短編 インターネットセクハラってめんどくせえ!

一難去って、また一難

必須タグとして性描写ありのタグを付けさせていただきましたが、登場キャラたちがそういった行為をする予定はありません。

また、この短編にはやや過激で不快感を催す表現があるかもしれませんので、苦手だと思った方は無理をせずにブラウザバックをしてください

――――――――――




「はい。それじゃあ今日の配信はここまでにしますね。皆さん、いい夢をみてください。おつめいでした~」


【おつめい~! 羊数えておやすみなさいするよ~!】

【芽衣ちゃんの声のお陰でぐっすり眠れそう!】

【おつめいでした! 次の配信も楽しみにしてますね!!】


 マイクを切り、配信のED画像を出して、暫しの休息。

 リスナーたちからのお疲れ様のコメントを眺めて微笑んだ有栖は、小さな達成感を味わいつつ配信を切る。

 そうして、ふわぁと可愛らしく口を開け、これまた可愛らしいあくびをした彼女は、ぷるぷると頭を振るとPC画面に映る時計を確認した。


「0時ちょっと前、か……少し長く配信し過ぎちゃったかな?」


 現在時刻、23時57分。

 22時から始めた雑談配信は思ったよりも盛り上がり、予定を30分ほどオーバーしての終了になってしまった。


 話をしている間はわからないものだが、こうして配信を終えて冷静になると、押し寄せる眠気によって自分が想像以上に疲れているということに気付かされる。

 欲望に正直になるならばこのまま眠ってしまいたいところではあるが……有栖にはあと少し、やらなければならないことがあった。


「次の配信のサムネイル作りと、資料の確認。それと、夏に備えての新衣装の要望を纏めておかなきゃ……」


 Vtuberとしての活動は数時間の配信だけではなく、その準備も含めたものが仕事として存在している。

 次にどういった企画を行うか? サムネイルはどうするのか? また、長期的な活動を行うならば、季節感を感じさせる衣装や節目節目の記念配信などの祝い事に関しての物事も早めに決めなければならない。

 そこに、他者とのコラボレーションが加わると、更に打ち合わせや企画の擦り合わせで時間が取られることになるわけで……思っている以上に、有栖には羊坂芽衣としてやらなければならないことが多いのだ。


 事務所での打ち合わせ等のために外出することを除けば基本的に家にいる有栖だが、時間が無限というわけではない。

 今はソロ配信が主体で、時折都合を合わせて蛇道枢こと零とコラボを行う程度の活動しか行っていない彼女だが、これから順調にステップアップしていけば、大人数コラボや大掛かりな企画への出演、案件配信などの仕事も割り振られていくことになるだろう。


 そういった部分に関しての話はまだまだ先かもしれないが、自堕落な生活を送り続けて忙しくなってきた時に体がついて行かないなんてことにはなりたくはない。

 やるべきことはやる、それに加えて、出来る限り規則正しい生活も送る。

 どっちもやらなきゃいけないのがVtuberの辛いところだな……と思いつつ、再び大きなあくびをした有栖は、取り合えず次の配信で使うサムネイルだけは完成させてしまおうと考え、画像ファイルを起動しつつ席を立った。


「シャワー、浴びてこよう……」


 頭をぼやけさせる眠気を覚ますためにも、1度熱いお湯を浴びてしゃっきりとしてこよう。

 そう考え、風呂場に向かった有栖が、着ている衣服をゆるゆるとした動きで脱ぎ捨てていく。


 羊坂芽衣の衣装に似た白いふわふわとした質感のパジャマを上下共に脱ぎ捨て、その下に着ていたインナーシャツも脱ぎ、凹凸の少ない胸を隠すブラを外そうとした有栖であったが……不意に画面を光らせたスマートフォンが、Twitterにダイレクトメッセージが送られてきたことを告げる様を目にして動きを止めた。


 少しだけ表情を硬くした彼女は、暫し悩んだ後でスマホを取り、送られてきたメッセージを確認する。

 そして、そのダイレクトメッセージの送り主が予想通りの人物であることと、文面と共に送られてきた画像を目にした彼女は、大きな溜息を吐くと脱いだ服を着直して、ベッドへと潜り込んでしまった。


「もう、いやになっちゃうなぁ……」


 ベッドの中で愚痴を零した有栖は、触るのも汚らわしいといった様子で遠くに置いた自分のスマートフォンを見つめ、それが再び画面を光らせている様に再び溜息を吐く。

 一難去ってまた一難とはよく言うが、まさかこんなにも早くに新たな問題が噴出するとは思ってもみなかった彼女は、取り合えず今は嫌なことを忘れて眠り、明日から対策を立てようと考え、瞳を閉じた。

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