集合、同期3人
「ぴぇっ!?」
突如として自分たちへと投げかけられた女性の声に悲鳴を上げた有栖が、まるで小動物のように跳び上がってから零の背に隠れるようにして彼へと縋り付く。
その様子に苦笑しつつ、聞き馴染んだその声の主の方へと振り返った零は、自分たちの方へと歩いて来る沙織の姿を見つけると、彼女へと挨拶の言葉を口にした。
「おはようございます、喜屋武さん。今朝はありがとうございました。お陰で、馬鹿みたいなデマが広まらずに済みましたよ」
「いいよ、そんなの気にしないで~……っていうか、私の方こそごめんね~。なんか、また別の理由で炎上させちゃったみたいで」
「大丈夫っすよ。こんなの可愛いもんですし、俺は気にしてませんから」
会話をしながら、零たちが座っているテーブルの空いている椅子に腰かけた沙織がやや申し訳なさそうな顔を浮かべる。
軽はずみな言動で零に迷惑をかけたことを申し訳なく思っているであろう彼女は、ぱちんと音を立てて手を合わせると、改めて彼へと謝罪を行った。
「本当にごめんね~! お詫びといったらなんだけど、零くんの言うことなんでも1つ聞くよ~! 私に出来ることがあったら、遠慮なく言ってほしいさ~」
「えっ!? な、なんでも、っすか……?」
「うん! お姉さん、1つだけなら何されても許しちゃうさ! してほしいことが決まったら、教えてよね~!」
「あ、あはは……考えておきます、はい」
曖昧に笑って誤魔化しながらも、距離感が近くて無防備な沙織の言葉にどぎまぎとした緊張を覚えてしまう零。
先日の買い物の時に着ていたものと色が違うタートルネックの縦セーターを身に纏った彼女は、やっぱりその抜群のプロポーションを惜しげもなく披露している。
椅子に座り、前屈みになった沙織の大きな胸がテーブルの上に乗った瞬間、ずしっという机が軋むような音が聞こえてきたのは勘違いではないだろう。
現在進行形で炎上の火種を作っている気がしてならない零が、また下手を打ってはマズいと乾いた笑いを口にし続けてみれば、そんな彼にぴったりと張り付く有栖の姿を目にした沙織の方から話題を切り替えてくれた。
「んぁ? その子は誰かな~? もしかして、零くんの彼女さん?」
「ち、違いますよ! この子は入江有栖さん。俺たちと同期の羊坂芽衣の魂をやってる人です! ……ほら有栖さん、挨拶、挨拶!」
「あ、ひゃ、ひゃいっ! いいい、入江、有栖と申すものでございますです。どどど、同期として、これからよろしくお願い申し上げ奉ります!!」
「ああ、この子が! はじめまして。私は喜屋武沙織、花咲たらばの魂やってるよ~! 私の方が年上だから、遠慮せずに頼ってね~! これからよろしく、さ~!」
女性恐怖症によるパニックを引き起こしながらも一生懸命に挨拶をした有栖へと、沙織が微笑みながら挨拶を返す。
エネルギッシュではあるが、他者との関わり方を熟知している沙織は、必要以上に有栖との距離を詰めることはせず、彼女が安心して話せるラインを引いてそこからの会話を行っていた。
「マリちゃんって子の配信、観たよ~。有栖ちゃん、女の人が苦手なんだよね? 私のことも怖い?」
「あ、え、あ、あの、それは、その……」
「ん~、ちょっと答えにくい質問だったかな~? 意地悪なこと聞いちゃってごめんね。でも、少しずつでいいから私とも仲良くしてくれると嬉しいさ~!」
「は、はい……ど、努力、します……!!」
「うん! よろしく!! 何かあったらがんがん頼ってちょうだいよ~!!」
有栖と沙織の間に挟まれながら会話を聞いていた零は、沙織の距離感の保ち方に感嘆の声を漏らす。
引っ込み思案な有栖に代わって会話の主導権を握りながらも、ぐいぐいと距離を詰めることはしない。むしろ彼女の出方を待ち、向こうからのアクションを待ち続けられるだけの余裕を見せながら話し続ける沙織のコミュニケーション能力の高さは、このやり取りだけでも十分に理解出来た。
自分の時もそうだったが、沙織は距離感が近いように見えて相手との最適な距離感を掴んで接しているきらいがある。
ただの距離なしではなく、高いコミュニケーション能力を活かして相手との潤滑な関係性の構築を行う彼女は、その明るい性格も相まって誰とでもすぐに友達になれるような魅力と雰囲気があった。
(俺の時もそうだったけど、相手が不快にならないようにしながらも自分に興味を持たせるってことを自然と行ってるんだよな。初見から胸をアピールしておいて、それを後に引き摺らせないって結構凄くないか?)
改めて、沙織のコミュ力に感心しながら、うんうんと頷く零。
彼女ならば有栖ともいい関係を築けるのではないかという思いを抱きながら2人のやり取りを見守る彼の前で、2人のやり取りは次のステップへと移行していった。
「ひゃ、わわわわわ……!?」
「おお? もしかして有栖ちゃんも私のおっぱいに興味津々なのかな~? 目を引くのは確かだもんね~」
沙織が思ったよりも安心して話せる相手であることを理解して気が抜けたのか、有栖の視線は彼女の顔からテーブルの上に乗る見事な胸に吸い寄せられていた。
同じ女性である有栖からしても、やっぱりあれは気になる代物なのだろう。
自分にはない大きくたわわな果実に目を引かれる彼女へと、沙織がからかうようにして声をかければ、はっとした有栖がびくりと体を震わせた後、謝罪の言葉を連呼
し始めた。
「ひいっ!? すいません、すいません! 不躾な目で見てごめんなさい!」
「あはは、いいさ~! 私は慣れてるし、全然気にしてないよ~! なんだったらちょっと触ってみる? お姉さんはバッチコイって感じだからさ~!」
「ぴぇぇ……!?」
胸の中に飛びこんで来いとばかりに腕を広げながら、沙織が言う。
その言葉を受けた有栖が彼女の陽のオーラに圧され、恐怖とはまた違う妙な感覚に怯えて零に縋り付いた結果、彼もこのやり取りに巻き込まれることになってしまった。
「どうせなら零くんも一緒にどう? さっきの1回何でも許す権利使って、有栖ちゃんと揉んでみる~?」
「ぶふおっっ!? な、なに言ってるんですか、喜屋武さん!?」
「赤信号、みんなで渡れば怖くない……の理論に基づいて、2人で一緒に触れば有栖ちゃんも怖がらなくて済むかな~、って思ったんよ~! どう? 名案だと思わない?」
「思わないに決まってるでしょ! 普通に問題だらけっすし、またうっかり喜屋武さんが口を滑らせたらそれこそ大炎上からの逮捕パターンっすよ!?」
「あはははは! それもそっか! でも、本当にいいの~? こんなチャンス、2度とないかもしれんよ~?」
「うぐっ……!?」
うぷぷといたずらっぽく笑って、胸を強調するように腕で支える沙織。
その動きと言葉に顔を赤らめ、口ごもった零は、確かにちょっとばかり惜しい気もするなと正直な想いを心の中で湧き上がらせていたのだが……
「……零くん? 流石に自重出来るよね?」
「いだっ!? わわわ、わかってるって! んな馬鹿なことするわけないじゃん!」
自分の背に隠れている有栖に脇腹を掴まれ、ぐぐぐと握り締められる痛みで我に返った零が大慌てで彼女へと取り繕いの言葉を口にする。
その小さな体の何処にここまでの力があるのかというくらいに握力を込め、低い視点から自分を見上げてくる有栖のハイライトが消えた瞳に怯えた零が若干の恐怖を抱く中、そんな彼らのやり取りを見ていた沙織が楽しそうに微笑み、口を開く。
「2人は仲がいいんだね~。コラボに参加してもらえなかった時は心配したけど、その様子を見れば何も問題ないってことがわかるよ~」
「あ、えっと、その節では、大変なご迷惑をお掛けしました……」
「あはは、迷惑なんてかけられてないってば~! 色々あったけど、2人がまた元通り活動出来るようになって安心したし、同期全員が揃う機会なんてこの先いくらでもあるでしょ~? 事件に巻き込まれて炎上や活動休止になったとしても、引退せずにいればなんくるないさー!」
にぱっと笑いながらそう語る沙織に、今度は小さく頷いて有栖が応える。
フォロー力というか、お姉さん気質というか、こういう相手を包み込む母性のような温もりは、芽衣の盾担当と呼ばれている枢こと零には持ち合わせていないものだ。
周囲の人間と潤滑にコミュニケーションが取れるだけの能力も、ついつい引き気味になってしまう相手をフォローする力も、沙織は抜群のものを有している。
零が外部の人間やファンたちを相手取ることを得意としているとするならば、沙織は内側の人間、身内に対する接し方が非常に上手い人物だということになるだろう。
性格や花咲たらばのキャラクター性、そして零たちよりも年上ということも考えると、2期生のまとめ役は彼女が担うに相応しいのかもしれない。
リーダーと呼ぶには少し抜けている部分が気になるが、センターとしてならば彼女ほどうってつけな人物はいないなと、沙織の気質に感心した零であったが、流石にこの炎上一歩手前のセクハラじみた会話からはそろそろ離れなければならないとも思う。
そうやって、何か別の話題を探して談話室のあちらこちらへと視線を向けてみれば、設置されている大型のプラズマテレビが、うってつけの題材を提供してくれた。
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