴であったが、そんな彼女へと怪しい影が忍び寄っていた。
『おいおいおい、リスナーたちとお喋り出来るだなんて随分と余裕があるなぁ!! 追っかけられてる真っ最中だってこと、忘れてんのかぁ!?』
『ひやあああっ!?』
急接近、からの1撃。
コメント欄に注意を向けていた愛鈴は接近する枢の姿に気付かず、あっさりと彼の奇襲を受けて負傷状態になってしまった。
『ちょっと! なんでさっきと違うキャラ使ってんのよ!? 姿を現す音が鳴るまでは攻撃は喰らわないと思ってたのに!!』
『ずっと同じキャラだと見てる人たちも飽きるだろ~? お前だって毎回どのハンターが来るかわからない方が面白くっていいじゃねえか』
『面白くなんかないわ! ただただ心臓に悪いだけだわ! っていうか、あんたさっきから私のこと狙い過ぎじゃない? 私のこと大好きか~? あいっだぁっ!?』
暫しの追走劇の後、綺麗に逃げる愛鈴の背にハンマーを振り下ろした枢が鼻を鳴らす。
地面に倒れ伏した彼女を抱えた枢は、無言のままに近くの檻へとダウン状態になった愛鈴を運んでいった。
『おい! せめて何か言えよ! 無言が1番傷付くだろうがよ!』
『ちょっとうるさいな、こいつ。早めにゲームから退場させるか』
『ざけんな! そうなったらガヤで思い切り騒いでやるからな! お前の集中力をゴリゴリ削いでやるからな! 覚えとけよ!』
枢の手で檻に叩き込まれる最中にも騒がしく彼を罵倒する愛鈴。
そんな彼女の言葉に辟易とした表情を浮かべる枢であったが、遠く離れた位置で発電機が修理されたことを示す音が鳴り響いたことに気が付いてそちらへと視線を向けた。
どうやら、愛鈴が騒がしく逃げ回っていた時間は無駄ではなかったらしい。
同期たちがゲームのセオリーを理解してきたことを感じ取った枢が、修理された発電機の周囲にまだ人がいないかを確認しようと考え、そちらへと向かっていくと――
『愛鈴ちゃ~ん! 助けにきたよ~!』
『たらば~! あんたは助けに来てくれるって信じてたよ~!』
『ちっ! 小癪な生贄共め、連携が取れるようになってきたか……!!』
愛鈴が囮になっている間に発電機を修理し、そちらへと枢の意識が向いたところで捕まった彼女を救助する。
通話をしているお陰で連携が取りやすいということもあるが、確実にゲームに慣れつつある同期たちの動きに舌打ちをした枢は、それでも不敵に笑うと順調に目標を達成しつつある同期たちへとこう言ってみせた。
『調子に乗るなよ~! こっちはまだ、特殊能力を使ってないんだからな。こいつのスキルを見たら、たまげること間違いなしだぜ!』
『そうだった! さっきの試合とはキャラが変わってるんだった!』
『愛鈴さん! 蛇道さん、どったキャラ使ってますたが?』
『えっとぉ……私もきちんとは見れてないけど、確かハンマーを持ってたような……?』
枢が先程の試合から使用キャラクターを変更したことを思い出した女性陣は、唯一彼と遭遇した愛鈴から情報を引き出すことでその能力を探り当てようとする。
愛鈴も仲間たちに貢献しようと、必死に逃げながら目にしたハンターの姿を思い出し、それを伝えようとしたのだが、その最中に悲痛な芽衣の悲鳴が響き渡った。
『きゃあっ!? え? えっ? な、なに? 攻撃されたの?』
『ち、近くに蛇道さんがいるの? でも、姿は見えな……えっ?』
唐突に芽衣の悲鳴が響くと共に、彼女が負傷状態に陥ったことに驚くリア。
芽衣と2人で行動していた彼女は大慌てで周囲を見回すも、攻撃を仕掛けたはずの枢の姿はない。
炎武者のように姿を消す能力だとしても、攻撃する際には姿を現さなければならないはずなのに……と、先の試合で得た学びから生まれた疑問を抱く彼女であったが、その時、自分の使用キャラが痛みに呻くような声を上げたことに気が付き、はっとする。
気が付けば、自分のキャラクターも負傷状態に陥っており、いつに間に攻撃を受けたのかがわからない彼女はちょっとしたパニック状態になってしまっていた。
『な、なすて? 殴らぃでねばって、なんでダメージ受げでらの……?』
『ふふふふふ……! 答え、知りたいですか? なら、教えてあげますよっ!』
『えっ……!?』
間違いなく、自分たちは攻撃を受けている。
だが、攻撃を仕掛けているはずの枢の姿は周囲には見えず、接近された様子もない。
いったい、彼はどうやって自分たちにダメージを与えているのか……? という疑問を抱いていた芽衣とリアは、不吉な笑い声と共に語尾を強めた枢の声を耳にした次の瞬間、その答えを理解した。
ひゅんっ、という空気を裂くような音が聞こえ、何かが自分たちの方へと放物線を描いて飛んできている。
それが回転するハンマーであることに芽衣が気が付いた時には、棒立ち状態になっていたリアの後頭部に吸い込まれるようにして鈍器が直撃していた。
『り、リア様っ!!』
『にゃああっ!? わ、わかっただぁ! 蛇道さんの、能力は……っ!!』
『くっくっくっくっく! 今更気が付いても遅いんだよ! さ~て、これで1人確保だ!! そして――っ!!』
リアをダウンさせた枢が、悠々とした足取りで彼女へと接近する。
それと同時に、彼女と共に行動していた芽衣に狙いを定めた彼は、右手に持っている小さめのハンマーを遠距離から思い切り振り被って投擲し、逃げようとする彼女の背中に見事に直撃させてみせた。
『きゃあああっ!!』
『ふははははっ! これで2人目だぁ!!』
【やば! くるるん、エイム上手くね?】
【これを当てるのって割と難しいのに、連続で命中させんのかよ……?】
【さっきから初見とは思えないくらいにハンター使いこなしてて草】
芽衣の悲鳴を耳にしながら、リスナーたちから送られる驚き混じりの賞賛のコメントを確認しながら、地面に倒れる少女たちの下に歩み寄る枢。
残虐な殺人鬼としての振る舞いを心掛ける彼は、凶悪な笑みを浮かべながら、実に楽しそうな声でダウンしている2人へと言う。
『いつから攻撃が近付いて殴るだけだと錯覚していた? このゲームには、遠距離攻撃が出来るキャラクターもいるんだよ!』
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『スタンパー』
元は百発百中の投擲技術を持つ狩人であったが、部族の仲間に裏切られて命を落とす。
その後、土地神の力によって復活した彼は、裏切り者たちを自慢の投擲技術を用いて捕らえ、自身を蘇らせてくれた神への生贄とした。
それからは小型のハンマーを武器に、獲物を殺さずに捕らえて神への供物とするための儀式を行い続けている。
能力は単純明快で、遠距離からハンマーを投げて攻撃が出来るというもの。
接近せずに攻撃が行える上に外しても硬直時間が短いこの能力は、ランナーが板を使って逃げようとしてもそれを無視して相手を仕留められるということも相まって、恐ろしいまでの攻撃性能を誇る。
反面、足が遅いため単純な追いかけっこはやや苦手であり、更に索敵に関する能力を持っていないため、ランナーが慎重に動き回るとまともに戦うことなくゲームが終わってしまうこともあり得る。
また、投擲したハンマーを当てることは意外と難しく、弾速も遅めであるため、遠距離攻撃が可能といっても使いこなすには熟練が必要だ。
名前は部族の言葉で【叩く者】を意味する。ネットで叩かれまくっている枢が上手く扱えるのはこの名前のお陰かも……?
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