企画方針、決定
「私は……歌ってみた動画の方がいいと思うさ~。声劇も悪くはないけど、零くんの言うように不安材料が多い。それに、歌ならパートごとに各人の出番を調整出来るけど、お芝居だとその辺りのことも難しいでしょ? 誰かが沢山出番があるのに、他の誰かの出番が少ないだなんてことになったら、ファンのみんなもがっかりするんじゃないかな?」
歌企画を支持した沙織は、そんな風に自分の意見を述べながら天を見つめた。
最後の1票を持っていた沙織の、考えに考えた末の結論を聞いた彼女は、暫し押し黙り、俯いた後……顔を上げ、笑みを浮かべながら言う。
「そっか! 残念だけど、歌ってみた動画を支持する人が多数派ならしょうがないよね! 今回は私の案は却下、ってことで!」
「秤屋さんの案も悪くはないと思います。本当ならどっちも採用したいくらいなんすけど、それでどっちも中途半端になるのが一番怖いんで……すいません」
「ううん、仕方がないよ! 待ちに待った2期生コラボだし、ファンのみんなからの期待も相当凄いことになってるだろうしさ! 下手を打って炎上、みたいなことにならないためにも、ここは手堅い案でいくのが上策でしょ!」
「本当にごめんね~。声劇は、また別の機会にやるってことにしようさ~!」
自分の意見を却下されても明るく振る舞ってくれる天に心の中で感謝しつつ、彼女にフォローを入れる零。
沙織もまた完全に天の案をボツにするのではなく、別の機会で採用すると明言することで、この場の雰囲気を崩さないようにしてくれていた。
こうして、プラスアルファの案を歌ってみた動画を録るという方針で決めた一同は、早速それに向けて動き始める。
「それじゃあ、まずは各人がどれだけ歌えるかの確認から入ろうか? それぞれの歌の技術とか、得意なジャンルとかもあるだろうしさ。それをチェックしてからどの曲を歌うか決めるってことで!」
「そうっすね。でも、確認ってどうやるんすか?」
「こんなこともあろうかと、薫子さんがスタジオを取っといてくれたんよ。今から行って、適当な曲を幾つか歌って、それを自分たちで聞いて分析するってことでどうかな~?」
「あはっ! それいいかもね! カラオケみたいでちょっと楽しそうじゃん!」
まずは分析から、という沙織の案に賛成する零と天。
またしても無言に戻ったスイはさておき、いきなり他人に自分の歌を聞かせるという試練に直面してガチガチになっている有栖を気遣いながら、零は全員に言う。
「じゃあ、スタジオに移動しましょうか。あんま気張らず、秤屋さんが言ったようなカラオケ気分で歌ってみましょう」
「うん、そうだね~! リラ~ックスして、ありのまま~の自分で歌えば、大丈夫よ~!」
そう、仲間たちに告げた沙織を先頭に、零たちが会議室を出て行く。
沙織、スイ、有栖、零……という順番で2期生たちが部屋を出て行く中、最後まで残る天へと振り返った零が彼女へと声を掛ける。
「秤屋さん、どうかしました? みんな、もう行っちゃってますけど……?」
「あ、うん、ごめん! お花摘みに行きたいからさ、先にスタジオ向かっちゃって!」
「あ……っ! す、すいません!」
少し恥ずかしそうに笑う天からそう告げられた零は、自分のデリカシーの無さに大慌てしながら彼女に謝罪した。
彼女に気を遣ったつもりが、逆に不躾な真似をすることに繋がってしまうだなんて……と、自分自身の迂闊な行動を恥じながら、顔を赤くした零が言う。
「じゃ、じゃあ、先にスタジオ行ってますね。ご、ごゆっくり……」
これもまたデリカシーがないんじゃないかと思いつつ、会議室の扉を閉める零。
どうして自分は大事なところでこうなんだと、女性への対処が下手にも程がある自分自身の性格を呪いながら、彼は小走りで先にスタジオへと向かった仲間の後を追いかけていくのであった。
……一方、会議室内。
自分以外の人影が消えた部屋の中で、一人佇む天の口から大きな舌打ちの音が鳴る。
表情を歪め、苛立ちを露わにした雰囲気を思い切り醸し出しながら、盛大な溜息を吐き出した彼女は、それと同時に唸るような声で怨嗟の言葉を口にした。
「ざけんなよ、ガキが……! また私の脚を引っ張りやがって……!」
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