黒羊芽衣、爆誕


『羊坂さん! 木材、取ってきました!』


『はい、お疲れ様です。その箱の中に入れておいてください』


『チッス! チス、チッス! あの、他に必要なものとかってありますか?』


『今は特にないですよ。家の土台を作るんで、それを手伝ってもらえますか?』


『わかりました!』


 ――完全にテンションがおかしい愛鈴こと天は、キビキビと羊坂芽衣こと有栖の指示に従って作業をこなしている。

 彼女の手足となって……というより、彼女の舎弟パシリとして雑用を一手に引き受ける彼女の姿に、リスナーたちもちょっとした面白さを感じているようだ。


【ラブリー、完全に芽衣ちゃんの舎弟になっとるwww】

【割と体育会系のムーブで草】

【俺こんなアイドル嫌……ではないなwww】


 負い目があるというか、公開説教でのやり取りで完全にパワーバランスが決定しているこの2人のムーブに腹を抱えて笑うリスナーたちは、思い思いの感想をコメントとして送っている。

 その中には2人の関係性を危惧していたが、この会話を聞いて険悪な仲どころか茶番が出来る良好な関係が構築されていることを喜ぶ声もあった。


『……あ、愛鈴さん。あっち見てください。何かいますよね?』


『え、あ、はい。そうですね……あれは、ボマー……かな?』


『あれ、こっちに来ると困りますよね? 早めに処理しないと、この辺の地形とか折角設置した土台とかが壊れちゃいますよね?』


『ッスーー……そう、ですね……』


 なにか不穏な空気を察知した天が言葉を濁らせる中、有栖は彼女に伐採用に準備した斧を手渡して、にこやかな声で言う。


『いってらっしゃい、愛鈴さん』


『……あの、自分まだ防具出来てなくって……ボマーの爆発くらったら、多分1発で死――』


『いってらっしゃい、愛鈴さん』


『いやあの、せめて身を守る防具が欲しいかな~、って……』


『逝ってらっしゃい、愛鈴さん』


『……うおおおおっ! やったるぞコラァァッ!! 何がボマーじゃ! アイドルの底力なめんじゃねえぞぉぉっ!!』


【ラブリーwww 完全にやけっぱちになっとるwww】

【くるめい初コラボの時に嬉々として同類である羊を狩ってた、黒羊芽衣ちゃんが戻ってきた!!】

【くるる~ん! 早く戻ってきてくれ~! このままじゃラブリーが無間地獄に突入しちまうよ~!】


【Lovely-888はボマーの爆発に巻き込まれて吹き飛んだ】


『ぎゃああああっ!!』


『あ、お疲れ様です。じゃあ、爆発して抉れた土地を修復してから、また伐採作業をお願いしますね』


『は、はい……! 容赦ねえ。この人、私に容赦ねえよ……!!』


 案の定、討伐に失敗してモンスターの爆発に巻き込まれた天がリスポーンすると同時に、有栖はとてもにこやかに彼女へと指示を出した。

 労いの言葉をかけてくれただけマシだと思いながらも、遠慮も容赦もない扱いに震えあがる天の反応は、またしてもリスナーたちの爆笑を誘う。


 こういった扱いを受ける不憫キャラであり、蛇道枢とプロレスが出来る唯一の同期というなんだかんだでおいしいポジションを得ることが出来た愛鈴。

 そのことに関して2人に感謝しつつ、天は綺麗な三下ムーブを見せ、バラエティーアイドルとしての路線をひた走るのであった。

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