決定、コラボ配信
「コラボ、配信……? え、ええっ!?」
突拍子もないことを言い出した薫子の言葉に、驚きを隠せない零。
大声を出してしまった彼に向け、薫子はテーブルの上に身を乗り出すようにして語り掛ける。
「いきなりの発表で悪かったね。でも、今のあんたたちには必要なテコ入れかな~、って」
「な、なんすか、それ? どうしてそんなことになったんですか?」
動揺を隠し切れず、一度水を飲んで心を落ち着かせた後で零がそんな質問を投げかけてみれば、椅子へともたれ掛かった薫子がこんな答えを返してきた。
「なに、あんたは言わずもがなだけど、こっちの有栖こと羊坂芽衣にもそこそこ問題があってね。見ての通り、この子は緊張しいで、配信で上手く話が出来ないんだよ。褒められるのも慣れてないし、一度パニックになるとしっちゃかめっちゃかになる。それが可愛いっていってくれるファンのお陰でどうにかなってるけど、今後のことを考えるとこのあがり症をどうにかしておきたいっていうのが本人の希望でね……」
「それはまあわかりますけど、どうしてその解決方法が俺とのコラボなんですか?」
あがり症を克服したいという気持ちはわかる。だが、どうしてそのために自分こと蛇道枢とのコラボが必要なのだろうか?
今現在、大絶賛炎上中の自分が、女性Vtuberと絡むというのはハードルが高い。それも、2人きりとなればなおさらの話だろう。
こういう場合って、最初は同性の同業者と絡んで、徐々にステップアップしていくものではないのだろうか?
どうしていきなりベリーハードを超えたナイトメアモードの難題に挑戦させるのかという零の疑問に対して、薫子は笑顔でこう語る。
「そりゃあ、超えるべきハードルは高い方がいいだろう? 成功すれば普通にいい経験になるし、失敗してもあの時よりはマシだっていう度胸が付くじゃないか!」
「ああ、さいですか……」
要するに自分は生贄なのかと、引き攣った笑みを浮かべながら答える零。
確かにまあ、大火事どころか大噴火中の自分とのコラボを経験すれば、ちょっとやそっとじゃ気が動転しなくなるくらいの度胸は付くかもしれない
その代わり、自分は新たな燃料が投下されて更に炎上する羽目になると思うが……という零の心配を笑い飛ばすかのように、快活な笑みを浮かべた薫子が大声で言った。
「大丈夫! ここでばっちり有栖をフォローすれば、ファンたちのあんたを見る目も変わるって!! ピンチはチャンス、ってことでさ! いっちょやってみなよ!」
「まあ、俺は別に構わないですけど……」
一応、薫子の提案を了承しながら、零はちらりと横目で有栖を見やる。
炎上に炎上を重ねた今、自分は最早無敵の人とでもいうべき存在になっているから何も怖いものはないが、そんな自分とコラボして彼女は大丈夫なのだろうか?
あがり症の克服は必要かもしれないが、こんな危険な博打に出る必要なんて……と、考えていた零であったが、その耳にはっきりとした有栖の声が響く。
「わ、私……! やってみたい、です。蛇道さんとのコラボ配信、やります!!」
それは、意外なまでに強く言い切った賛成の言葉だった。
これまでずっとおどおどして、自分と目を合わせることすらしなかった有栖が、ここまできっぱりとコラボ配信に対する賛成の弁を述べたことに驚く零に向け、やや躊躇いがちにこちらを向いた彼女は、震える声で言う。
「あ、あの……ご迷惑をお掛けするかもしれませんが、どうかよろしくお願いします! 私、精一杯頑張りますから!!」
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