2部・転生ってめんどくせえ!
やっぱり、炎上からは逃げられない
「……ああ、今日もいい天気だなぁ……!!」
カーテンを開け、外から差し込む眩しい日差しを浴びた零が誰に聞かせるわけでもない独り言を呟く。
清々しい朝の訪れと、窓の外に見える慌ただしい日常の風景に笑みを浮かべた彼は、そっとベッドに腰掛けながら物思いに耽っていった。
「最近、毎日が充実してるな。チャンネル登録者も増えて5万人も目前だし、有栖さんともいい感じに絡めてる。厄介なファンがいることは変わりないが……それでも、一時期に比べりゃあ随分とマシになった方だ」
再び、独り言をぽつり。
デビュー直後のごたごたを乗り越え、有栖という仲の良い同僚を得た零の日々は結構順風満帆という奴であり、その生活に比例するようにして蛇道枢としての活動も充実している。
暖かいコメントが増え、収入が増え、出来る企画や配信の内容が増え……そうやって出来ることが増えている最近は、次にどんな配信をしようかと考えるのが楽しくて仕方がない。
問題もないわけではないが、それと同じくらいにやり甲斐がある仕事だ。
前向きに、好意的に、Vtuberとしての活動を捉え始めた零は、しきりに頷きながら、窓の外に向けていた遠い眼差しを部屋の中へと向ける。
「さ~てと、独り言はここまでにしてっと……取り合えず――」
遠く、物悲し気な眼差しを、窓の外からサイドボードへと……その上に置いてあるスマートフォンへと向ける零。
明るい内容であるはずの独り言に反した、非常に無機質な笑みを浮かべている彼は、自分の仕事用のスマートフォンを見つめながら、小さく呟く。
「――
通知、通知、通知、通知……止まることのない通知が、事の異常性を物語っている。
昨日の夜に配信を終わらせた時には普通だったのに、今朝方から急にこんな騒動が巻き起こっていることに一種の諦めを抱きながら、久々に送られてくる暴言メッセージを目の当たりにしながら……自嘲気味な笑みを一瞬だけ浮かべ、即座にそれを哀しみたっぷりの表情へと切り替えた零は、寝室のベッドの上で悲痛な叫びを上げた。
「また……炎上かよぉぉぉっ!?」
原因は不明。心当たりもない。
昨日の配信で何か失言をしたかとも思ったが、特にそれらしい発言は思い当たらない状況だ。
いったい、自分が何をしたというのだ?
最近、ようやくデビュー直後の大炎上を乗り越えて【CRE8】のファンたちからも受け入れられるようになってきていたのに……と、ベッドの上でがっくりと蹲りながら自問自答と非情な世の中への怨嗟の言葉を心の中で繰り返していた零であったが、持ち前のメンタルの強さを見せるかのように、その痛みから立ち直ると通知を伝え続けているスマートフォンを手に取った。
「とにかく状況の確認だ! 謝罪するにしろなんにしろ、問題がわからねえと対処の仕様がない!!」
既に自分は一度燃え尽きた身。最早、これから先何度燃えようとも怖いものは何一つとしてない。
むしろ、男であるというだけで盛大に叩かれた最初の炎上に比べれば、自分に非があるであろう今回の炎上は納得して受け入れられるというものだ。
大丈夫、自分は思ったよりも落ち着いている。ここから手の打ち方を間違えなければ、大きな問題にはならないはずだ。
そう自分に言い聞かせ、SNSのダイレクトメッセージを開いた零が目にしたのは、最初の炎上を超える勢いの罵倒の数々であった。
【とっとと引退しろ、犯罪者!】
【お前みたいなクズがVtuberやってるかと思うと吐き気がする。死ね】
【芽衣ちゃんに妙な真似したら〇す。他のVtuberに手を出しても〇す】
「う~んと……? 犯罪者ってなんのことだ? 俺、そんなヤバい発言したか?」
送られてきているメッセージの数はそう多くはないが、その分、発言には途轍もない過激さがあった。
犯罪者め、引退しろ。推しに近付くな。女性タレントに手を出したら〇す……そんな刺激的な文字が踊るメッセージを確認し、ここ最近の自分の発言を振り返った零は、ファンたちから犯罪者呼ばわりされるような行動を自分がとっていないという確信を得ると共に、ある予感を抱く。
「うん、うん……そうか、こういう感じかぁ……!」
スマートフォンを手に、寝室を出る零。
今にも泣き出したくなるような気持を抑え、足早に配信部屋でもある防音室へと向かった彼は、しっかりとそのドアを閉め、大きく息を吸い込み、そして――
「誤解だっつーの!! 俺、なにもしてねえよーーっ!!」
――本日2度目の、悲痛な叫びをあげるのであった。
――――――――――
章のタイトルを空白にしているのはわざとです。
何を題材にしているかを明示した後で変更させていただきます。
まあ、もうこの時点でわかっていらっしゃる方も多いでしょうけどね(笑)
それと更新頻度に関しては期待しないでください!
1部の時のような1日に何話も連続投稿! っていうのは絶対無理です! 毎日投稿すら怪しいです!
というわけで諸々の事情をご容赦頂きつつ、2部のお話を楽しんでいってください!
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