たらくるリアで、あれこれ



『おぉ……! 石がこんなに簡単に壊れた……! やっぱ道具を使うと簡単なんですねぇ』


『そうそう。壊す対象によって使うアイテムが違うから、その辺のことも覚えておくといいっすよ』


『色々教えてもらえて助かります。前のコラボの時は、まだ無口キャラやってたんで……』


『ははは! あれはあれで可愛かったさ~! でも、今のリアちゃんもすっごく可愛いよ~!』


『はうぅ……! あ、あんまりからがわねでけよぉ……』


 初心者のスイをサポートしながら建築に必要な素材の収集を行う零と沙織は、そんな和やかな会話を繰り広げながら彼女にゲームのあれやこれやをレクチャーしていた。

 方言のことをカミングアウトし、同期たちとコミュニケーションを取ることが出来るようになったスイは、本来の純朴な人柄をリスナーたちの前に曝け出している。


 沙織からの褒め言葉に照れるリア・アクエリアスの姿は、もしかしたら少し前のクールな歌姫である彼女を好んでいた人々からは歓迎されないものなのかもしれない。

 だが、そうだったとしても、沙織の言った通り、今の彼女も十分に魅力的であることに違いはなかった。


【照れリア様、可愛よす。やっぱ2期生で1番年下だから可愛がられてるな~!】

【枢お兄ちゃんとたら姉に愛されるだなんて羨ましいぞ!!】

【ちょくちょく出る訛りが可愛くて方言女子に目覚めた】


 リスナーたちも微笑ましい3人のやり取りを観て、ほんわかとした気分になっているようで、コメント欄は実に平和な雰囲気を見せている。


 そんな中、これまで誰も触れなかったが気が付いていたに触れるリスナーが現れた。


【今更なんだけど、リア様新衣装だよね? 浴衣、似合ってます!!】


『あ、そうだ。うっかりして報告忘れてましたけど、和服の新衣装貰っちゃいました。2期生コラボで初お披露目したくて事前に何も言わなかったけど、配信始まっても何も言わなくてごめんなさい』


 そう、リスナーからの指摘を受けてようやくそのことを思い出したスイが苦笑交じりに改めて報告を行う。

 これまで使ってきた洋風のドレスのような衣装ではなく、水色を基調とした浴衣というか、和服を纏った自分自身の姿を大きめに表示した彼女へと、リスナーたちが歓喜と祝福の声を上げた。


【おお、いいね! 無口キャラは基本衣装で、方言キャラの方はそっちの衣装みたいに使い分けられるじゃん!】

【お姫様みたいなドレスで滅茶苦茶訛るのもいいと思う! リア様の場合、衣装が増えると配信で出来ることの幅も増えていいよね!】

【可愛い(可愛い)¥10000】『モツ鍋さん、から』


 そうやって大喜びするリスナーたちの反応を確認しながら、零もまた小さく笑みを浮かべている。

 何を隠そう、この和服衣装を発注したのは、彼なのだ。

 以前に梨子と食事に行った際に彼女の頼んでいた『企業秘密』とは、この衣装のことだったのである。


 万が一の事態に備え、方言が露呈した場合にそれを開き直らせるための手段として用意してもらった和服衣装だが、こんなに早くに使う日が来るとは思いもしなかった。

 別の案件も含めて、梨子にはとんでもない負担を掛けてしまったな……と思う零であったが、この衣装が彼女1人の力だけで作り上げられたものではないということもうすうす勘付いてもいる。


 十中八九、梨子だけでなく薫子もまたリアの新衣装作成に関わっているのだろうなという確信を得ている彼は、この忙しい時に短期間で素晴らしいデザインの衣装を仕上げてくれた叔母に感謝していた。


『和服、いいね~! 似合ってる似合ってる! やっぱリアちゃん、なにを着ても可愛いさ~!』


『あ、ありがとうございます! でもやっぱり、めごぇってしゃべらぃるの慣れねね……』


 こうして方言娘同士で楽しく会話する沙織とスイの姿を見られることに少なくはない喜びを感じる零。

 兄と姉と妹といった雰囲気のメンバーが楽しく会話をする一方で、もう片方の班はというと――?


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