最終判決!!
『え? あ~……う~ん……』
『……裁判長? なんでちょっと悩んでるんですか? まさかとは思いますけど、ここで逆転無罪判決とかあり得ないですからね!?』
枢の提案もとい、質問を受けたたらばが急に悩み始めた姿を見た愛鈴が大慌てで彼女へと詰め寄る。
ここで何でも言うことを聞く権利を行使され、有罪判決が覆ってしまった場合のことを考えて焦る愛鈴は、更に続けてたらばへと叫びかけた。
『わかってますよね、裁判長? 明日からの配信の流れとか、茶番とか、ここでの判決ありきの展開なんですからね!? それを覆されたら、私の脚本とか全部ぶっ壊れることになるんですよ!?』
『ん~……でも、お姉さんなんでも言うことを聞いてあげるよ~! って枢くんに言っちゃったしな~……一応確認するけど、枢くんは何をお願いするつもりなの?』
『無罪判決、それのみです』
『だからそれがマズいって言ってんだろ! あんた、明日の配信の台本読んだよな? 冒頭の茶番の設定とか理解した上でそんなこと言ってるのか!?』
『言ってるんだよ! 俺だって冤罪で刑に服すだなんてのはまっぴらごめんだっつーの! 使えるモンは全部使って有罪判決覆してやらあ!』
【おーっと? 雲行きが怪しくなってきたぞ……】
【こいつはどっちが勝つのかわからなくなってきたな】
【ぶっちゃけどっちが勝ってもおいしいと思う】
段々と流れが変わり始めた配信の展開を見守るリスナーたちが楽し気にコメントを送る。
そんな中、最終兵器を繰り出した枢とそれに対抗する愛鈴は、激しい言い争いを繰り広げていった。
『裁判長! お願いだから今回はその権利の行使を無視してください! 台本読みましたよね? 一生懸命私が考えた脚本を台無しにするつもりですか!?』
そう、2期生ウィークの台本を制作した愛鈴が情に訴える作戦でたらばへと懇願する。
結構頑張って準備を進めたから、それを無に帰すような真似をすることだけは止めてくれと頼む彼女が必死の訴えを行う中、枢もまたたらば裁判長へと叫びを上げた。
『たら姉。ここでたら姉が俺のお願いを聞いてくれれば、炎上1回分が帳消しになるんだ。これはお願い権の正しい使い方なわけだし、このお願いを拒絶する理由はないでしょ!?』
『うむむむむ……! 実に難しい展開になってきたね~……お姉さん、困っちゃうなぁ……』
実に悩ましい、といった風に2人からの訴えを聞いたたらばが唸る。
どちらも筋が通っているというか、別段間違ったことは言っていないので、優劣が付けにくいな……と彼女が悩み続ける中、叫ぶ2人の言い争いはヒートアップの一途を辿っていった。
『枢! あんた、往生際が悪いんだよ! もう観念して有罪判決を受け入れなさいよ!!』
『嫌だね! なにが悲しくてやってもない罪を認めなくちゃならねえんだ!? しかも、有罪になったらお前含む3人から無茶ぶりされるのが確定するじゃねえか! 俺はもう最後の最後まで抵抗するぞ!!』
『あんた、なんだかんだで自分から炎上の火種を作ってきたじゃない! どうせ配信の後で燃えるんだから、私たちからの要求なんておまけみたいなものでしょ!?』
『燃えるんだったらお前だけでも道連れにしてやるよ! 俺だけ不幸になる結末なんて変えてやらあ!』
『性格悪っ! 男らしさの欠片もない思考回路してるわね!』
『人を陰湿な罠に嵌めておいてなに言ってやがる! 性格の悪さだったら、お前が2期生でNo.1だろうが!』
『言ったな!? お前、私が1番性格が悪いことなんてあり得るわけが……くっそ、否定出来ねえ!!』
バチバチに殴り合う2人のやり取りは、やや枢の方が優勢なようだ。
リスナーたちもこのプロレスを楽しんで観戦しており、先程までとはまた違った意味で配信の空気が盛り上がる中、考えることを一旦止めたたらばが裁判長として法廷を静かにさせる。
『静粛に、静粛に! ……う~ん、お姉さんちょっと悩んだんだけどね、枢くんのお願い権に例外を作るのは良くないかな~って思うんだよ。誰かに迷惑かけるわけでもないし、枢くんの本命は芽衣ちゃんだって確信出来たし、そもそも冤罪だし……この条件で枢くんのお願いを断っちゃうと、枢くんの運命はお姉さんのおっぱいよりも軽いのか~、って話になっちゃうしさ~』
『私の努力は裁判長のおっぱいよりも軽いって言うんですか!? そんな水に浮かぶような脂肪の塊が私の運命より軽いと!?』
『結構、おっぱいって重ぇよ。たらばさんくらいの大ぎさになるど特さ大変そうだす……』
『うるせえ!! なんだ? 持たざる者である私には乳の重みがわからねえとでも言いたいのか!? 苦労話に見せかけた自慢かぁ!? おっぱいがある奴は余裕もあっていいですねぇ! 貧乳の私と芽衣ちゃんの気持ちも考えろよ、こらぁ!!』
『なんで私を巻き込んだんですか? おっぱいが小さい面子に私を入れることで、ダメージを分散させようとしないでくれません?』
『あの、お願いだから関係ない話を止めてもらえませんか? なんでこんな短い会話で1人1回はおっぱいってワードを口にするんですかね?』
【カオスここに極まれりwww】
【どうしてだろう、枢に対して羨ましいという気持ちが一切湧き上がってこないのは……?】
【やっぱり2期生のツッコミ役はお前だよ、枢! 頑張ってこの空気をどうにかしてくれよな!】
言い争いは更にヒートアップし、2期生全体を巻き込んだ(枢を置いてきぼりにしたともいう)戦いへと激しさを増していった。
そんな中、悩みに悩み抜いたたらばは、ぽんと手を叩くと名案を思い付いたぞとばかりに天真爛漫な声で同期たちへとこんなことを言う。
『わかった! 枢くんは有罪になりたくなくて、愛鈴ちゃんは明日からの配信の流れを心配してるんでしょう? なら、枢くんを無罪にすることで愛鈴ちゃんの求刑であった言うことを聞かせる権利を枢くんにあげちゃえばいいんだよ!』
『待って! なにも解決してない! なにもいい感じになってない!! それがどう問題の解決に繋がるのか、私には全然わかんないよ!!』
『え、だってそうすれば枢くんが愛鈴ちゃんに「明日からの配信の流れを再計算して台本を作り直せ」って言えるじゃない! 自分から出した案なんだから、それを拒むことはしないよね?』
『違う違う違う! もうなにもかもが違う! それは枢の罪に対しての罰を求めているわけであって、なんの罪もない私がどうして罰を受ける羽目になってるの!?』
『わかった! じゃあ、愛鈴ちゃんは無実の枢くんを陥れようとした罪で有罪!! これで全部解決だね!』
『Nooooooooooooooo!?』
あまりにもフリーダム過ぎるたらばの判決を受けた愛鈴の悲痛な叫びがこだまする。
自由人な彼女に裁判長という全ての流れを決定する権利を持つ役職を任せたことが失敗だったと愛鈴が後悔する中、アクロバティック逆転無罪判決を勝ち取った枢が暫し何かを考え込んだ後、たらばへとこう問いかけた。
『あの……これ俺、無罪ってことでいいんですかね?』
『うん、そうだよ~! 諦めずに戦ってよかったね、枢くん!』
『んで、愛鈴は俺を嵌めようとした罰を受けるってことになったんですよね?』
『そうだね! なんだっけ? ぎしょ~ざいってやつだと思うよ!』
『……えっと、じゃあ、その場合なんですけど……検察側に協力した証人たちにも同じ罰とか適用されますか?』
『『え゛っっ!?』』
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