ラスト・メッセージ



『あ、あの~……ホント、申し訳ありません。ちょっと、よろしいでしょうか……?』


『えっ!?』


 突如として配信に第5の人物の声が乗り、その声を耳にした沙織が驚きの声を上げる。

 リスナーたちもまた、予想外の人物の登場に驚きを隠せないようで、コメント欄が一気に加速していった。


【しゃぼん!? どうしてここに!?】

【2期生が集結する配信にどうして1期生のしゃぼんが……?】

【しゃぼんは2期生だった……?】


『いや、あの、本当に申し訳ないです。場違いだってのは理解してるんですけど、どうしても来なきゃいけない理由がありまして……』


 愛鈴の復帰配信兼謝罪配信兼公開説教配信を訪れたのは、本来ならばこの件と深い関わりがあるわけではない柳生しゃぼんであった。

 彼女も自分の場違いさを理解しているようで、途轍もなく気まずそうな様子を見せており、そんな彼女へといち早く気を取り直した沙織が声をかける。


『あの、やぎゅうさん。1期生であるあなたが、どうしてここに来たんでしょうか? なにか愛鈴ちゃんに言いたいことがある、とか……?』


『ああ、いや、その……言いたいことはあるけど、自分が言いたいわけじゃなくって、自分が来たのは代理的な意味合いが強いというかまんまその通りでして……』


 どうやらしゃぼんこと梨子の方も元来のメンタルの弱さをこの緊迫した場面で遺憾なく発揮しているのか、まともに思考能力が働いていないようだ。

 沙織の質問に対してもしどろもどろの要領を得ない返答を返しており、どうにも彼女がこの場に何をしに来たのかが掴めない中、スイがもしかしてといった様子で梨子へと尋ねる。


『あの、もしかしてなんですけど……しゃぼんさんは、蛇道さんの代理で来たんでしょうか……?』


『そそそ、そうっす! 自分、枢坊やの代理で来たっす!! 自分的にも突然過ぎてびっくりこいてるんすけど、状況があまりにもバッチグー過ぎて静観してらんねえなってことで来ちゃったんすよ!』


 スイの助け舟を得た梨子はそう一気にまくし立てるとぜえはあと荒い呼吸を何度か繰り返した。

 リスナーたちは彼女の吐息からこの短いやり取りだけでどれだけ梨子が消耗しているのかを理解すると共に、彼女が口にした言葉を振り返る。


 蛇道枢の代理……この場に来ていない、招待されていない2期生最後の1人の名を出した彼女は、自分はその代理だと言った。

 病み上がりの彼をこの配信に呼ぶことはしないという同期たちの判断を尊重しつつも、枢はどうにかして彼女たちに自分の想いを伝えたいと思ったのだろう。


『本当についさっき、薫子さん経由で枢坊やからのメッセージを預かりました。2期生のみんなが話し合いをする時、自分がその場に行けない場合にこのメッセージを開示してほしいと……現状に対して、みんなが動くだろうってことを予想してたんでしょうね。でもまあ、こんな大勢の人に自分のメッセージを聞かれることになるとは思ってもみなかったんでしょうけど……』


 退院したばかりの枢が、母親であるしゃぼんにメッセージを預けたという一言にリスナーたちがより強い興味を示す。

 この問題の最大の被害者である彼が何を語るのか? ということに不安や期待を渦巻かせているのは、視聴者たちだけではない。


 つい今の今まで怒りを露にしていた有栖も、この場の空気を調整していた沙織も、彼に多大なる恩義と引け目を感じているスイも、そして天も……2期生の全員もまた、零が自分たちに何を言おうとしているのかという部分に、ある種の恐怖のような感情を抱いていた。


『……一応、軽く自分が内容を確認して、言っちゃマズい部分とかは軽く修正入れてるっす。それを踏まえて、聞いてください』


 カチリ、カチリと梨子がマウスをクリックする音が僅かに聞こえた。

 2期生ほどではないが、零の意思の代弁者となった梨子もまた強い緊張を感じているようで……しかし、息子の想いをこの場に集った人々や彼の仲間である同期たちに伝えるのだと自分自身を奮い立たせた彼女は、深呼吸を行った後に口を開き、メッセージの朗読を始める。


『……では、始めます』

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