セクハラ、あるいはストーカーの被害
「セクハラ? ファンからダイレクトメッセージでかい?」
「はい……」
翌日、突然に有栖から求められた薫子は、多忙な中でどうにかして時間を作り、社長室で彼女と話をしていた。
有栖が切り出した相談の内容に眉をひそめつつ、状況を把握したいと視線でそう彼女へと告げてみせれば、有栖は懐から仕事用のスマートフォンを取り出し、とあるユーザーからのダイレクトメッセージを表示してみせる。
「最近、こんなメッセージが毎日のように送られてきてて……」
「拝見するね。えっと……?」
受け取ったスマートフォンの画面に映し出される文面と、それと同封されている画像を目にした薫子が、わかりやすいくらいにドン引きの表情を浮かべる。
ある程度の社会経験を積み、年齢もそこそこである彼女ですら口に出すことを憚れるその内容に顔を青くしながら、薫子は心の中でそれらを読み上げ、確認作業を行っていった。
【芽衣ちゃん、とっても可愛いねえ。ベッドの上ではもっと可愛い姿を見せてくれるんだろうなぁ……】
【ほら、見てよ僕のおち〇ぽ! 芽衣ちゃんは体も小っちゃいだろうから、きっと簡単に奥まで挿っちゃうだろうね!! 壊れないか心配だね、芽衣ちゃん!】
【今日は芽衣ちゃんを想って4回も抜いたよ! 芽衣ちゃんは何回シたのかな? こっそり教えてよ!! ねぇ!?】
【芽衣ちゃん芽衣ちゃん芽衣ちゃん……! 会いたいよ芽衣ちゃん……!! 今度2人で会おう! それで、お布団の中で僕たちの愛を確かめ合おう!!】
【僕が芽衣ちゃんのご主人様になってあげる。芽衣ちゃんにはMの資質があるから、きっとすぐに気持ちよくなれるよ!】
「あ~、う~……これは、なんとも……」
強烈、その一言に尽きるセクハラメッセージの数々と、それに同封されている画像にうんざりとした気分を抱える薫子。
この文章だけでもドン引きなのに、それに加えてメッセージの送り主は丸めたティッシュや興奮で大きくなった自分の息子の画像を添付してきており、グロテスクなそれは薫子でさえも見ていて気分が悪くなるものだ。
一定の日数が過ぎると別アカウントに切り替わり、そこからも似たような文面と画像が送られていることから察するに、既に有栖は何度もブロックやミュートを繰り返したのだろう。
しかし、その度に新しいアカウントを作り、粘着質なセクハラ行為を続けるこの送り主の羊坂芽衣への執念に不気味さを感じた薫子は、段々と過激になっていくメッセージの内容にとある人物の名前を見つけて顔を顰める。
【芽衣ちゃん、蛇道枢なんかと付き合っちゃ駄目だ! あいつは芽衣ちゃんを気遣うふりして、いつか君を襲うつもりんなんだよ! 悪いことはいわない、早く縁を切るんだ!】
【今日は芽衣ちゃんを想って10回もオ〇ニーをしたよ! ザー〇ンもいつもよりいっぱい出たんだ! これが僕の君への想いさ! 蛇道なんかより、僕の方が君を愛してる!!】
【芽衣ちゃん、芽衣ちゃん……! あんな奴に君の処女が奪われるかと思うと気が狂いそうだ! 早く僕に君の純潔を捧げてくれ!! 君の中に僕の遺伝子をぶちまけ、君を僕のママにしたいんだ!!】
「有栖、こいつ――」
「はい。この人、私が枢くん……零くんとコラボした後には、必ず普段より過激なメッセージを送ってくるんです。タガが外れたっていうか、そういう感じになったのも初コラボが終わってからで、それまでは少し気持ちが悪いけど、どうにかしようとまでは思わなかったんですが……」
Vtuberのようなタレント活動をしている人間には、多かれ少なかれ『ガチ恋勢』と呼ばれるファンが付くものだ。
その名の通り、推しである相手に本気で恋をしてしまった人間のことを指すその名称だが、ガチ恋勢の中でもネタで済む者とそうではない厄介な相手の2つが存在している。
先日の入院騒動の引き金となった事件を起こしたアルパ・マリも、羊坂芽衣とは同性でありながら彼女に巨大過ぎる好意を寄せており、その好意が暴走したが故に事件を引き起こしてしまったことを考えると、彼女も厄介なガチ恋勢に分類されることになるだろう。
しかし、今回の相手はそれに輪を掛けて酷いもので、恋愛感情と同居している性欲を芽衣こと有栖にぶつけていることが問題だった。
「相手の方は何度もアカウントを停止されてるみたいなんですけど、その度に作り直してこういうことをしてるみたいで……もう、私の方で取れる対策は取り尽くしてしまったんです……」
「う~ん、そうだろうねえ。違法行為の通報にブロックとミュート、それ全部を何度したところで向こうはアカウントを作り直すだけで解決しちゃうんだから、いたちごっこにしかならないもんねえ……」
「どうにか、方法はありませんか? 頑張ってみてはいるんですけど、そろそろ限界が近くて……」
そう、申し訳なさそうに語る有栖の憔悴した様子を見つめる薫子の心の中で、彼女を苦しめている男への怒りが募っていく。
相手が何も言い返さないのをいいことに、どんどんエスカレートしていく欲望をか弱い少女にぶつけるなど言語道断だと、どうにかして相手を処罰してやりたいと思う薫子であったが……それが難しいということを重々理解している彼女は、感じている苛立ちを押し殺すと共に冷静に有栖との話し合いに臨んでいった。
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