証人、召喚



『え~……異議あり! 裁判長、俺には浮気相手どころか、そもそも恋人すらいないんですが……?』


 唐突にかけられた嫌疑を否定すべく、ご尤もな意見を述べる枢。

 しかし、その反論を愛鈴が潰すよりも早く、コメント欄のリスナーたちが否定しにかかる。


【お前は何を言っているんだ?(迫真)】

【確かにお前の言っていることは正しいよ。芽衣ちゃんは恋人じゃなくて妻だもんな!】

【つまりは浮気じゃなくて不倫ってことか……許せねえよなぁ!?】


『被告人の異議を却下するさ~! 被告人には、特別な関係の女性がいたことは明白だもんね~!』


『うぐぅ……』


 まあ、そうなるだろうなと思ってはいたが、一応といった形で行った反論を却下された枢が潰れたカエルのような呻き声を漏らす。

 場が自分の思うがままに進んでいることにほくそ笑んだ愛鈴は、そこから更に彼の罪状について詳しい説明を行っていった。


『被告人、蛇道枢には、特別な関係の女性がいます。しかし、あろうことか彼は、その状態で他の女性にも手を出していたのです!!』


【な、なんだってー!?】

【おいおい、どうすんだよ枢? 俺たちの関係がバレちまったじゃねえか……¥10000 Pマンさん、から】

【ガチホモニキのPマンニキは女性だった……? ガチホモとは、いったい……?(哲学)】


『静粛に! 静粛に!! ……これ、気持ちいいね~!!』


 なんとも締まらない雰囲気で騒ぐコメント欄を制したたらばが話を一旦区切る。

 そうした後、彼女は改めて検察官である愛鈴へと話を振った。


『これは由々しき事態だよ~。その話が本当なら、枢くんには罰を与えないとね~』


『その通りです! 裁判長、まずは被告人の言い分を潰すために、証人を召喚しての尋問を行ってもよろしいでしょうか?』


『うむ、許可します! 検察官は速やかに証人を呼ぶように!』


『……うわ~、逃げ場がないなぁ……! クソッタレな展開になってやがるな~……!!』


 テンポよく自分を追い詰める展開が進んでいることに暴言を混じらせながら枢がぼやく。

 そんな彼を放置した愛鈴は、彼の罪を立証するための第1の証人を法廷と化した配信へと呼び出した。


『では、最初の証人をお呼びしましょう! 被告人と密接な関係にあった女性であり、今回の事件の被害者でもある、羊坂芽衣さんです!』


『……よろしく、お願いします』


 愛鈴の呼びかけに応じて姿を現したのは、リスナーたちが予想していた通りの人物であった。

 弱々しく、衰弱しきった雰囲気の声で登場の挨拶を行った彼女の様子は、可哀想な被害者という印象にぴったりだ。


 これは実は愛鈴こと天による演技指導の賜物なのだが……今はその話は置いておくことにしよう。

 枢の罪を立証するための証人として配信に姿を現した彼女へと、愛鈴が質問を投げかける。


『お辛い気持ちは理解出来ます。しかし、あなたには話を聞かなくてはいけません。羊坂芽衣さん、あなたは被告人である蛇道枢氏と、特別な関係の男女でしたか?』


『……そうだったと、私は思っています。一緒に出掛けたり、食事を差し入れしてもらったり、他にも色んなことを2人でしたのに、それなのに……うぅぅぅぅ……!!』


『あ~……芽衣ちゃんも今回は敵かぁ……そういう感じでくるのかぁ……』


 これもまた予想していたが、これまで味方だった芽衣が自分を嵌める側に回ったことを理解した枢が何もかもを諦めた様子でぼやきを漏らす。

 そんな彼の態度に激高(した演技を)した愛鈴は、吼えるようにして枢へと言った。


『被告人! あなたはこんなにもいたいけな少女を騙し、傷付けたことに対して罪悪感を抱かないのですか!? あなたに人の心はないの!?』


『う~ん……これはもう俺が何を答えようとも配信の後で炎上することが決まってるから、ノーコメントでいかせていただきます』


【見損なったぞ、枢! お前なら芽衣ちゃんを任せても大丈夫だと思ってたのに……!】

【これは有罪だな。間違いない】

【炎上待ったなし。やったなくるるん!】


 ギリギリのラインを攻めるかなり危うい芽衣の発言を耳にした枢は、この後に嫉妬に駆られたファンたちからの総攻撃を受けることを確信して覚悟を決めた。

 と同時に、開き直りの境地に達した彼は、大きく息を吐き出すと共に検察である愛鈴へとこう質問を投げかける。


『ちょっといいっすか? 百歩譲って俺と芽衣ちゃんがそういう関係だってことは認めましょう。でも、俺が浮気した相手ってのがマジでわからないんですよね。そんな人、本当にいるんですか?』


『なにを白々しいことを! そちらに関してもばっちり証言を取れていますよ! このまま続けて第2の証人を召喚したいのですが、構わないでしょうか!?』


『は~い、OKさ~! テキパキいっちゃお~!』


 枢の当然の疑問に対して応えた愛鈴が、たらば裁判長へと更なる証人喚問を求める。

 それを実に軽い口調で許可したたらば主導の下、第2の証人が法廷内へと姿を現した。


『……第2の証人は、プライバシー保護のためにボイスチェンジャーを使用しています。その点をご理解ください』


『了解したさ~! 証人Aさん。今日は素性がバレる心配はないから、ありのままにあったことを話してね~!』


『はい、わがりました! よろすくお願いすます!』


『うん、知ってた。っていうか、素性隠す気これっぽっちもないよな!?』


 ボイスチェンジャーを使ってはいるものの、実に聞き覚えのある津軽弁での返答を耳にした枢が突っ込みをいれながら頭を抱える。

 最初から彼女が来るとは思っていたが、出オチ気味なこの展開をどうするつもりだと不安になると共に、この瞬間に2期生全員が自分の罪を立証するための手筈を整えていることを理解した彼は、口の端をひくつかせながらこう漏らした。


『もうこれ公開処刑だろ? 結果はもうわかり切ってんじゃねえかよ!?』


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