やって来た者、信じ続けた者
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そう言って、不敵な笑みを浮かべる零のことを、李衣菜だけでなく控室の全員が茫然としたまま見つめている。
ややあって、はっとした静流が気を取り直すと共に、零を指差しながら大声で叫んだ。
「早くこいつを摘まみ出して! こいつは沙織と同じ事務所に所属するVtuberよ!! 何が目的かはわからないけど、良からぬことを考えてるのは間違いないわ!」
「待って、静流さん。……阿久津くん、あなたさっき言ったわよね? 沙織に頼まれて、ここに来たって……」
「ええ、そうですよ。ご存じの通り、沙織さんは今、配信中で手が離せないんでね。あの人に代わって俺があなたたちに会いに来たってわけです」
「……どうしてなの? あいつは、どうして私たちにこんなことを――」
「ちょ、ちょっと、李衣菜さん! なに普通に話しちゃってるんですか!?」
「こいつは沙織さんの仲間なんでしょう? なら、私たちの敵じゃないですか! 静流さんの言う通り、摘まみ出した方がいいですよ!」
唐突に姿を現したライバルと同じ事務所に所属している男を警戒する奈々と羽衣が焦った様子で李衣菜へと注意を促す。
その言葉に会話を中断させられた李衣菜は一度大きく深呼吸をすると、話の相手を零から彼女たちに変え、口を開いた。
「彼には私たちを妨害する意図はないわ。もしもそうだったとしたら、恵梨香を助けたりなんかしない。彼が恵梨香を受け止めてくれなかったら、あの子は怪我をしていたかもしれないわ。そうなったら、ライブの続行は不可能……私だったら、自分の手を汚さずにライバルが自滅してくれるだなんて美味しい展開は見逃さない。あなたたちだって、そう思うでしょう?」
「それは、そうかもしれないですけど……」
かっとなった自分たちの行動が原因で招いたピンチを零に尻拭いしてもらった事実を指摘された奈々と羽衣が言葉を詰まらせながら李衣菜の意見に同意する。
恵梨香もまた、突然の事態に動揺しながらも自分を助けてくれた零を悪い人物だとは思っていないのか、彼を追放すべきだという静流の意見には同調せず、黙って成り行きを見守っていた。
「すいませんね。なんか、逆に庇ってもらったみたいで」
「いいわ、別に。私だって同じようなことをしたし……可愛い後輩を助けてくれた相手に、そんな無礼な真似は出来ないでしょう? それに、ちょっと聞きたいこともあるしね」
「このパーカーとキャップのこと、っすか?」
零の言葉に、こくりと頷く李衣菜。
彼がわざわざ裏方に潜入してまで自分たちに会いに来た理由も気になるが、それと同じくらいにその方法も気になる。
零が身に着けているパーカーとキャップは、このライブの運営に関わるスタッフが身分を証明するために着用するものだ。
正確には、社員証を持たないアルバイトや機材や備品の発注に関わる外部の者たちに支給される代物であり、当然ながら普通に入手出来る物ではない。
まさか、こうして潜入するためだけにアルバイトとして応募したとは思えないし、どこでその衣類を手に入れたのか? という疑問を零へとぶつける李衣菜であったが、実をいえば半分以上はその答えに気が付いてもいた。
背面にあるサイドテーブルに脱いだ帽子を置き、堂々と顔を露わにしている零から視線を外した彼女は、この驚くべき事態の中でも顔色を欠片も変化させていない人物を見やり、口を開く。
「祈里、あなたね? 彼の潜入を手引きしたのは」
「……はい」
すっ、と眼鏡のブリッジを押しながら、李衣菜からの問いかけに肯定の返事をする祈里。
その時、ほんの少しだけ彼女の表情に変化が見えたことに愉快さを感じながら、不思議な落ち着きからくる溜息を発した李衣菜へと、祈里は自分の行動を解説した。
「少し前、沙織さんから頼まれたんです。ライブの日に、男の子を1人そっちに送るから、上手いこと李衣菜さんたちと会えるようにしてほしいって……だから、こっそり備品室から道具を拝借して、彼の手に渡るよう準備しておきました」
「頼まれたって……沙織さんから連絡があったの!? どうしてそれを黙ってたのよ!?」
「違う。沙織さんから連絡があったんじゃない……私の方から、沙織さんに連絡を取ったの」
普段はあまり口数が多くない祈里が、衝撃の事実を立て続けに公開していく。
まさか彼女が引退した沙織と連絡を取っていただなんて、と【SunRise】のメンバーが驚く中、逆に納得がいったといわんばかりの表情を浮かべている李衣菜が、穏やかな声でこう尋ねた。
「……いつから、なの? どのタイミングで、あなたは沙織と連絡を取り始めたの?」
「……左程、李衣菜さんと変わりませんよ。花咲たらばの魂が沙織さんだって話が広まって、あなたが【CRE8】の事務所にアポなしで突撃したその日です」
そう語る祈里を見つめながら、彼女の言葉を聞きながら……李衣菜は、大切なことを思い出していた。
ついさっき、零によって救われた恵梨香が自分のことを大いに尊敬してくれているように、祈里が誰よりも沙織のことを尊敬していたということを。
いや、今の彼女の様子を見るに過去形ではないのだろう。
今も祈里は、沙織のことを尊敬し、信頼し続けているのだ。
「あの噂が広まる前から、沙織さんがVtuberに転生して活動していることは知っていました。本音を言えば、もっとずっと前から今の私たちの状況を沙織さんに相談したかった。出来ることならばまた【SunRise】に戻ってきてほしいって、そう言いたかった……でも、新しい一歩を踏み出したあの人の邪魔をしたくなかったから、形は違えど、もう1度ステージに立つ沙織さんの姿を見たかったから……その気持ちを押し殺していました」
「その我慢を解禁したのは、私が沙織を尋ねたことを知ったから? それとも、2年前の事件が広まってしまったから?」
「両方、でしょうか。自分でもよくわかりません。ただ、こんな状況だからこそ、沙織さんと話す機会はここしかないって思って、それで――」
「もういいわ。大体の事情はわかったから……あなたは
段々と、声に熱が籠り始めた祈里の言葉を李衣菜が遮る。
今の彼女の話を聞きたくないわけじゃない。だが、自分たちにはそれ以上にしなければならないことがある。
自分たちに与えられた15分という短い時間の中で、そのことを最優先に考えた彼女は、再び零へと視線を戻すと彼へとこう問いかけた。
「改めて聞くわ、阿久津零くん……あなたはどうしてここに来たの? あいつは、沙織は、あなたに何を託したの?」
「……伝言を、1つ。あまりごちゃごちゃしたものじゃあない、シンプルなメッセージを預かってきました」
「そう……じゃあ、聞かせてもらえるかしら? そのメッセージとやらを……」
静かに、穏やかに、親友からの言葉を受け止める心構えを作った李衣菜が呟く。
そんな彼女と、様々な感情を抱きながら自分のことを見つめ続ける人々からの視線を浴びる零は、1つ深い呼吸を行った後、沙織から預かってきたメッセージを彼女たちに向けて告げた。
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