デートの、主目的


「飲み物代、出してもらっちゃってごめんね。次は私が出すから……」


「そんなこと気にしなくていいのに。薫子さんから軍資金貰ってるから、そこから出してるだけだよ」


 ショッピングモールに到着した2人は、まずは小休止と乾いた喉を潤すことを目的としてフードコートにやって来ていた。

 基本的に家に引き籠っている自分たちとはほぼほぼ縁のないお洒落な店でお揃いのレモネードを購入した零と有栖は、適当なテーブルに座ると談笑しつつ、冷えた飲み物で暑い気温によって火照った体を冷ます。


 清涼感のあるレモンの酸味にすっきりとした爽快感を覚えながら、取り合えずの1口を飲み込んだ有栖は、零がポケットから紙切れを取り出している姿を目にして、それがなんであるかを彼に尋ねた。


「零くん、なに見てるの?」


「ん? ああ、これ? 薫子さんから渡された、デートプランが書かれてるメモだよ。ほら、このお出掛けって、アニメの内容に沿って行うキャラ作りみたいなもんだって喜屋武さんも言ってたじゃん?」


「あ、そっか。演じるキャラクターと同じ気持ちになるためには、私たちも同じことをしなくちゃいけないもんね」


「俺もまだ収録全部終わってないから、全部の日程を確認出来てるわけじゃあないんだよね。丁度いいし、2人でチェックしておこうか」


「うんっ!」


 綺麗に折りたたまれたメモを広げ、有栖にも見やすいようにテーブルの上にそれを置く零。

 小さな紙切れを2人して覗き込んだ彼らは、そこに書かれている予定を声に出して読み上げていく。


「え~っと……まずは『カフェで休憩』……って、今の俺たちがしてることじゃん。うわ、無自覚のうちに目的1つクリアしてたよ」


「あはは、本当だ! でも、これから楽しく一緒にここを見て回るんだ~、って期待でわくわくしてる気持ちを作ればいいってわかったから、そっちの目標もクリア出来てるね!」


「そりゃあよかった。で、他には……『食べ歩き出来るスイーツ(クレープ)等を購入し、談笑しながら食す』か。これもそう難しくはないね」


「ここ、結構広いし、そういうお店もいっぱいありそうだよね。それを探すために色々と見て回るのも楽しそうかも」


 1つ1つ、今回のデートもとい、キャラ作りのために必要な行動を確認していく零と有栖。

 自分たちの分身である蛇道枢と羊坂芽衣の気持ちになって、彼らがこのお出掛けでどんなことを考えるのかを想像しながらも友人と過ごす時間を楽しもうと決めている2人の間では、活発な意見交換が行われている。


 ほどよい緊張感と目的意識を持ちつつ、リラックスした状態でデートに臨む2人の精神状態は非常にいい具合のようだ。

 『一緒にランチを楽しむ』、『ゲームセンターで遊ぶ』、『路上パフォーマンスを観賞する』等の指令を確認し、その行動の順番を話し合って決めていった零と有栖は、1枚目のメモを読み終えると次のミッションを確認し始めた。


「お、こっちにはでっかく重要って書かれてるな。どうやら、これがアニメの肝となる部分みたいだ」


「割とここまででデートの定番みたいなものは出てる気がするけどね。アニメの中で、私たちはなにをするんだろう?」


 ここまでの指令は、あくまでアニメ内でダイジェストのような感覚で流される部分に関するもの。

 笑い声やその場に応じた短い会話などを収録するために必要な行動であったが、どうやら2枚目のメモにはアニメの主軸となる部分に関する指令が記されているようだ。


 最序盤で躓いていた有栖はもちろんのこと、彼女と歩幅を合わせるために収録を中途半端なところで中断していた零も、今回のアニメで自分たちの分身がなにをするのかはわかっていない。

 新鮮な気持ちでデートに臨むために、台本のチェックも敢えてせずにいた彼らは、ここでようやく自分たちがこのデートですべき最大の目的を確認することになっていた。


 ちょっとしたどきどきを抱えつつ、メモの裏面を確認する零と有栖。

 まあ、『CRE8Animation』はその名の通り【CRE8】公式主導の下で企画されたアニメなのだから、まさかそんな過激な真似をするはずもないだろうな……という安心感を抱きながらそこに記された文字を目にした2人は、一瞬そこに書かれている文字の意味を理解出来ずに2人して硬直してしまった。


「え、ええっと……?」


「う、うぅん……?」


 困惑を感じさせる呟きと唸りをそれぞれに上げる2人。

 それもそのはずで、自分たちの主目的が記されたそのメモには、薫子直筆の達筆な文字でこう書かれていた。


『羊坂芽衣(有栖)の新衣装となる水着の試着を確認し、その感想を蛇道枢(零)が述べること』






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本日は久しぶりに……?

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