判決と、刑罰を言い渡す!
自分たちが巻き込まれることを知った芽衣とリアが濁点が付いた声で驚きを露わにする中、逆襲の機会を得た枢は非常にいい笑みを浮かべてみせる。
2Dモデルの立ち絵ではあるが、今まで見たことのないくらいに楽しそうに笑うその姿に恐怖する彼女たちへと、枢は優し気な声で話しかけていった。
『え~っと? 取り合えずリア様からいきますかね。何かしたいこととかってあります?』
『り、リアなんてふと、この配信には来でませんよ。わーは証人Aですんで……!』
『安心してくださいよ、リア様。そんなに厳しいことをやらせるつもりなんてありませんから。そうですねぇ……今度、10万人記念配信をやる時、俺が送ったゲームをクリアするまでプレイしてくれればそれでいいですよ』
『えっ!? わいは!? そ、そったごどでいんだが?』
『いいですよ~! 俺がリア様に酷いことするわけないじゃないですかぁ……!!』
【嘘だな。何かヤバい目的があるぞ】
【鬼くるるん、リア様にどんなゲームをプレイさせるつもりだ……?】
【超難易度のゲームとかだったら1日かかっても終わらないかもな……】
声色と雰囲気から枢がそんな生易しい条件を出すはずがないと判断したリスナーたちのコメントは、リアには見えていないようだ。
ゲームの耐久配信ならば傷は浅いと、枢の上っ面だけの優しい態度にころっと騙された彼女が安堵の溜息を吐く中、もう1人の同期は戦々恐々とした様子で仲間たちの話し合いを見守っていた。
『さて、愛鈴には明日の配信の茶番の脚本を書き直させるとして、だ……! 待たせてごめんね、芽衣ちゃん。さあ、話し合いをしようか……!!』
『ひぃぃっ!?』
これまで常に自分に優しかった枢のちょっと怖い雰囲気に思わず悲鳴を上げる芽衣。
珍しい2人のやり取りに注目するリスナーたちは、可哀想は可愛いの精神でそんな芽衣の様子を見守り続ける。
ここで枢は、彼女に対してなにを要求するのか?
流石にあまり酷いことはしないだろうが、嫁を苛める彼の姿もちょっとだけ見てみたいという興味にわくわくとした気分を抱くリスナーたちの前で、枢はとても優しい声で芽衣へとこう言う。
『そんなに怖がらないでよ。俺が芽衣ちゃんに酷いことするわけないでしょ?』
『ほほほ、本当? ゆゆゆ、許して、くれるの……?』
『ああ、もちろんだよ。大切な芽衣ちゃんに酷いことなんて、できっこないんだからさぁ……!』
『あ、ありがとうね、枢くん。あとその、ご、ごめんね……』
びくびくと怯えながら、一切の油断も出来ないまま、芽衣が自分を許すと告げた枢へと謝罪と感謝の言葉を述べる。
枢は、いっそ滅茶苦茶に怒ってくれた方がまだ怖くないと思いながら恐怖する彼女に向け、少しだけ感情を強めた声で更に続けた。
『……そういえば芽衣ちゃん、ピーマン好きだったよね? 羊さんなんだから、菜食主義だもんねぇ……!!』
『え、えっ……? い、いや、その、私……ピーマンは、苦手で……』
『そうかそうか、そんなに大好きかぁ! なら、明日から暫くはピーマン尽くしのご飯にしよっかぁ……!』
『ぴ、ぴえっ……!?』
【あっ……()】
【くるるんの手料理が食べられて羨ましい気持ちと、完全に胃袋と食生活を握られている恐怖が同居している……】
【芽衣ちゃん、ピーマン嫌いなのかぁ……】
自分が大嫌いな苦い緑色の野菜の名を出された芽衣の顔が、一瞬で青ざめていく。
晩御飯を分けてもらっている身分である彼女は、その作り主である枢の立場を活かしたおしおきに恐怖すると共に、彼の怒りの強さに身震いした。
『ふふふふふ……! チンジャオロース、ピーマンの肉詰め、無限ピーマン……レシピはいっぱいあるから、楽しみにしててね……!! 早速、明日から作って届けるから、残さず食べろよぉ……!!』
『ひ、ひぃぃぃ……!?』
【めい虐助かる】
【ドSくるるんもこれはこれでなかなか……!】
【誰か後で首輪のフリー素材と2人の立ち絵融合させておいて。枢がリード持つ側、芽衣ちゃんが首輪付けられてる側でお願い】
滅多に見れない芽衣を苛める枢という2人のやり取りに一種の興奮を感じたリスナーたちがにわかに沸き立つ。
この後、何かよろしくないあれやこれやが作られる雰囲気が感じ取れるが、まあそれはそれとして今は置いておくことにしよう。
同期たち3人への罰を決め、その執行を宣言した枢は、最後にやり残した仕事を終わらせるべく、配信画面の向こうの人々へとこう告げた。
『……え~、柳生しゃぼんさん。本日を以て、私、蛇道枢はあなたと親子の縁を切らせていただきます。これからは薫子さんからのプレッシャーに負けず、1人で頑張って仕事を仕上げてください。私はもう、フォローとか面倒を見ることとか、しませんので』
【あ、そっかぁ……】
【寂しいけど妥当だな。お疲れ、くるるん】
【待って。お願いだから、待って。マイサン!! これは誤解なの! わかって!!】
【しゃぼん本人いて草。そういうとこやぞ】
【もう枢を息子とは呼べないねぇ】
刑罰から逃れられるはずもなく、息子からの縁切りを宣言されてしまったしゃぼんが必死になってコメントを送っているが、枢は一切反応するつもりはないようだ。
あちらからもこちらからも阿鼻叫喚の声が上がる中、全ての裁きを終えたたらばが仕事を完遂した充実感に微笑みながらリスナーたちへと言う。
『よし! これで全部の問題は解決だね! それじゃあ、枢くんは無罪として、残りの4人はしっかりと罰を受けて、反省するように! というわけで、この辺で配信も終わりにするさ~! 今日は観に来てくれて、ありがと~ね~!! ばいば~い!』
『明日は各個人のチャンネルでホラゲー実況するからな~! 楽しみにしとけよ~!』
【おつ! 1日目からぶっ飛ばしてて面白かったよ!】
【愛鈴、明日までに台本の書き直し、頑張ってな……】
【待って! お願いだから待って! ママを見捨てないで~!!】
【明日からの配信も楽しみにしてる! 2期生ウィークはまだまだこれからだ!】
【¥30000 いのりちゃんねる(SunRise公式)さん、から】
……ED画像を出し、音声を切って、配信を終了する2期生たち。
色々とあった裁判配信が予想外の結末を迎えたことに大騒ぎするリスナーたちは、明日も行われる2期生コラボの配信に期待を疼かせている。
そんなこんなで終わった2期生ウィーク初配信は、大成功といって差し支えのない盛り上がりの後に終わりを迎えた。
なお、この配信の後、梨子は息子から本気で縁を切られたことに号泣し、天は明日の配信で行う茶番の内容を変えるために頭を悩ませ、スイは送られてきたゲームのクソさに精神を摩耗し、有栖は零の手料理のお陰で美味しくピーマンを食べられるようになったそうな。
【明日は21時より、2期生各チャンネルにて、4VS1の ホラーゲーム『チェイス&ハント』を実況プレイ! 復讐者蛇道枢の魔の手から、乙女たちは無事に逃げ延びられるのか!? 乞うご期待!!】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます