徹底、追及


『あ~っはっはっは! 今更気が付いても遅いわ!! さあ、リアちゃ……じゃなくて、Aさん! この男の悪行を思いっきり告発してやりなさい!』


『今、本名呼んだよな!? 裁判長! この検察官、証言者のプライバシーを保護する気がまるでないんですが!?』


『う~ん、ちょっとなに言ってるか聞こえないね~! 裁判長の耳はロバの耳~!』


『あんたも裁判長辞めちまえ!! 四面楚歌じゃねえかよ、おい!!』


 検察、証人、そして裁判長と、全てが自分の敵としてのムーブを見せることに対して吼える枢であったが、4人はそんな彼の叫びを無視した。

 そして、そのまま何事もなかったかのように、リア……もとい、正体不明の証人Aが話を始める。


『……初めで会った時は、羊坂さんみだいな関係のおなごがいるどは思わねがったんだ。たげ優すくて、相談にも乗ってぐれで、兄っちゃみだいだなって、段々ど信頼すていぐようになりました』


『え~、現在進行形でその信頼を裏切っていることに関してはノーコメントですか?』


『証人を威圧しない!! ……Aさん、続けてください』


『はい……そうやって仲良ぐなっていったある日、蛇道さんのお母様がら着物のプレゼント届いだんだ。こぃはもう、結婚前提どすたお付ぎ合いすてらどいっても過言でねなって、そう思って……!!』


『被告人はまだ若く、社会経験の浅いAさんを騙して二股を続けていた……ということですね。裁判長、これは悪質極まりないですよ!!』


『異議あり! それはただの仕事で必要な道具を母親に発注しただけであって、検察が主張するような他意は一切ありません!』


『そう言い逃れをしようとすることは目に見えていたわ! 裁判長、検察側は新たな証拠として、被告人の母親である柳生しゃぼん氏からの証言を提出します! これによれば、Aさんへのプレゼントの制作を頼んだ被告人の様子は、明らかに欲望に満ちていたとのことです!』


『おい、証拠を捏造すんな!! そんな事実は一切ねえぞ!?』


『検察側が柳生氏に話を聞いて入手した、確実な証拠です! 柳生氏は、「息子の罪を裁き、更生に向けて努力させてほしい」と涙ながらに語っていました!!』


『……裁判長、この裁判が終わったら正式に母親との親子関係の終了手続きを行いたいのですが、ご協力願えますか?』


『う~ん、やぶさかではないね~! でも、今は自分の裁判に集中しよっか?』


【しゃぼんwwwまた息子を燃やしてwww】

【あの女を先に裁いた方がいいんじゃねえかな……?】

【くるるん、本当にごめんな。もう詫びチャンネル登録しちゃってるから、出所した時に詫びスパチャさせてもらうよ……】


 ぽんぽんと飛び出す都合の悪い情報……もとい、検察側によって捏造された証拠を目の当たりにした枢が怒りによって逆に冷静になりながらたらばへと言う。

 リスナーたちも息子を裏切ったしゃぼんに対しての笑ったり、その行動に対する枢への謝罪を代行したりと、各々の反応を見せながら盛り上がっているようだ。


『被告人! 正直に答えなさい! あなたは下心を持ってAさんに近付き、二股関係を構築したんでしょう!?』


 ここが好機と言わんばかりの雰囲気で枢を責めに掛かる愛鈴。

 バンッ、という机を激しく叩く効果音を使って雰囲気を盛り立てながら、彼女はガンガン枢の罪を責め上げていく。


『両手に花とばかりに美少女たちを侍らかし、男の夢であるハーレムを作り上げようとしたあなたの思惑は既にまるっとお見通しだ! 潔く罪を認め、刑に服しなさい!』


『ざけんな! 誰がやってもない罪を認めるか!! っていうかなんで衣装をプレゼントしたら浮気になるんだよ!?』


【そもそもあの和服衣装が枢からのプレゼントだってことを今知った】

【なんだかんだで枢もリア様のことを甘やかしてるんやな……】

【↑和服衣装とかリア様とか何言ってるんだ? ここにいるのは証人Aさんだから、リア様は関係ないぞ?】

【2期生ウィークなのにリア様の姿がない……リア様どこ? ここ?】


『言い逃れしようとしても無駄だぞ! どうせあんたは、小動物的な可愛さのある芽衣ちゃんとは違ったタイプの女性に手を出したくなったんでしょう!? 和服を着た大人な雰囲気の美少女にあれやこれやをして、帯を引っ張ってあ~れ~とかするつもりだったんでしょう!? この浮気者! そんなに巨乳が好きか!? 芽衣ちゃんのちっぱいで我慢しろ!!』


『……愛鈴さん? 何か今、変なこと言ってませんでしたか? 自分のことを棚に上げて、誰がちっぱいですって?』


『すいません許してください口が滑りました。貧乳は最高です。芽衣ちゃんの胸は小さくていいんです』


『裁判長。この裁判が終わったら、検察の私に対する扱いに対して訴えを起こそうと思うのですが、構いませんか?』


『う~ん、今日は立て続けに依頼が来て大変だよ~! 枢くんの裁判の後はしゃぼんさんとの親子関係断絶の手続きで、その後に名誉棄損で愛鈴ちゃんを芽衣ちゃんが訴えるってことでいいのね?』


『処刑を求めます。今、この場での』


『待って! 本当に悪気はなかったんです! 心の底から謝罪しますからどうか許して!!』


 墓穴を掘った結果、一瞬にして被告人の仲間入りを果たした愛鈴が芽衣に対して全力の謝罪を繰り返す。

 その様子を満足気に笑いながら、鼻を鳴らして見ていた枢であったが、話を引き戻すたらば裁判長の一声で、再び彼への取り調べが再開してしまった。


『静粛に、静粛に! ……話を戻すさ~。検察側は、被告人が芽衣ちゃんとリアちゃんに二股をかけていたとして、それを悪質であると訴えてるんだね? それで、枢くんの罪に対して、どんな罰を要求するのかな~?』


『あの、裁判長? せめてプライバシー保護のRPは守ってくれません? どうして責められてる側の俺が1番Aさんのことを守ってるんですかね?』


『ほんにかにな。やっぱり蛇道さんは優すい……』


『……そう思うのなら、こんな企画にノリノリで参加しないでほしかったなぁ……』


 ボイスチェンジャーを使うAことリアの発言に突っ込みを入れつつ、大きな溜息を吐く枢。

 最早どうにでもなれと、やけっぱちになる彼に対してびしっと人差し指を突き付けた(2次元の立ち絵なので実際は出来ていないが)愛鈴は、聴衆と裁判長に向け、枢に望む罰を宣言する。


『検察側の求刑は1つ! 被害者である芽衣ちゃんとAさん、ついでに私のいうことを何でも聞くという罰を求めます!!』


『実質的に3つ求めてるじゃねえか! あと、さらっと自分も便乗してんじゃねえ!!』

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