はいたい、沖縄娘


『悪いね~、零。折角休んでたところを呼び寄せちゃってさ』


「いや、いいっすよ。別に予定があるわけでもないですし」


 ある日曜日、自宅で暇を持て余していた零は、薫子からの急な呼び出しを受けて寮の入り口に向かっていた。

 話によれば買い物で男手が必要とのことで、車を回すから付き合ってほしいとのことだ。


 別段、急ぎの用事もなかった零はその頼みを引き受け、こうして建物の前で薫子のことを待っている真っ最中である。


 電話を切ってから数分、そろそろ到着してもおかしくない頃合いだが……と、周囲を見回してそれらしき車を探してみれば、黒いワンボックスの社用車がゆるゆるとこちらに近付いて来る様が目に映った。

 恐らくはあれが薫子の運転する車で、大きめの車を選んだということはそれなりに買う物があるのだろうなと予想する零の前で、ゆっくりとその車が停車する。


「お待たせ! さ、乗った乗った!!」


 窓から顔を出した薫子に促されるまま、後部座席へと乗る零。

 広めの車の中へ足を踏み入れ、運転席の薫子に声をかけようとした彼は、そこで助手席にもう1人の影があることに気が付き、出しかけた声を喉ギリギリで飲み込んだ。


「はいたい! どうもごめんね~! 私の買い物に付き合わせちゃってさ~!」


「あ、いえ、そのどうも……」


 助手席から半分乗り出した体を振り向かせ、笑顔を見せながら自分へと声をかけてきた女性の反応に面食らい、軽く会釈することしか出来なかった零がぼそぼそと返事を口にする。

 そんな彼からの視線を受けた薫子が、しまったというような表情を浮かべると、慌てて彼女のことを零へと紹介した。


「ああ、ごめんごめん! 言い忘れちゃったね。この子は喜屋武 沙織きゃん さおり、【CRE8】所属Vtuber2期生『花咲たらば』の魂を担当してる人間さ」


「おお? もしかして私がいるってこと、薫子さんから聞いてなかったの~? そっかぁ、それじゃあその反応も当然だよねぇ」


「えっと……喜屋武さん、っすか? もしかして、沖縄出身だったりします?」


「やっさー。まあ、このなまりと苗字で大体予想がつくよね~! 仕事のこととか色々と考えて寮でお世話になることにしたから、同期として、ご近所さんとして、どうぞよろしくね~!!」


 手を差し出し、握手を求めてきた沙織に応えてみれば、彼女はぶんぶんと握った手を振り回しながら太陽のような眩い笑みを見せる。

 マイペースでエネルギッシュな女性だなと、自身が想像する沖縄の人という感じの沙織の性格に若干振り回されつつ、零は自身も彼女へと自己紹介をしていった。


「あ、自己紹介が遅くなってすいません。俺は阿久津零、『蛇道枢』の中の人を担当してます」


「うん、知ってるよ~! 2期生コラボでは絡めなくて残念だったけど、なんだかんだで炎上も収まってよかったね~! 次は一緒に遊ぼうさ~!」


「う、うっす……!!」


 にこにこと笑みを見せながら反応を返してくれる沙織であったが、零はそんな彼女の格好に少しばかり戸惑いを見せていた。

 何を隠そう、今の沙織の服装は、健全な青少年である零にとっては刺激が強過ぎるものなのだ。


 燦々と輝く沖縄の日差しで焼かれた小麦色の肌を露出させている彼女は、まだ夏前だというのにも関わらずノースリーブのタートルネックセーターを着て、肩から腕に至るまでを惜しげもなく晒している。

 しかもそのセーターは所謂『縦セタ』という奴であり、抜群のプロポーションを誇る沙織の体のラインをはっきりと見せつけていた。

 更に更に、助手席に座る沙織は当然ながらシートベルトを着用しており、それが見事に胸の谷間に挟まっているのだ。


 どっかーん、という擬音が響きそうなくらいの巨乳がこれでもかと言わんばかりに強調され、自身の前で揺れていることにドギマギとしてしまう零。

 沙織は、そんな彼の視線と反応から全てを察したのか、からからと快活に笑いながら、いたずらっぽい口調でこう言った。


「お~! やっぱ零くんも男の子だね~! お姉さんの胸に興味津々なのかな~!?」


「うぐぇっ!? い、いや、そんなことは……!!」


「あはははは! 隠さんでだいじょぶよ~! 見られるのは慣れっこだし、そういう初々しい反応は可愛くて好きだからね~!」


 図星を突かれ、気まずさと羞恥を覚えながら必死に首を振る零を笑い飛ばした沙織は、何も気にしてないとばかりにえっへんと胸をはって一層そこを強調する。

 自分より年上の女性が放つ健康的なエロスに零が顔を紅く染める中、女性陣2名は大声で笑うと、思う存分に彼をからかってやった。


「いや~、零もやっぱり男の子なんだねえ! いい反応を見せてくれるじゃないか!」


「薫子さん! そういうこと言うの止めてくださいよ!」


「恥ずかしがることないさ~! 男の子はみんな、大きなおっぱいが好きになるもんだからね~!!」


「喜屋武さっ!? ちょ、これ、逆セクハラとかになるんじゃないっすか!? 社長として、どう考えてるんすかね!?」


「おおっと!? 痛いところを突くじゃないか。これ以上からかって所属タレントから訴えられてもマズいし、そろそろ出発しようか!」


 顔を真っ赤にしながら逆襲を始めようとした零の反応を受けた薫子が、適当に誤魔化しながら車を発進させる。

 とんだサプライズから、年上の女性2人にからかわれるというえらい目に遭った零であったが、同時に眼福でもある光景を目に出来たことに少しばかり感謝しながら、それでも憮然とした表情を浮かべて、彼女たちの買い物に付き合うのであった。

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