転生、それが生み出す弊害
転生……1度死を迎えた命が、また別の生命として生まれ変わるその言葉は、普通の人生においては滅多に使われることはないだろう。
せいぜい異世界チート的なアニメやマンガを観る時くらいにしか扱われないその言葉だが、Vtuberとして活動する者、あるいはそのファンに関しては例外である。
Vtuberにとっての転生とは、本来の意味とは似て異なる意味合いを有していた。
以前より配信や人前に出る活動をしていた人間がその活動を休止、あるいは引退した後、新たな姿と名前を得て、Vtuberとして活動することを指しているのだ。
この界隈でありがちなのが、元人気配信者がVtuberとして活動をするというもの。
何らかの事情があって顔は出したくない人間が、その部分をキャラクター絵に補ってもらうことで問題を解決しつつ、以前の名を隠して活動を開始するなんてことはざらにある話だ。
Vtuber事務所側も、雑談や歌、ゲーム実況といった実績を持つ人気配信者は即戦力として役立つことがわかっているので受け入れやすいし、魂となっている人物がバレたところで以前のファンを取り込める可能性があるのだからメリットだって十分にある。
配信者、あるいはアイドル等のタレント活動をしていた存在からVtuberへ。変わったところだと、Vtuberから別のVtuberへと以前の姿を変えて活動を開始することをファンたちは転生と呼び、同時にその魂となっている人物を発見した時は、当該Vtuberの前世という表現を用いることが定番となっていた。
とまあ、こんな風にVtuber界隈の用語について説明したわけだが……この転生には、ちょっとした問題点も存在している。
前世で問題を起こした人間が、炎上やファンたちからの叩きから逃亡するためにVtuberへと転生すること。言わば、魂のロンダリングという奴がそれだ。
実を言うと、これもまた珍しい話ではない。
異性関係の問題が発覚してタレントとして活動出来なくなった。または、不適切な発言や言動が原因で配信者としてやっていけなくなってしまった。そんな人物が過去の罪を捨て去り、新たな人格と容姿を得て再出発するための逃げの場として、Vtuberが使われていることも少なくはないのだ。
前世の炎上度合いにもよるが、そういった転生を果たした人物の中には過去の失敗をファンたちに受け入れられ、新たな門出を祝福されつつ今も人気を博しているVtuberとして活動している者も結構いる。
が、しかし……前世の失敗はアンチにとっては格好の叩き材料であり、事あるごとにそれを引き合いにして炎上を加速させようとする者がいることもまた事実であった。
そして、何よりの問題点が、今回の零が巻き込まれてしまった『勘違いによる前世の特定』という奴で、これは非常に面倒な事態を引き起こす要因となっている。
声が似ている、話の内容から大まかな住所や趣味が一致しているといった要因からそのVtuberの前世と思わしき人間を特定した人物がそれを公表するまでは珍しくもないことだが、それが間違っているということもまた往々にして有り得ることだった。
零の場合、持ち上げられた前世が極悪な人物であり、しかもそれが間違った情報だということが大きな問題になっているのだが……何よりも厄介なのは、先に述べた通り、零自身がこの問題について触れることが出来ないということだ。
触れることが出来ないということは否定も出来ない。否定出来ないということはこの炎上に対する鎮火を行えないということであり、アンチたちはそれ見たことかと『蛇道枢=ついすとこぶら』説を真実であるかのように語り続けることが出来てしまう。
無論、【CRE8】側がこの問題に関して声明を上げることは可能だし、そうしてもらうつもりではあるのだが……薫子と相談し、声明文章を考え、それを公表するとするならば、どう考えても本日の午後までは時間がかかってしまう。
それまでの間、アンチに好き勝手言われてしまうことに対して怒りを募らせていた零であったが、そこであることに気が付き、はっとしてPCの電源を入れた。
「やっべぇぞ。この時間は、確かあの人が配信してたはずだ……!!」
現在時刻、朝の7時半。人々が起床し、仕事場や学校に向かう中、とあるVtuberが配信を行っていた。
【CRE8】所属のVtuberである彼女が、その配信の中でファンたちから零の前世についてコメントを求められる可能性は十分にある。
そうなった場合、炎上が彼女にまで飛び火してしまうのではないか……という懸念を抱いた零がその配信ページを開いてみれば、丁度のタイミングで始まった朝活配信で、その主役となるVtuberが口にした始まりの挨拶が耳に響いた。
『はいた~い! みんな、おはようね~!!
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