裁判長からの、質問
愛鈴の暴論にも近しい求刑に突っ込みを入れつつ、頭を抱える枢。
この敵だらけの状況では、自分を追い詰めるために協力している同期たちから何を要求されるかわかったもんじゃないと冷や汗をかく彼に対して、裁判長であるたらばが言う。
『う~ん、まあ、妥当な要求かな~と私は思うよ~。でも、まだこれで有罪判決や刑が決まるわけじゃないからね~。ここからは、お姉さ……裁判長の質問に答えてもらうさ~。それによっては情状酌量の余地とかがあるかもしれないしね~』
自分にとっての救い……と考えていいのかどうかはわからないが、このまま一気に判決まで突き進むわけではないことを示すたらばの言葉に枢が胸を撫で下ろす。
問題は、自分を燃やすことに関しては同期どころか事務所全体を見ても1、2を争うがばがば裁判長が何を質問してくるかだが……と警戒する彼へとたらばが投げかけたのは、予想通りのとんでもない問いかけであった。
『え~、ではまず……被告人、あなたは2人の女性と同時に交際していたわけですが――』
『してませんからね? その大前提が間違っていることを理解してくださいね?』
『――同時に交際していたわけですが! ……芽衣ちゃんとAさん、より愛しているのはどちらの女性なのかな~?』
『ぶっはっ!?』
初球から超がつくレベルの危険球をぶん投げてきたたらばの発言に盛大に枢が噴き出す。
その問いかけを聞いたリスナーたちは盛り上がっているものの、同時に燃え盛る炎の焦げ臭さがぷんぷんと漂ってきていた。
これはどう答えても燃える気しかしない。というか、燃えることが確定している。
どちらかを選べば残った方が悲しんで、リスナーたちはそちらの肩を持ち、愛鈴もそれを材料に再び枢を責め立てるのだろう。
かといってどちらも選ばなければそれはそれで男らしくないとぶっ叩かれ、愛鈴も嬉々としてそれに乗っかる未来が見える。
なんで1発目からこんな危険な爆弾を解除しなければならないんだと、爆弾処理班と化した枢はたら爆弾の処理に関しての正しい解答を求めて頭を悩ませ続けた後、諦めたような感じで口を開く。
『……あの、ホント、ベクトルが別方向に向いてて簡単にはどちらが上とか決められないんで、どっちも同じくらいだと言わせてください』
『ここに来てそんな中途半端な答えが許されるとでも思っているのか! 男ならはっきりしろ、蛇道枢!!』
【そうだそうだ! はっきりと芽衣ちゃんと答えんかい!】
【どっちを上にしても燃えるけど、同等に扱っても燃える。つまり、詰み】
【罪を裁かれる場で詰みになった、ってか~っ!?】
【↑寒い、死刑】
【異議なし】
……無難といえば無難だが、あまりよろしくない結果をもたらすことを理解しながら、枢はどちらも同じくらいだという答えを返した。
当然、愛鈴からもリスナーたちからもその意気地のない回答に対する批判が飛んできており、質問した張本人であるたらばもその答えに難色を示している。
『う~ん……お姉さん的には、そこはやっぱり芽衣ちゃんが1番です! って答えてもらいたかったな~……残念ながら、ちょっと枢くんの印象悪くなっちゃったよ~』
『うぐぅ……』
そんなこと言えるわけないだろ! と心の中で突っ込みながら小さく呻いた枢は、言われたような回答を口にしたらそれこそ洒落にならない大炎上が起きるに決まっているではないかと思いつつ、それを回避出来ただけでもよかったではないかと自分自身を慰める。
取り合えず、最初にして最大の危険分子は(火傷はしたが)処理出来た。
ここからは今の質問に比べれば多少はマシな質問にはなるはずだ……という彼の淡い期待は、次の瞬間に脆くも打ち砕かれる。
『はい、じゃあ次の質問ね! 被告人は、おっぱいは大きいのと小さいの、どっちが好き?』
『ぶへほっ!?』
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