1戦目・前半




『は~い。というわけで始まりました、2期生全員でのホラーゲーム対戦! ちなみに全員がテストプレイで少し触った程度の腕しかないから、そこんとこよろしくね~!』


『プレイ動画とかは観て、ある程度の知識はつけておいたけどね。へたっぴでも許してちょ! ってことで!』


 暗い森の中、バラバラのスタート位置でゲームを開始したたらばと天が、ゲーム配信に際しての注意事項を口にした。

 2人が下手だとか、もっといいプレイがあっただとか、そういう荒れる要因を排除するための注意喚起を行っている間、まだゲームに不慣れな芽衣とリアはやるべきことを探り探りで考えているようだ。


『え~っと……まずはみんなと合流した方がいいのかな?』


『ばって、そうするど見づがった時のリスク高ぐならねが?』


『基本はハンターから隠れながら発電機を回す感じかな。合流は……してもしなくてもいいと思う』


【なんかハンターがランナーにアドバイスしてるwww】

【枢、お前実はそこまで怒ってないだろ?】

【なんだかんだで面倒見がいいのよなぁ……】


 通話には鬼役である枢も参加しており、悩む2人に対してアドバイスを送っていた。

 敵対する間柄であるはずなのにしっかりと同期の面倒を見る彼の様子にリスナーたちがちょっとだけほんわかとした気持ちを抱える中、こっそりと動いていたリアが何かを発見する。


『あれ、なんだこぃ?』


『ああ、それは宝箱ですよ。中を探れば、アイテムを獲得出来ますね』


『へぇ、そうなんですね……って、あれ? 蛇道さん、どうしてわーが宝箱見つけたって……?』


 またも自分の疑問に対するアドバイスを送ってくれた枢に感謝するリアであったが、そこで彼が自分の状況を把握していることに気が付くと顔を青ざめさせる。

 なんだか嫌な予感がしてきた彼女は周囲を見回すも、そこには敵らしき影はない。


 だがしかし、どうしてだかドクドクという心臓の音が緊張と共に高まり続けていることを感じて息を飲んだリアは、意地の悪い枢の言葉に一層恐怖を高めていった。


『リア様~! そんなに慌ててどうしたんですか~? 俺がどこにいるか、わかりません?』


『こ、怖がらせないでくださいよ、蛇道さん……!』


『あ~、そうだな。そうですね~……それじゃあ、そろそろ俺も動こうかな!』


『ふえっ!?』


 枢が少しだけ声のトーンを落としながら言葉を発したその瞬間、リアが操るキャラのすぐ近くで火の手が上がった。

 そして、ひゅ~どろどろというおどろおどろしくけたたましい音を響かせながら燃え上がった炎の中から恐ろしい姿の鎧武者が姿を現すと共に、無防備なリアへと手にした刀を振り下ろし、彼女にダメージを与えてみせる。


『にゃあああっ!? なに? なにが起ぎだの!?』


『あっはっはっはっは! 大成功!!』


―――――――――――――――


炎武者ほむらむしゃ


燃え尽きる炎の中で灰となって死した武者の悪霊が無念となって蘇った存在。


実態を持たない灰の状態はランナーの視界に捉えられにくく、相手に気付かれない内に接近することが可能。

しかし、灰のままでは攻撃が出来ないため、肉体を再構築して実体モードに切り替えなければならない。


モード切替の際には派手な炎が燃え上がると共に大きな音が鳴ってしまうため、そこで間違いなくランナーに気付かれてしまう。

また、灰状態の際は気付かれにくいが完全に見えないというわけでもない。不用意に近付けば、不意打ちのチャンスを逃がしてしまうぞ。


――――――――――――――――


【ほむしゃだ~! 流石はくるるん、炎に絡めたキャラできたか!!】

【綺麗に不意打ちが決まってご満悦な枢、可愛い】

【リア様のリアクションが最高過ぎるwww】


『ああああああっ! 助けてっ! 助けて~っ!』


『あはははは! ほら、頑張って逃げて、逃げて!!』


 感情表現豊かに泣き叫びながら全力疾走するリアと、それを余裕綽々の態度で追いかける枢。

 何度かもう1発の攻撃を食らわせるチャンスはあったが、最初の1回はゲームに慣れてもらうためのチュートリアルのようなものだと考えている枢は、敢えてリアを攻撃せずにいるようだ。


 ……あるいは、ただ泣き叫ぶ彼女の姿を1秒でも長く見ていたいというサディスティックな考えがあるのかもしれないが、まあそれはないと信じることにしよう。


 そうやって、リアとの長い追いかけっこを続けていた枢だが、その耳が捉えたある音を聞くと、意味深な言葉を彼女へと投げかける。


『リア様、そっちに行っていいんですか? もう少し周りを見た方がいいと思いますよ~?』


『えっ? あっ!?』


『ちょっ!? マジでっ!?』


 その言葉に困惑したリアであったが、枢が何を言わんとしているのかは1秒後に理解することが出来た。

 自分が逃げた先には修理中の発電機があり、今も愛鈴がそれを回している最中だったのである。


 動き始めた発電機に一定距離まで近付くと、その修理段階に応じて駆動音が聞こえてくることに気が付かなかったリアが顔を真っ青にする中、枢は彼女ではなく発電機を修理していた愛鈴へと攻撃を繰り出し、刀での斬撃を見舞う。


『いったぁっ! あんた、少しは手加減しなさいよ!!』


『このゲームの攻撃に手加減もクソもないだろうが! 1発で我慢してやったんだから感謝しろ!!』


『あうぅぅ……愛鈴さん、かにな……』


 仲間を巻き込み、ダメージを受けさせてしまったことへの謝罪をするリア。

 2人の追跡を止め、修理がある程度完了していた発電機を攻撃してその妨害を行った枢は、手痛い経験から教訓を得た彼女に改めてアドバイスを送る。


『ま、こういうことがあるんで、物音には気をつけましょうってことっすね。治療のいい経験になると思うんで、2人で回復の練習でもしててくださいよ』


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る